自由時間
「……さて、どうしようかな」
それから、数十分経て。
そう、ポツリと呟く僕、今いるのは、平時と違い華やかに飾られた廊下。つい先ほど休憩――つまりは自由時間に入り、弾けるような笑顔に溢れた暖かな景色にほのぼのしつつ一人歩いているわけで。
……さて、どうしようかな。白河さんと合流するまでまだ少し時間があるわけだけど、それまではどうし――
「――あっ、奏良さん!」
すると、不意に後方から届いた声。だけど、それほど驚くことでもなく。と言うのも、彼女も来るということは事前に聞いていたので。なので――
「――こんにちは、秋奈さん。本日は、斎叡高校文化祭にお越しくださりありがとうございます」
そう、身体ごと振り向き告げる。すると、可笑しそうにニコッと笑う可憐な少女。そして、お隣には柔和に微笑む端麗な男性。男の人と二人で来るとも言っていたので、彼のことで間違いないのだろうけど……うん、それにしても綺麗な人だ。それに……気のせいか、秋奈さんとどこか――
「――こんにちは、奏良くん。秋奈から話は聞いているよ。僕は山城夏海。大学二年生だよ、宜しくね」
「……あっ、はい! 僕は三崎奏良です! その、高校二年生です。宜しくお願いします、山城さん」
そんな思考の最中、柔らかな微笑のまま丁寧に挨拶をしてくださる山城さん。そんな彼に、僕も慌てて挨拶をする。……しまった、初対面なのにじっと見ていたら失れ……まあ、初対面じゃなくても失礼かもだけど。
「それで、奏良さんは今一人? あっ、馬鹿にしてるとかじゃないよ。ただ、ちょっと気になっただけで……」
「いえ、分かってますよ。秋奈さんが馬鹿にしていないことくらい。そうですね、後で友人と合流する予定なのですが、今は一人ですね」
「……ふうん、やっぱりそっか」
その後、ほどなくそんなやり取りを交わす僕ら。やっぱり、というのは今一人でいることに対してか、それとも後で合流する予定があることに対してか……うん、まあ前者だよね。よもや、僕に文化祭を一緒に回るような友達がいるとは思われていないだろうし。
「それで、奏良くんは……あ、ごめん。ちょっと良いかな?」
「あっ、はいもちろんです」
すると、僕へと話し掛けていた山城さんの言葉が止まる。と言うのも、ふと彼のポケットから電子音が響いたから。そして、一言断りを入れスマホを耳に当てる山城さん。そして――
「……へっ? ……ああ、うん、分かった」
すると、ややあって少し困惑した様子を浮かべる山城さん。……えっと、いったいどうしたの――
「……ごめん、秋奈。本当に申し訳ないんだけど、少し用事が出来ちゃって」
「うん、大丈夫だよ。いってらっしゃい」
「……ありがとう、秋奈。それじゃ、なるべく早く戻るから」
そんな疑問の中、申し訳なさそうにそう伝え去っていく山城さん。そして、そんな彼の背を穏やかな微笑で見送る秋奈さん。どうやら、何やら退っ引きならないご用事が出来てしまったようだけれど……でも、そうなると秋奈さんは――
「……ねえ、奏良さん。その……もし良かったら、一緒に回ってくれないかな?」
「…………へっ?」