意外と苦手?
「……なんか、本格的じゃない?」
「そうですね、桜野さん。昨日も驚きましたが、今も改めてすごいなぁと思……あっ、いえ……」
「……ああ、そうだったね。三崎は昨日も来たんだもんね、すっごく可愛い女の子と」
「……あ、はい……」
それから、ほどなくして。
仄かな明かりのみの暗い室内にて、すぐ隣からひんやりとした声が届く。この冷や汗は、きっとこの空間だけが理由ではなく……うん、余計なこと言わなきゃ良かった。でも、一度来てるのに初めて来たような反応もそれはそれで不自然か。
ともあれ、少し気まずさを感じつつゆっくりと暗がりを歩いていく。……うん、やっぱり怖い。昨日は途中から違う意味で怖かったから少し印象が薄れてしまっていたけれど、そもそもこのお化け屋敷そのものが中々に怖くて……うん、ほんとすごいね、一年A組の皆さん。
……ところで、それはそれとして――
「……あの、桜野さん」
「……なに?」
「……あ、いえ……その、大丈夫ですか?」
そう、控えめに尋ねてみる。と言うのも……入館から少し経過して以降、昨日の秋奈さんみたくずっと腕を絡めているからで。ただ、秋奈さんと違うのは、桜野さんは本当に怖がっている様子だということで……もしかして、意外と苦手なのかな? こういうの。
「……うん、なんとか。でも……離れないでね、三崎」
「……はい、もちろんです桜野さん」
すると、そう答えつついっそう強く腕を絡める桜野さん。そんな彼女の感触に、温度にいっそう鼓動が速くなる。そして、改めて思う。……やっぱり、僕は――
「――みんな、ほんとお疲れさま! この二日間、みんなのお陰ですっごく楽しかった。ほんとありがとう!」
それから、数時間後。
未だ可愛い装飾の残る二年B組の教室にて、明るくそう告げるのはボブカットの女子生徒、中山さん。そんな彼女に笑顔で応えるクラスの皆さん。……うん、ほんとにお疲れさまです。
さて、メイド喫茶は二日とも大盛況――なので、当然のこと大変そうだったけど……それでも、それ以上に皆さん本当に楽しそうで……うん、ほんと良かった。
その後、ややあって解散――ほどなく教室を出る生徒もいれば、そのまま会話に花を咲かせる生徒もいて。そして、今日は疲れている子もいるだろうし、クラス全体の打ち上げはまた後日ということみたいだけど、中にはそれぞれのグループで今から打ち上げに行く生徒もいるようで。
……さて、どうしようかな。一応のため今日はバイトは入れていないので、この後の予定は特にない。白河さんの方はまだ分からないけど……まあ、いずれにせよまずは連絡を――
「――ねえ、三崎。悪いんだけど、まだちょっと時間ある?」