7.
校門は乗り越えることが可能だが、校舎内へ侵入するには施錠されている状況を打破しなければならない。
校舎内に関連したものは六つ。体育館が一つ。部室棟が一つ。そして件の屋上が一つ。屋上自体を調べるのも考慮しているため、いずれにしても校舎の侵入が課題となる。
「とはいっても、さすがにドア壊すわけにはいかないしな」
「どこか開いてる窓探してみませんか?」
首をひねりながら唸る梓は、美凪の提案を受け入れず歩き始める。
「とりあえず先に、部室棟と体育館を見に行ってみないか? シャワーとボールの音を外から確認するだけなら、中に入らなくていいだろ?」
それなりに結果を出している部活があるため、校舎裏に建てられた体育館は広い。バスケットボールコート四面が設けられ、昼休みには部活の自主練と他生徒の遊びでも余裕がある。
「で、体育館のやつって何だっけ?」
「バレーボールが跳ねてる、みたいなやつですよ」
体育館で跳ね続ける、バスケットボールが正答である。
「でもボールが跳ねるんなら、今ここで音が聞こえてもおかしくないよな」
「静かですね。うーん、外れなのか今日は静かなのか」
美凪は体育館の下窓を覗き込んでみるが、加工がされているためスマホのライトで照らそうが、中の様子は透けることはない。
「次は部室棟に行ってみるか。明日も学校だから、さっさと帰って寝たいんだ」
美凪は目をらんらんと輝かせている。元々夜更かしすることが多いため、この時間に元気が出てきている。九不思議を調べる、という野次馬根性も手伝っているが。
「……元気そうだな相馬」
「んっふっふ。私、こういう感じのホラー好きなんですよ。パニックホラーもいいんですけど、何が出てくるか分からないテイストのやつが面白くってですね」
「はいはい、その話はまた今度な」
続いて、同じく校舎裏に位置し、体育館とプールの間に建てられた部室棟。件のシャワールームは女子用であり、部室棟の二階にある。
当然鍵は開いておらず、女子生徒のプライバシーの点からもドアに窓は付いていない。
「先輩、壊しましょう」
「思い切りが良すぎる。体育館で提案しなかったのは何でだよ」
隠せないわくわくを表情に出しながらサムズアップする美凪。
「冗談ですよ、冗談。ただ……」
道中で既に、二人の耳には水音が響いていた。
「これ、シャワーの音ですよね?」
「しかもなんかしっかり出てる音だな」
勢いの強さが、ドア越しに聞こえてくる。まるで今も誰かが浴びていてもおかしくないほどで、九不思議の一つ『部室棟で夜だけ流れ続ける、水泳部のシャワー』が実際に起きているのだ。
「……シャワー壊れてる、とかじゃないよな……?」
もしそういった事態であれば、九不思議が広まる時点で修理依頼が出されているはずだ。修理が入るのであれば、当然このシャワールームは使えない。
「ドア壊す……は、やっぱダメですよねぇ。とりあえず鍵探しに行ってみましょうか」
犯罪行為に該当することはしない、ということが二人の頭にはある。深夜徘徊、不法侵入という二点には目を瞑らなければならないが。最低限、それこそ器物損壊といった、そもそもの形跡が残ってしまうことは避けたいのだ。
「開いてるとこ探さないと、鍵管理してる職員室に入れないぞ」
ここでようやく、行き当たりばったりでの行動だと気付く。樫木が根回ししていたように、梓たちも下準備をしておかなければならなかった。
手際の悪さ、必要なことの確認が足りていない。未熟だということを痛感し、今回もまた一旦断念することを提案しようとした。
その矢先、どこからかドアが開く音が聞こえて、二人は同時に口を押さえる。梓は這って移動すると、音の出所を探る。
校舎裏に位置しているため、ドアが開けられたのは校舎の裏口だ。警備員が出入りしているのは生徒たちの周知の事実であり、巡回しているのだろうとばかり思った。
月明かりが照らす頼りない景色。歩く人影が、懐から何かを取り出した。口に咥える動作と、一瞬だけ口元に火が灯ったため、煙草を吸い始めたのだと分かる。
九不思議の一つ『職員室に集う、無数の霊』が、残業している教師という推測は正解だったようだ。
「ねぇ先輩、あれって……」
極力声を抑えた美凪は、尋ねた梓の頷きで結論に至る。
「寺田先生が、九不思議の一つ……?」
今回の依頼人である田畑と、九不思議を目撃して休んでいる大沢。そのクラスを現在担当している男性教師、寺田が昼間よりくたびれた様子でまだ学校に残っていた。




