5.
「ということで、デートですよ先輩」
「だあから違うって」
いつものように教室に迎えに来た梓に、美凪は素直に下校せず確保することを選んだ。結果、後輩の女子生徒たちに囲まれることになり肩身の狭い思いをすることになっている。
「そういえばニッシー先輩、こないだのバスケ部の助っ人試合見ました!」
日紫喜梓が校内で有名な理由は、運動神経抜群な点だ。各運動部の助っ人として練習に付き合ったり、練習試合に参加することもしばしば。
「途中で出ただけだから。俺じゃなく、部員に言ってあげな。あいつとか」
教室の隅でバタバタと支度をしている男子生徒を指差すが、会話に混じっていた加藤は悲しげに首を横に振る。
「あいつはファウル重ねすぎて途中退場させられてたんで反省してもらわないとダメです」
それはその通りのため、梓は唸りながら口を噤んだ。
「じゃ、放課後デートしましょ先輩」
「違います。お仕事です。滅茶苦茶にしないでください」
つい敬語になる梓を引きずりながら、美凪は教室を出ていく。
「そんじゃみんなまたねー」
諦めた梓は、潔く一緒に歩き始めたため美凪はその手を離す。
「デート、なんて言ってみましたけど、どこ行くかの目星は付けないとダメですよね」
そう、あくまで依頼の調査なのだ。それを美凪も分かっているため、デートと銘打ちながらも完全にふざけ倒すことはしない。
「まずは最初に目撃した駅前か。八塚駅っていうと隣町だっけ」
「隣町どころか隣の市ですよ……地元なのに何でそんな興味ないんですか……」
「いやだって、電車通学じゃねぇし。関係ないことって知らないこと多いだろ」
「まぁ確かに……」
上履きからローファーに履き替えて、二人は目的地へと向かう。
二人の通う九井北高校の最寄りである九井駅から各駅停車で、三駅で到着する八塚駅。約七ヶ月続いた再開発工事が先日済み、ここを利用する地元民だけでなく、新しい周辺施設を利用するために遠方から訪れる者も現状は非常に多い。平日夕方だというのに、休日昼間のような混み方をしており、改札を抜けるにも一苦労だ。
「ミーハーすぎますね……」
「一般人ってそんなもんだろ。お前だって、新発売のもの手に取るだろ。あれと一緒」
「えぇ……一緒なんですかこれ……」
自身が自然に取っていた行動が、ミーハーな行動だと突き付けられてげんなりとする。他人のことを笑えないことをしていたのだ、そんな顔にもなるというものだ。
「で、どこをどう見ます?」
「んー……漠然と見るしかないんだよな……」
駅で見かけた、という話だが、最初に見かけたということもあり全体が曖昧だ。
「とりあえず適当に歩くしかないだろ」
溜め息を吐きながら歩き始めるが、すぐに袖を掴まれて止まるしかない。振り返ると、顔を真っ赤にした美凪がブレザーの右袖を掴んでいる。さらに追加の溜め息を吐くと、振り払うことはせずそのまま歩みを再開する。
なけなしの勇気を振り絞った美凪は、振り払われることを覚悟していた。それを受け入れられた時点でだいぶ進歩だ。バイトを始めてから依頼だからと一緒に動くようにして、多少は気を許してもらえているのかもしれない。
「よしっ、がんばろっ」
気合を入れ直す美凪は、しかしそれ以上に強引に動くことはしない。なにせ時間はたっぷりあるのだから、じっくりと仕掛けていけばいいのだ。