11.
九井北高校の警備員を務めて、気付けば五年になる。
この時期になると、学生たちは適当な怪談話を毎年広めていく。
生徒との交流が幾分か増えてきた分、そういったことを楽しそうに話してくれることも多い。
今年のものはどうだったかな、と考えながら巡回するのが夏の恒例になっている。
各所は施錠してあるが、もしも生徒が隠れ潜んでいたら、という可能性があるため、巡回ルートは丁寧に施錠開錠して敷地全部を確認している。
どうにも真面目に働きすぎだなぁ、という自覚はあるが習慣づいてしまったため、全部を見て回らないと気が済まなくなっている。
「……ん?」
夜更けであり、虫の声と遠くの車の音もあまりしない。
だのに、とん、とん、と規則正しい音が聞こえている。
音の出所は何処か、と自分の耳を頼りに校内を探るがどうにも近付けない。
そういえば、今年の七不思議にはこんなものがあったな、と思い出した。
体育館で跳ね続ける、バスケットボールの音。
そうだそうだ、そんな話があったな。
音はやはり、校舎ではなく体育館から響いているようだ。
とん、とん、と聞こえていた音は、近付くにつれて、どん、どん、と激しさを増していく。
まるで自分が近付いていることを分かっているように、わざと音を激しくしているような響き方だ。
体育館の出入口に到着すると、館内に強く響く音がすぐ目の前にあるように思える。
生徒が忍び込んで、夜中にバスケットボールで遊んでいるかもしれない。
本当に?
遊んでいるなら、もっと不規則に、かつ足音も絡んでくるだろう。
それなのにどうして、この音はただボールをつき続けるだけの音を響かせているのだろうか。
息を吞み、体育館の鍵を手にした。
がちゃ、と容易く開錠してしまい、息が止まりそうになる。
これが生徒ならまだいい。
不審者だったら、職務を全うするだけだ。
では、そのどちらでもなかったら?
震える手で鍵をポケットに戻し、出入口の引き戸に手をかける。
深呼吸を二度。
相手を驚かすことと、自身の覚悟が決まったせいで、思った以上に勢いよく開けてしまう。
体育館のほぼ中央。
見慣れた制服姿で、女子生徒の背中がこちらを向いていた。
その手はバスケットボールをついており、音の正体が七不思議の通りだと分かった。
さて、声をかけようと体育館に足を踏み入れようとして、その違和感に気付いてしまう。
彼女の背中の向こうでボールをついているというのに、どうしてボールの着地がはっきり見えているのだろうか。
遮られるはずの位置に、どうして彼女の足がないのだろうか。
音が、止む。
ボールを受け止めて、動きを止めたそれは。
今まで俯いていたのだろう、その顔を上げた。
ぐるり。
こちらへ向いて、儚く微笑んでいた。
叫んでいただろう。
泣いていただろう。
だのに、自分の声は全く耳に入らず、駆けて風を切る音だけが聞こえていた。




