お祈り
「……おぉ、なんかすげえなぁ。こう、なんか神さまがいるって感じの」
「……いや、語彙力なさすぎでしょ。まあ、言いたいことは分からないでもないけど」
「そうですね、笹宮くん、桜野さん。とても神秘的な雰囲気で、空間全域が神さまのご加護に包まれているように感じます」
それから、一時間ほど経て。
鮮やかな朱の灯籠が並ぶ石造りの階段を、和やかに会話を交わしゆっくり歩いていく僕ら。笹宮くんの言うように、本当に神さまがいらっしゃるような神秘的な雰囲気があって。
さて、僕らがいるのは貴船神社――高龗神という水を司る神さまがおはする由緒ある神社で、起源は不詳ながらも残っていた記録から1300年前には既に存在していたとのことで……うん、なんだか改めて身の引き締まる思いがします。
「……へぇ、絵馬ってここが由来だったんだな」
その後も、他愛もない会話を花を咲かせつつ階段を登り本殿に到着――そして、その前にある二頭の馬の像を眺めつつそう口にする笹宮くん。そんな彼の無邪気な笑顔に、僕までなんだか微笑ましく……いや、どういう立場なんだという話ではあるけども。
ともあれ、二頭の馬――黒馬と白馬はかつて願う天候に応じ奉納されていたとのこと。雨が降るのを願う際には黒馬、止むのを願う際には白馬が奉納されていたとのことで。そして、当初は生きた馬を奉納していたのだけど、時代を経て代わりに馬を描いた板を奉納するようになり、それが僕らの良く知る現在の絵馬になったとのことで……うん、こういうエピソード一つ取っても悠久の歴史を感じ、ぐっと畏敬の念が込み上げてくるわけでして。
「――そんじゃ、お祈りしようぜ灯里、三崎。神社なんだし、やっぱこれなしじゃ帰れねえだろ」
その後、ほどなく朗らかな笑顔でそう口にする笹宮くん。まあ、神社と言えばそうだよね。ともあれ、そんな彼に桜野さんも僕も微笑み頷く。
「……えっと、ここでのご利益は……えっ、縁結び!?」
すると、ハッと声を上げる笹宮くん。そう、ここ貴船神社の主なご利益は縁結び。と言うのも――昔々、平安時代の和歌の名手たる女性、和泉式部が夫との復縁を願い無事叶ったというエピソードに由来していて。……まあ、それはともあれ――
「……じゃ、じゃあ祈るか。あっ、言っとくけどお前らもだからな!」
「……へっ? ……あ、はい……」
すると、ビシッとこちらを指差しそう言い放つ笹宮くん。……うん、きっと恥ずかしいんだろうね、一人でお祈りするのが。
ともあれ、桜野さんと顔を見合わせ頷く。まあ、断る理由なんてないしね。そういうわけで、再び本殿へと足を――
「……ねえ、三崎。その、あんたは……いや、やっぱ何でもない」
「……? あ、はい……」
すると、何かを言いかけたものの自身で引っ込めてしまう桜野さん。……なんだろう? 大いに気になるところではあるけれども……でも、詮索するのも良くないしね。




