折衷案?
「――ところで、今更ながらどうでした? 奏良先輩」
「……へっ?」
「ほら、私の幽霊姿ですよ。どのような印象を持たれました?」
「……ああ」
その後、ほどなくして。
個性豊かな屋台の並ぶ石畳を歩きながら、楽しそうに微笑みそう問い掛ける白河さん。今はもう、お怒りは収まっているご様子で……ふぅ、良かった。
さて、問いに答えなければ。……どんな印象、か。我ながら拙い表現だとは思うけれど……それでも、真っ先に浮かんだのは――
「……そう、ですね。趣旨を考慮すると、あまり適切な感想ではないと思いますが……すごく、綺麗でした。尤も、いつも綺麗ではありますが」
「……そ、そうですか……まあ、怖がらせる立場としては些か不本意な感想ですけども…………ふふっ」
そう伝えると、さっと顔を逸らし呟くように答える白河さん。趣旨を考慮すれば怖かったと言う方が適切だろうし、ある意味ほんと怖かったけど……それでも、真っ先に浮かんだ印象は綺麗という他なかったから。
「それにしても、本当にびっくりしました。まさか、包丁を持って追いかけてくるなんて。偽物と分かっていてもすごく怖かったです。一応お尋ねしますけど、あれってアドリブですよね?」
「ええ、もちろん。お陰さまで、あの後リーダーの子にすっかり怒られてしまいました。あっ、ちなみにあの包丁は山姥を担当していた子から拝借しました。尤も、仰る通り偽物ですけどね」
「……そ、そうですか」
「ええ。ですが、もし包丁が本物だったらついうっかり刺してしまったかもしれませんね。彼女の方を」
「お願いだからそれは止めて!!」
その後、白河さんはカスタード、僕はこしあんのたい焼きを手に歩みを進めつつ尋ねると、花の咲くような可憐な笑顔で返答が……いやそれは止めて!! 刺すならせめて僕にして!! ……うん、聞かなきゃ良かった。それまでの流れとしては自然な問いかと思ったけど、どうやらお怒りはまだ完全には収まってなかったようでして。
ともあれ、そんなちょっぴり怖い冗談以外は和やかな話に花を咲かせる僕ら。……うん、冗談だよね?
……ところで、それはそれとして――
「……あの、どうかなさいましたか白河さん」
「……いえ、なんにも」
そう、逡巡しつつ尋ねてみる。すると、目を逸らしつつそう口にする白河さん。だけど、今回は自身の意思で頑なに逸らしているような印象で……えっと、いったいどうし――
(……別に、戻さなくていいのに)
「……ん?」
すると、ポツリとつぶやく白河さん。全ては聴き取れなかったけど……でも、戻さなくていい、とは聴こえた気が……でも、いったい何の――
「……あっ」
ふと、声が洩れる。すると、それに反応してか逸らしていた目を再び僕へと注ぐ白河さん。……うん、きっとあれだよね。冬雪お嬢さまという、当然ながら初めて口にしたあの呼び方のことで。
でも……うん、恥ずかしい。あの時は、メイドさんになりきっていたのでどうにか出来たけど……でも、今はほんと難しい。さて、どうしたものか――
……うん、片方だけでも良いかな? それなら、なんとか言えないこともない。そういうわけで、深く呼吸を整える。そして――
「……ところでお嬢さま、次は――」
「いらない方を戻してくるな!!」