7.
あぁ、また私は遠いところから見ることしか出来ない。
ヒトナリ相談所でバイトを始めて。いや、それより前。初めて相談所に来てからずっと、私は〝踏み込むべきではない場所〟に来てしまったのだと感じている。
きっかけは『人形』だったけれど、相談所に来る理由はきっと近い内に出来ていただろう。
でも、もし別の理由で訪れていたら、私は梓先輩にただ出会っただけで終わってしまう。それだけに、彼のあの言葉があったから、私はこうして相談所でバイトをするようになった。
ただ、バイトに来ているだけなのは、どうやっても変わらないのに。
校内で有名な、運動神経抜群なだけの先輩だった。それだけだったら、彼が『人形』を自らの手で破壊することが可能だとは到底想像できないし、普段の生活では汗も血も流せないのだとは分からずにいた。
あの人が、変なことに巻き込まれて、普通の人間らしくいられないことなど、ここまで踏み込まなければ知ることなどなかっただろう。
知ることが出来たからこそ、遠いな、と思ってしまう。
梓先輩に、私は何もしてあげられない。
きっとこれから先も彼は苦しむだろうし、傷つくだろうし、どうせそれを私には見せてくれない。
今この瞬間を逃せば、もう彼はこんな姿を二度と見せないために振る舞うはずだ。
「そういう、男の子のプライドみたいなのだけ、高いって知ってるんですよ」
誰に届くわけでもない呟きの先で、二人はずっと攻撃し続けている。
私には、誰かを守るための力なんて持っていない。
誰かを助けるための知恵も絞り出せない。
それでも私は、日紫喜梓という人から離れる、という選択肢を取ることは出来ない。
「困ったなぁ……」
単純な憧れで。
一つ上の話題の先輩に近付けるという打算があって。
それなのに。
もうそんなもの、今の私には露ほども残っていない。
ただ純粋に、私はこの人が好きなのだ。
苦しみから、恐怖から、何の打算もなく救い出してくれたこの人が。
「なぁんで、こんなボロボロになってるの見て再確認しちゃってるんだか」
縁側で膝を抱えて、つい溜め息を吐いてしまう。
最初は、なんとなく近付けるなら私の格が上がるように思っていた。
でも、梓先輩に関われば関わるほど、そんな打算は邪魔になってしまった。
「何で私って、この人のことこんなにも好きなんだろ」
冷静になるほど、困ったことにちゃんと梓先輩のことを好きだと理解する。
膝を抱えてじっと見ていると、湯呑がまた視界を横切る。そばに降りてくると、飲めと言わんばかりに少しだけこちらに寄ってきてくれた。
ありがたくもらって、もうちょっとだけこの寂しさというか疎外感を噛みしめていよう。




