大事な話
「――今日はありがとうございました、三崎先輩。白河さん」
「いえ、弓島さん。こちらこそ、誘っていただきありがとうございます」
「ええ、楽しかったです弓島さん」
それから、数時間後。
広場にて、恭しく頭を下げ感謝を告げる弓島さん。だけど、感謝を伝えるべきはこちらの方で。今日ここに来れたのだって、弓島さんがチケットをくれたからだし。
……ところで、それはそれとして――
「……すみません、白河さん、弓島さん。少し、席を外しても宜しいですか?」
そう、頃合いを見て尋ねる。……いや、頃合いなんて分からないけども……あと、流石に不自然だよね。急にこんなこと言い出したら。……ただ、ごく自然に聞こえるような上手い言い訳なんて思いつかなくて。
それでも、お二人とも何も尋ねることなく頷いてくれて。単に、僕の用件に興味がないから――というわけでは恐らくなくて、きっとある程度察した上で聞かないでくれているのだろう。そんなお二人に心中にて感謝を告げ、緊張を抱えつつ目的の場所へと向かう。そして――
「――よう。呼び出して悪かったな、三崎」
そう、大きな樹に凭れ掛かり告げるツーブロックの男の子。そんな彼に、軽く首を振り口を開いて――
「いえ、お気になさらないでください。それで……大事なお話があるんですよね? 江川くん」
そう、じっと見つめ尋ねる。大事な話があるから、どこかのタイミングで二人で会えないか――そう、お手洗いにて尋ねられていて。本来なら、お二人――白河さんと弓島さんに悟られないように、というのが江川くんの希望だろうけど…………まあ、それが困難なことは彼も分かってくれていると思う。
さて、今いるのは幾つも連なる大きな樹の陰。視界も声も周囲からほぼ遮られているだろうから、大事なお話にはうってつけの場所で。……まあ、お二人以外には聞こえたところで問題もないんだろうけど。
ともあれ、凭れていた樹から離れ正面から僕を見つめる江川くん。そして――
「……俺は、冬雪が好きだ」
そう、真っ直ぐに告げる。想い人その人ではなく、僕に。理由は、きっと確認するまでもなく――
「……別に、あんたを責める気はない。そりゃ、好きか嫌いかって言われたら……まあ、嫌いだと思う。あんたが悪いんじゃないけど……でも、好きなヤツとあんだけ仲が良いのに、好きになれって方が難しいだろ?」
「……江川くん」
「……俺は、冬雪が好きだ。だから、ちゃんと付き合って恋人になって……そんで、冬雪を幸せにしたい。だから、あんたが冬雪と今の――セフレ以上の関係になる気がないんなら……悪いが、ここで引いてくれ」
「…………」
そう、真っ直ぐに告げる江川くん。射抜くようなその瞳からも、どれほど本気なのかもひしひしと伝わって。
……引いてくれ、か。確かに、そう思うのも無理はない。恋人という立場なら、その相手にセフレがいるなんて状況は受け入れ難いのが当然だろうし。
そして、白河さんの方だけど……今はその気はなくとも、この真摯な想いに触れる内に彼への気持ちが変わっていく可能性ももちろんあって。そうなれば、僕の……少なくとも、セフレという僕の存在は白河さんにとっても間違いなく邪魔になる。……ならば、僕の取るべき選択は――