黄昏色の屋上で
「……なんか、久しぶりね。ここに来る……あっ、ごめん」
「あっ、いえお気になさらず! ……その、桜野さんとまたここに来られて嬉しいです」
「……ふふっ、なにそれ」
それから、ほどなくして。
黄昏色の空の下、フェンスの前に立ちそう口にする桜野さん。謝罪の理由は……まあ、確認するまでもないよね。一応、僕が振られた場所だからで……いや、振られたのかな? そもそも、それ以前の問題だった気も……まあ、何でも良いか。今、こうして一緒にいられることが大切なんだし。
さて、今いるのは学校の屋上――もはや説明不要かもしれないけど……以前、桜野さんに告白すべく来ていただいた場所で。……うん、確かに久しぶりかも。
「……ところで、どうだった? 三崎」
「へっ?」
「ほら、今日のこと。……あたしと一緒でも、楽しかったかってこと」
「……へっ? あっ、もちろんです! その、気遣いなどではなく本当に楽しかったです!」
「……そっか。うん、それなら良いけど」
その後、こちらに顔を向け尋ねる桜野さん。言わずもがな、桜野さんと一緒で楽しくないはずなどないのだけど……それでも、これほど躊躇いがちなのは笹宮くんとのことがあるからだろう。僕が笹宮くんのことを気にして、純粋に楽しめなかったんじゃないか――きっと、そのような懸念を抱いているのだろう。
そして、だとするとそれは半分は当たっていて。確かに、笹宮くんのことは気に掛かっていた。申し訳ないという気持ちはあった。それでも……我ながら現金だとは思うけど、やっぱり桜野さんとの時間が楽しくないわけがなくて。
……ところで、そのことを聞くためにここに? もちろん、僕はそれでも全く以て良いんだけど……でも、たぶん違う。いや、これも理由の一つではあるのだろうけど、きっと――
「……ねえ、三崎。ずっと聞きたかったんだけど……なんで、あたしと友達になりたかったの?」
そう、身体ごとこちらへ向き真っすぐに尋ねる桜野さん。そして、流石に分かる。これが、本題だということ――そして、この場所におけるこの問いの意味も。なので――
「……その、一目惚れ、でしたので」
「……っ!! ……そ、そっか……」
少し呼吸を整え、どうにか目を逸らさず答える。すると、桜野さんの方がさっと目を逸らし……うん、そうなるよね。急にこんな恥ずかしいこと言われたら。
だけど、これ以外に適切な返答なんてなく。……あれは、一年生の春――入学からほどない、あるお昼休みのこと。ふと踊り場から聞こえたのは、どうやらクラスメイトらしい男子生徒に対する悪口。具体的な人数までは分からなかったけど、男女複数の声のようで。
すると、ふと視界に映ったのは一人の女子生徒。毅然とした様子で声の方向――踊り場へと向かっていく、萌黄色の髪を纏う鮮麗な少女で。そして、どうしてか僕もこっそりと踊り場の方へ……うん、我ながらほんと気持ち悪いね。
ともあれ、階段の壁に身を潜め状況を窺う僕。後方から多少なりとも痛い視線を感じるけど……うん、通報とかしないでね? お願いですから。
ともあれ、状況をじっと見つめる。すると、ほどなく少女は言い放った。奨斗を悪く言うな――そう、複数の相手にもまるで怯えることなく言い放った。そんなお姿が本当に凛々しく、我を忘れただただ茫然と見蕩れていて……まあ、桜野さんは僕が見ていたことなんて知らないだろうし、その方が良い。実は見ていたなんて知られたら、きっと気持ち悪いと思われ――
「……ねえ、三崎。その……あたしも、ずっとあんたと話したいと思ってたの」
「………………へっ?」