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こちらヒトナリ相談所  作者: 多希やなぎ
Case.232 July 16「毎晩飛び降りる人」
30/42

8.

侵入経路が見つかったが、同時に教師も現れている。さらに二人が相談所の活動をしていると伝えている相手のため、理解はしてもらっているはずだ。アイコンタクトを取ると、二人は頷き合って立ち上がる。

協力者になってくれるかもしれない人間が現れたことで、調査を進める光明が見えたのだ。怒られることは想定の範疇だが、それでも縋り付くべきだと判断した。


「お前らなぁ……せめて金曜か土曜にしろよ……何で早速月曜の夜から調べてんだ……」


寺田が携帯灰皿で煙草をもみ消すが、どうにも名残惜しそうだ。


「絶対明日遅刻しないんで、校舎調べさせてください」


「あと部室棟の鍵貸して先生! 今シャワー出てて水道代やばいよ!」


続く美凪の所帯じみた言葉に、寺田は深い溜め息を吐いた。


「またかよ……あそこ、直してもすぐ壊れるから、誰かバカみたいな使い方やってんだろうな……明日の職員会議で議題出しとくか」


顎で合図すると、寺田は校舎に招き入れる。


「調べるのはいいけどな、俺もそろそろ帰るから一時間ぐらいにしとけよ。それまでに職員室に来なかったら、容赦なく鍵閉めるからな」


職員室へ向かう寺田を見送ると、どの調査をするか相談を始める。


意図せず部室棟の件も発覚し、残り六つを校舎内で調べなければならない。家庭科室、化学準備室は一階、空き教室は二階、三階から四階に繋がる中央階段の踊り場、そして屋上と動線を組み立てられた。


「じゃあ本命は一番最後だな」


「家庭科室から行きましょ。包丁を研ぐ音、でしたっけ?」


九不思議を見直してみると、やはり目撃していないものが多い。包丁を研ぐ音、ピアノの音、シャワーの音、バスケットボール。半数近くを占めており、職員室の霊も含めると根も葉もないことばかりである。

故に、屋上で飛び降り続ける人形が異質になる。明確に、複数回目撃している人間がいる。他を調べていないからというのもあるが、証言を得ているのは強みだ。


「……うーん、何も聞こえてきませんね」


「なんか空振りばっかだな……」


これだけ成果が出ない状態が続くと、疲労がより際立つ気がする。ただでさえ普段活動しない時間帯に外で動いており、神経を張り詰めているのだから当然だ。


「で、次が化学準備室……二つ隣か」


校舎には、東・中央・西の三つの階段がある。家庭科室は西階段そばであり、化学準備室は西側の端、廊下の突き当たりだ。家庭科室、家庭科準備室と挟み、化学準備室、化学室と並んでいる。


恐る恐る廊下を見渡す美凪は、得体の知れない恐怖心を煽られてしまう。行く必要のない反対側の廊下に広がる暗闇が、背中に怖気を走らせた。


「何やってんだ相馬。さっさと行くぞ」


「ねーえー、先輩って恐怖心どっかに捨ててきたんですか?」


「怖がる必要がないからだよ」


風情がないなぁ、とぼやく美凪の頭を軽くはたきながら、梓は廊下に出る。


化学準備室の方へ向こうとした時、かた、という物音を聞いた。顔を見合わせようとする間もなく、乱暴に引き戸が開け放たれる。


飛び出してきたそれを迎え撃とうとしたが、梓には目もくれず、脇を駆け抜けて階段を上がっていった。追いかけようとしたが、袖をぐいと引かれる。


「ま、待って先輩。びっくりして、腰、抜けちゃった……」


家庭科室のドア前でへたり込む美凪が、梓の袖を掴んでいた。涙目で見上げてくる辺り、本当に驚きすぎて動けないようだ。


嘆息して、彼女の目の前に背を向けて腰を下ろす。


「ほら乗れ。屋上まで追いかけるぞ」


「登下校毎日これにしてください」


「置いてくぞ」


冗談を言う余裕はまだあるが、肩に触れてくる手は震えていた。


膝裏に手を通し、美凪は梓の首に腕を回して安定感を確保。背中には普段触れることのない温もりがあって、梓は普段と違う緊張感を意識する。


「よし、行くぞ」


駆け上る勢いで振り落としてしまわないよう、深呼吸を挟んでから走り出す。


「さっきのって『人形』ですよね? 何ですれ違う時に壊さなかったんです?」


階段を半分以上跳躍で跳び越すのは想定内であり、耳元でわざと囁くようにしてよぎった疑問をぶつける。


「俺たちは調べに来ただけだ。屋上から本当に飛び降りるのを確認しないと、目的が果たせないだろ」


二人の耳に響いた、何かが砕ける音。上階で、人形が何かを破壊したようだ。通り過ぎようとした踊り場を見て、梓は顔をしかめる。


「相馬、口閉じてろ。舌噛むぞ」


注意喚起に素直に応じ、んっとわざわざ声を出して口を噤む。直前よりも跳ぶ勢いが増し、梓の足裏が階段ではなく壁を捉える。その壁を蹴って、対面の壁に着地してすぐまた蹴る。


空中で見送る踊り場には、窓からの月明りできらめく無数の破片。設置されていた姿見が、無残な姿を晒している。


「踊り場の鏡と屋上の飛び降りって同一犯かよ」


奇しくも、追跡する過程で判明し苦笑する。ドアが開く音を聞き届けて、一足先に人形が屋上に出たことを知る。


少し遅れて辿り着いた屋上では、既に人形が金網をよじ登っていた。だが梓は、それを止めるようなことはしない。人形が自殺の真似事をするだけなのだから、彼に止める理由はないのだ。


「人形だけど、見るなよ相馬」


「目が回っててそれどころじゃないんで……」


一階から屋上まで駆け上がられて、脳をひどく揺さぶられる羽目になったのだから、吐いていないだけマシだ。


人形は気付いている様子で、こちらを一瞥する。まるで何かを躊躇うようにして、眼下に広がる地面を見た。金網の向こう、屋上の端に立った人形はそのまま静止する。


まるでこの世を慈しむかのような一瞬。


そうしてコンクリートの屋上を蹴って、人形は宙へと飛び出した。


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