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こちらヒトナリ相談所  作者: 多希やなぎ
Case.232 July 16「毎晩飛び降りる人」
27/42

5.

ただの深夜徘徊をした挙句、何の発見も出来なかった不法侵入者二名。日付の変わった日曜日には、部活に勤しむ生徒だけが登校しているため情報収集は行えず、結局依頼を受けた二日後の月曜日に調査を開始することになった。


田畑のクラス担任は、幸いにも過去に二人を担当したことのある教師であったため話は早かった。


「体調不良だ、って話なんだけどな。今日電話してみても出ないからどうしたもんかと考えてたところだったんだよ」


フレンドリーな男性教員の寺田は、苦笑しながら答える。職員室の彼の机は、積まれた書類の山が崩壊寸前だ。


「体調不良について詳しくは……?」


「年頃、しかも女子。男の俺が詳しく聞いていいことは、今の流行だけだ」


難しい年頃に、お互いの危うい立場。踏み込みにくいというよりは、踏み込みたくないというのが彼の本音だろう。だが個人情報の扱い方を、彼はもう少し考えるべきだ。


「で、何でお前らがそんなこと調べてんだ?」


「俺らのバイト先、ヒトナリ相談所なんですよ。クラスの子が依頼に来たんで」


「あー、なるほど……じゃああの噂関連か……」


彼が頭を抱えると同時、他の教師たちからも溜め息がこぼれた。


「毎年あの噂が出るせいでな、夜中に忍び込む生徒が何人も見つかるんだよ」


記憶に新しい悪事から目を逸らすように、美凪はあらぬ方向へ視線を向ける。


「ましてや今年は何故か数が増えてるし、俺らは毎年この時期にいらん心配をする羽目になってるんだよ、困ったことに」


「大変ですね先生たち」


「お前は問題起こさずにいてくれるから助かるよ日紫喜(にしき)


飄々と受け答えする梓に、美凪はジト目を送るが見事に無視される。


「とりあえずお前たちが対応してくれるならこちらとしてはありがたい。相談所のこともだが、一生徒として二人のことは信頼してるからな。それでもダメだったら、担任として責任持って家庭訪問するよ」


接点のない生徒に任せる辺り、なかなかの無責任っぷりだ。




というやり取りがあっての放課後。普段相談所に向かう道の途中にある、住宅街の一角を訪れていた。担任から受け取った住所をスマホで調べ、辿り着いた場所は普通の一軒家。


インターホンを押して出迎えた母親は、不安そうな顔というよりは、どことなく恐怖が浮かんでいるように思えた。


大沢(おおさわ)保奈美(ほなみ)さん、だっけ。はじめまして、日紫喜梓です」


「相馬美凪です。一応私たち、ヒトナリ相談所で依頼を受けてこちらに来ました」


通されたリビングのソファで、夏だというのに毛布を頭から被ってこちらを覗いていた。


「大沢さん、単刀直入に聞きます」


年功序列ではない。ヒトナリ相談所で相談を見てきた回数が多いからこそ、梓は自ら今回のことを切り出した。


「きみは、夜の学校で何を見ました?」


大沢保奈美の体は、その言葉を聞いて体を大きく震わせる。


「俺らはその話を聞いて、それが何なのかを調べるために、きみの話を聞きに来ました」


いつも美凪に向ける鋭い視線は鳴りを潜め、穏やかに微笑んで尋ねていた。


「…………話して、どうにかなるんですか?」


怯えた瞳で二人を交互に見やる大沢は、毛布をさらに絞って口元まで隠れる。


「ずっと、屋上から落ちてきて、繰り返すのに……何をどうしてくれるんですか!」


突然の怒声に、美凪は体を大きく震わせる。一方で梓は、豹変するのを予測していたようで、落ち着き払って言葉を続ける。


「まず、何を見たのかを教えてくれないとどうにも出来ない。何回も見て、そんなにも色んなことを怖がるようになったのかを、俺たちは知らないといけないんだ」


九井北高校の九不思議。九番目は屋上から飛び降りを繰り返す、死ねない人。


一つだけ、ニュアンスが違うことが気になっていた。他八つは明確なでっち上げだったり、被害者がはっきりしていない。なにより目撃者が明確になっているという今回の九不思議で、彼女だけが学校を休んでいる。


