視線
「…………ふぅ」
それから、二日後の朝のこと。
通学路にて、立ち止まり呼吸を整える。……いや、今からこんなんじゃ放課後まで保たない気もするけど……それでも、どうにも鼓動が収まらなくて。
ところで、白河さんは今、隣にいない。普段は一緒に登校しているのだけど、今日は寝坊してしまい、恐らくは遅刻してしまうので一人で先に行ってほしいとのことで。僕としては、一緒に遅刻しても一向に構わないのだけど……でも、それだと彼女が気を遣ってしまうだろうし……それに、今日は少し顔を合わせづらい事情もあって。
そういうわけで、一人で通学路を歩きつつ頭を巡らせる。話したいことがある――二日前、屋上にてそう言っていた桜野さんの件で。そして、約束は今日の――
「…………ん?」
ふと、顔を上げ周囲を見渡す。今、校門の近くまで来ているのだけど……どうしてか、そこかしこから生徒達の視線を感じるからで。
「……あの、すみま……あっ」
それから、ほどなくして。
昇降口にて、おずおずと話し掛けてみる。近くでじっと僕を見ていた、一組の男女生徒へと。だけど、何も答えることもなく去っていき……えっと、どゆこと?
だけど、そんな反応は今のお二人に限ったものではなく……いや、視線を感じること自体は今までもなかったわけじゃないないんだけど……何と言うか、今日のまるで別の類の――
「――ちょっと来てくれ、三崎」
「――へっ?」
そんな疑問の最中、不意に手を引かれただただ呆気に取られる僕。……えっと、その……どゆこと?
「……悪いな、三崎。急にこんなとこまで引っ張ってきて」
「あっ、いえお気になさらないでください!」
それから、数分経て。
そう、申し訳なさそうに微笑み告げる端整な少年。そして、そんな彼に少し慌てて答える僕。突然のことで驚きはしたけど、謝る必要なんてない。それよりも――
「……それで、どうかしましたか? 笹宮くん」
そう、控えめに尋ねる。今、僕らがいるのは非常階段の踊り場。その名の通り普段は誰も使用しないので、当然のこと周りには人ひとりいない。なので、わざわざこのような場所に連れてくるということは、きっとなにか重大な話があるということ。……そして、もしかするとそれは、今日の異質な状況に関係が――
「……なあ、三崎。これって、ほんとなのか?」
「………………へ?」
すると、じっと僕を見つめ尋ねる笹宮くん。そんな彼が差し出したのは、スマホの画面。そこに映るは、それぞれ馴染みの制服を纏った一組の男女が二階建てアパートの一室へと入っていく光景。そして、そんな画像と共に記されていたのが、その男女――三崎奏良と白河冬雪がセフレの関係にあるという内容で。