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こちらヒトナリ相談所  作者: 多希やなぎ
Case.226 June 21. 『人形』が見える
4/15

1.

原幸次郎(はらこうじろう)は、ひどく疲れていた。


今月の勤務が八割ほど消化され、残業時間は既に明記できない状態になっている。急病人の多発により、毎日残業と休日出勤の連続。


全てのしわ寄せを受けていた今までが、ようやく今日片付いたのだ。積み上げ続けた疲労が、この帰路で一気に噴き出している。


先月ぶりの午後八時過ぎに帰宅している事実に、涙腺が緩んで視界がじわりと歪むほどだ。


最寄り駅に降り、一ヶ月ぶりの休日が明日に控えていることに浮足立つ。どうせなら、少し高めのものをチェーン店で買って帰り、ビールで一杯やって昼過ぎまで眠ってやろうじゃないか。


プランが決まったところで、人通りの多い駅前をキョロキョロと見渡す。


再開発事業で発展著しい駅周辺。さて何か手頃な店はどこに出来たのだろうか。こうなれば、胃もたれしようが知ったこっちゃないのだ、肉料理や揚げ物に手を出したいという欲望が顔を出す。


東口側へ行こう。人混みに従いながらそちらへ向かう。


「え?」


そんな声と共に足が止まる。背後にいた人間がぶつかってくるが、どうやっても足が進まない。原を避けて、人混みは割れてまた戻る。


人々の舌打ちなど耳に入らず、肩にはやはり絶えず人がぶつかってきた。


それでも原の意識は、一点に注がれていた。


人混みの中で、上背が頭抜けているものはひどく目立つ。


それを目にしてしまったとしても、「あぁ背が高いな」だけで終わるものだ。


しかし原は、それを凝視して動けなくなるほどに驚いている。


目測約二メートルはあるそれは、顔のない『人形』だった。


服屋の店員がマネキンを運んでいるのではなく、それほどの大きさの『人形』が立っていて、まるで人間のように歩いているのだ。


周囲の人間はそれを気にせず、存在していることに気付いてすらいないようだ。


人混みに流され、『人形』はいつの間にか姿を消していた。


果たして今見たものは幻なのか。


自身の疲労が極限に達していることを痛感しているが故に、再び歩き出すのにさほど時間を要さなかった。


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