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こちらヒトナリ相談所  作者: 多希やなぎ
Case.232 July 16「毎晩飛び降りる人」
33/41

11.

九井北高校の警備員を務めて、気付けば五年になる。


この時期になると、学生たちは適当な怪談話を毎年広めていく。


生徒との交流が幾分か増えてきた分、そういったことを楽しそうに話してくれることも多い。


今年のものはどうだったかな、と考えながら巡回するのが夏の恒例になっている。


各所は施錠してあるが、もしも生徒が隠れ潜んでいたら、という可能性があるため、巡回ルートは丁寧に施錠開錠して敷地全部を確認している。


どうにも真面目に働きすぎだなぁ、という自覚はあるが習慣づいてしまったため、全部を見て回らないと気が済まなくなっている。



「……ん?」



夜更けであり、虫の声と遠くの車の音もあまりしない。


だのに、とん、とん、と規則正しい音が聞こえている。


音の出所は何処か、と自分の耳を頼りに校内を探るがどうにも近付けない。


そういえば、今年の七不思議にはこんなものがあったな、と思い出した。


体育館で跳ね続ける、バスケットボールの音。


そうだそうだ、そんな話があったな。


音はやはり、校舎ではなく体育館から響いているようだ。


とん、とん、と聞こえていた音は、近付くにつれて、どん、どん、と激しさを増していく。


まるで自分が近付いていることを分かっているように、わざと音を激しくしているような響き方だ。


体育館の出入口に到着すると、館内に強く響く音がすぐ目の前にあるように思える。


生徒が忍び込んで、夜中にバスケットボールで遊んでいるかもしれない。



本当に?



遊んでいるなら、もっと不規則に、かつ足音も絡んでくるだろう。


それなのにどうして、この音はただボールをつき続けるだけの音を響かせているのだろうか。


息を吞み、体育館の鍵を手にした。


がちゃ、と容易く開錠してしまい、息が止まりそうになる。


これが生徒ならまだいい。


不審者だったら、職務を全うするだけだ。



では、そのどちらでもなかったら?



震える手で鍵をポケットに戻し、出入口の引き戸に手をかける。


深呼吸を二度。


相手を驚かすことと、自身の覚悟が決まったせいで、思った以上に勢いよく開けてしまう。


体育館のほぼ中央。


見慣れた制服姿で、女子生徒の背中がこちらを向いていた。


その手はバスケットボールをついており、音の正体が七不思議の通りだと分かった。


さて、声をかけようと体育館に足を踏み入れようとして、その違和感に気付いてしまう。


彼女の背中の向こうでボールをついているというのに、どうしてボールの着地がはっきり見えているのだろうか。


遮られるはずの位置に、どうして彼女の足がないのだろうか。


音が、止む。


ボールを受け止めて、動きを止めたそれは。


今まで俯いていたのだろう、その顔を上げた。




ぐるり。




こちらへ向いて、儚く微笑んでいた。



叫んでいただろう。



泣いていただろう。



だのに、自分の声は全く耳に入らず、駆けて風を切る音だけが聞こえていた。


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