「……信じてもらえるんですか?」


まだその瞳には怯えが浮かんでいたが、毛布を掴む手は緩められていた。梓と美凪は、力強く頷いてみせる。


「信じてるからこそ、ここに来たんです」


美凪の言葉で、彼女の手から毛布が離された。


「最初、忘れ物したから夜に学校に行ったんです」


土曜日の夜、屋上に人影があるのを見かけた。その時は落下する瞬間を目撃してしまい、急いで逃げ帰った。結局その忘れ物は翌日に取りに行くことになったが、その際に落ちたと思われる場所である花壇を見てみたが何もなかった。


「その後、今度は好奇心で見に行ったんです。最初に見た時と同じ時間に」


二度目は、週が明けた火曜日。やはり同様に落ちる人影を見かけ、恐る恐る落ちた場所を見に行った。その真下にある花壇には、パンジーが植えてありいくつか折れていた。


だが翌日にも見に行って、落ちる人影を見たのだが何もない。前日に折れていたはずのパンジーは、何故か元に戻っていた。


「最後に見かけた四回目。それが先々週の金曜なんです」


大沢は今まさに恐怖を思い出しているようで、膝を抱えて震え始めた。



「落ちていた人影、顔のない『人形』だったんだろう?」



言い当ててくる梓に、大沢は目を見開く。


「そう、です……え、先輩、あれが何なのか知ってるんですか?」


微笑みかける梓の頷きに、ソファから下りて足元に這ってきた。見上げる形になりながら、問いかけを続ける。


「屋上から落ちたのに壊れてないし、そもそも何で人形が勝手に動くんですか?」


「それをこれから調べるし、人形のことが分かればその後の対応も出来る」


梓の隣の美凪は、驚きを隠すため口を両手で押さえている。目は見開いているため、零れ落ちそうになっているが、それに気付く者は誰もいない。


「先輩たちのこと、信じていいんですか?」


不安に揺れる瞳の意味が、二人には分からなかった。


それでも二人は、その不安を拭うためにここに来たのだと、力強く頷いてみせた。




「よく人形だって分かりましたね」


帰り道、隣で美凪が問いかける。初めて依頼の対応をした緊張が解け、ブレザーのネクタイを緩めようとしていた梓は眉をひそめた。


「最初は分かんなかったよ。先生が初めて俺たちに任せるって言ったから、俺たちでも出来るような簡単な依頼かなって思ってたんだけど。あの子の話聞いてたらそんな気がしただけ」


肩を竦めて、梓はそのまま歩を進める。


「人形が飛び降りる理由は調べないといけないけど、夜の学校に出るってことは、種を使ってるのは学校の関係者だろうな」


人形の活動範囲は、種を使用した人間の一定範囲から離れることが出来ないと樫木から聞かされている。それならば先日のカルレスが引き連れていた人形たちは、という疑問が生まれるがそれは現在調査中とのこと。


「こないだ先輩たちが喧嘩売られたって言ってた人の仕業じゃないんですか?」


「する理由が思い当たらないから、一旦可能性として排除。俺らの学校で人形を飛び降りさせるって、何の目的でそんなことするんだよ」


「むぅ、確かに。種を広めようとしてるみたいなんですよね? 広めてもらった人が今使ってるのは考えられませんか?」


美凪の推測に、梓は低く唸る。


カルレスたちの件から一ヶ月が経とうとしていたが、一向に捜査が進行したという話は聞かない。暗躍している可能性もあるが、知る術はないため最近は話題にすることもなかった。


「分からない、って言うしかないな。とりあえず先生に報告して、相談してみるか。俺たちに任せてくれてはいるけど、手離しで任せるわけないしな」


依頼解決の流れは、二人は年単位で相談所のバイトをしているので理解しているつもりだ。しかし、人形が関わっているとなれば話は変わってくる。警察の介入も必要となるため、学生である自分たちには出来ることに限度がある。


いずれにしても、漠然と深夜の学校を徘徊するより確実な方法を手助けしてもらうことが現状の最優先だ。


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