4.
「どういうことだと思います?」
依頼人が去り、そのまま応接間で話し始める三人。美凪は原を外へ送り出し、応接間に戻って開口一番切り出した。
「街で『人形』を使っている人間がいるというのは事実ですが」
「原さんがそもそも見える理由が分からない。見えるんなら、そもそも『種』のことが話題に出てくるはずだろ?」
樫木はウイスキーを瓶ごと呷り、アルコール臭の強い呼気を細く吐く。一方でソファの梓は不機嫌そうに眉間に皺を寄せているため、隣に座った美凪はそれを広げようと手を伸ばしてくる。それを軽く払いのけながら、梓は樫木に視線を向ける。
「多分原さんは関わりないと思うけど、『人形』は見過ごせない」
諦めた美凪は頬を摘まむことにして、抵抗を諦めた梓はそのまま話を続けた。
「アレを使ってるやつがいて、広めてるやつも当然いるんだから絶対に尻尾掴みたい」
「そうですね。我々は特に、『人形』を見過ごすわけにはいきません。ではどうすべきか分かりますか、美凪くん?」
こういったスキンシップが常態化しているため、なすがままになる梓は両頬を摘ままれている。話を投げられた美凪は、樫木に視線を向けることなく答えた。
「んー、じゃあじゃあ、私と先輩で調べちゃってもいいですか?」
求めていた通りの答えを受けたため、樫木は笑みを返す。
「大正解です。ですので、明日からお二人には調査をお願いします」
「先生絶対だるいからじゃん」
「失礼な。他の依頼もあるんですよ。なにより外の仕事なんですから、君たちの方が適任です」
犬のように唸って抗議するが、視線を逸らされあっさり流されてしまう。
「そういうところ、強かですよね先生って」
「美凪くんとデートできて幸せでしょう、梓くん?」
「よくない。よくないよこの流れ。お前、絶対何か周りにけしかけてるだろ」
細い手首を掴んで美凪を引き剝がす。可愛らしく小首を傾げながら、自信のある角度に調節して微笑み返す。あえて言葉を投げ返さない辺り、美凪は肯定しているようなものだ。
「……じゃあとりあえず、俺らしばらく来るの遅くなりますけどいいんですね? 先生の夕飯も遅くなるか食べられなくなるけど大丈夫なんですね?」
「大丈夫。梓くんは僕のことを何だと思っているんだい」
徐々に談笑へと切り替わっていく。年単位での関わりを持つ三人は、この洋館でまるで家族のように過ごすようになっていた。