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こちらヒトナリ相談所  作者: 多希やなぎ
Case.238 July 27「図書館」
40/42

7.

あぁ、また私は遠いところから見ることしか出来ない。


ヒトナリ相談所でバイトを始めて。いや、それより前。初めて相談所に来てからずっと、私は〝踏み込むべきではない場所〟に来てしまったのだと感じている。


きっかけは『人形』だったけれど、相談所に来る理由はきっと近い内に出来ていただろう。


でも、もし別の理由で訪れていたら、私は梓先輩にただ出会っただけで終わってしまう。それだけに、彼のあの言葉があったから、私はこうして相談所でバイトをするようになった。


ただ、バイトに来ているだけなのは、どうやっても変わらないのに。


校内で有名な、運動神経抜群なだけの先輩だった。それだけだったら、彼が『人形』を自らの手で破壊することが可能だとは到底想像できないし、普段の生活では汗も血も流せないのだとは分からずにいた。


あの人が、変なことに巻き込まれて、普通の人間らしくいられないことなど、ここまで踏み込まなければ知ることなどなかっただろう。


知ることが出来たからこそ、遠いな、と思ってしまう。


梓先輩に、私は何もしてあげられない。


きっとこれから先も彼は苦しむだろうし、傷つくだろうし、どうせそれを私には見せてくれない。


今この瞬間を逃せば、もう彼はこんな姿を二度と見せないために振る舞うはずだ。


「そういう、男の子のプライドみたいなのだけ、高いって知ってるんですよ」


誰に届くわけでもない呟きの先で、二人はずっと攻撃し続けている。


私には、誰かを守るための力なんて持っていない。


誰かを助けるための知恵も絞り出せない。


それでも私は、日紫喜梓という人から離れる、という選択肢を取ることは出来ない。


「困ったなぁ……」


単純な憧れで。


一つ上の話題の先輩に近付けるという打算があって。


それなのに。


もうそんなもの、今の私には露ほども残っていない。


ただ純粋に、私はこの人が好きなのだ。


苦しみから、恐怖から、何の打算もなく救い出してくれたこの人が。


「なぁんで、こんなボロボロになってるの見て再確認しちゃってるんだか」


縁側で膝を抱えて、つい溜め息を吐いてしまう。


最初は、なんとなく近付けるなら私の格が上がるように思っていた。


でも、梓先輩に関われば関わるほど、そんな打算は邪魔になってしまった。


「何で私って、この人のことこんなにも好きなんだろ」


冷静になるほど、困ったことにちゃんと梓先輩のことを好きだと理解する。


膝を抱えてじっと見ていると、湯呑がまた視界を横切る。そばに降りてくると、飲めと言わんばかりに少しだけこちらに寄ってきてくれた。


ありがたくもらって、もうちょっとだけこの寂しさというか疎外感を噛みしめていよう。


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