夏祭り
「――改めてですが、突然お伺いしてすみません奏良先輩。少々、驚いていただきたかったもので」
「いえ、お気になさらず。久方ぶりに白河さんにお会い出来て本当に嬉しいので、このような驚きなら大歓迎です」
「……お、おぉ、なかなかに直球ですね……」(……いや、桜野先輩にもその感じでいけば良いのに……)
「……ん?」
「いえ、何でも」
それから、20分ほど経て。
そんなやり取りを交わしながら、賑わう人混みの中を歩いていく僕ら。……ところで、最後の方はいったい何と……まあ、別に良いか。自身で引っ込めたことをいちいち詮索するのも野暮というものだろうし。
ともあれ、今いるのは個性豊かで魅力的な屋台の並ぶ大通り――毎年、ここ沖縄にてこの時期に開催されるエイサー祭りという催し物の会場で。
「ときに奏良先輩。桜野先輩と言えば、この間に何度かお会いしたりはしたのですか?」
「……あの、白河さん。僕の記憶違いで無ければ、ここまでに桜野さんのお名前が出てきた記憶が……いや、まあいっか」
その後、歩みを進めつつ隣からそんな問いを掛ける白河さん。これまでのどこに彼女の名前が出てきたのかは気になるけど、それはともあれこの間とは夏休みの間のことで間違いないだろう。なので――
「……その、実は一度もお会いしていなくて……」
「嘘でしょ!? かれこれ一ヶ月もあったのに!? いったいこの間何をなさって……いえ、ご事情も聞かずにあれこれ言うのは良くないですね。ひょっとして、桜野先輩もご帰省なさっているとか?」
「……いえ、恐らくは沖縄にいるものかと。そのような予定はないと、ご友人との会話で偶然耳に――」
「いやご事情も何もなかったよ!! あと、今の話だと会話をしてる気配すらほぼないんですけど!!」
すると、僕の返答に唖然とした表情で捲し立てる白河さん。とりわけ、最後の方はもはや信じられないといった表情で……いや、まあ、その……ごめんなさい。
「……あの、一応の確認ですが……桜野先輩からも、一度の連絡もなかったのでしょうか? あっ、もちろん先輩から連絡していないのは前提として」
「おや、それは分かりませんよ? ひょっとすると僕の方から連絡をした可能性も――」
「あるんですか?」
「……いえ、ありません」
すると、未だ唖然とした様子でそう問い掛ける白河さん。そして、どうやら僕の方からという可能性は微塵も想定していないようで……まあ、妥当だけども。
「……えっと、質問の答えですが……その、当然なから桜野さんからの連絡も一度もなく……」
ともあれ、少したどたどしく告げる。……まあ、何も驚くことではなく。そもそも、彼女が僕に連絡する理由がないわけで。それこそ、僕と友達になってくれたこと自体、未だに大いに驚きで――
(……うーん、先輩は言わずもがな、桜野先輩も思いの外奥手のようですね)
「……ん?」
「いえ、何でも」
すると、そっと頤に指を添え何かを口にする白河さん。だけど、またしてもその内容は聞こえず……ひょっとして、僕の悪口? まあ、だとしても仕方がな――
「…………へ?」
刹那、思考が止まる。と言うのも……先ほどまで何かを思案していた様子の彼女が、不意に顔を上げさっと僕の手を取ったから。……えっと、突然どうし――
「――うん、色々と考えるのはやっぱり止めにしようかなと。折角、久方ぶりに奏良先輩に会えたのですし」
「……白河さん」
すると、パッと笑顔で告げる白河さん。あどけなく可憐で、息を呑むほどに綺麗な笑顔で。色々と何を考えていたのかは、僕には知る由もないけれど……でも、別にいい。当然のこと、彼女が楽しいのなら何の問題もないのだし。




