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二人は早速、深夜に動き出すことにした。九井市で知られているヒトナリ相談所の依頼だから、と学校側に事前に連絡を入れてもいいのだが、学生である自分たちは自由に出入り出来ないことは明らかだ。なにせ深夜に校舎に入らなければならないのだから、必然的に補導対象となってしまう。
「パパとママは心配してましたけどね。先輩が一緒だからいいよって言ってくれただけで」
「信用し過ぎだよ本当に……」
土下座をする勢いで相馬家へ交渉しに行ったのだが、まさかの玄関先で許可を受けることになった。
「とりあえず補導されないようにしないとな」
時刻はもうすぐ日付が変わり、日曜日へと移ろうとしている。
通い慣れた通学路でも、街灯だけが照らしているとどこか薄ら寒さを感じてしまう。夏に突入しているというのに、背筋の寒さだけで体感気温が下がったようだ。
「そういえば、どうやって校舎に入るんですか?」
美凪の疑問に対し、梓は思わず足を止めて顔をしかめる。
「屋上のことだけでいいのに、何で校舎に入る必要が?」
認識の齟齬が発生していることに気付き、すぐさま指摘する。
美凪は明らかに、九不思議全てを調べようとしている。だが梓は、依頼に直接関わる九番目のことだけ調べればいいと思っている。
「えーっ、絶対面白いですよ全部調べた方が!」
「依頼受けて当日に動いてる。しかも先生抜きでってことを考えたら、最小限にすべきだ」
「……先輩、怖いんですか?」
的外れな煽りに、梓は大きな溜め息を吐く。
「あのな。危ないって言ってんだ」
再び歩き出すが、その足取りは少し重い。
「先生がいないのに、俺らはこの依頼を受けてしまった。ましてや、こんな時間に動かないといけないんだからリスクも大きい。俺らだけで、この依頼をやり遂げないといけないんだ。何事もなく、だぞ?」
辿り着いてしまった校門のそばで、梓はまた立ち止まった。
「補導される可能性があって、不法侵入しないといけなくって、やばい橋渡ってんだよ今」
社会には法律があり、時にはそれに背いてでも動かなければならないことがある。ヒトナリ相談所の依頼のいくつかは、そうしなければならなかった。しかし樫木が逮捕されていないのは、地域ならびに警察への貢献が大きいため黙認されているところがある。
「バレなきゃいい、じゃないんだ。バレてるんだよ。先生がこれまで頑張ってきたから、許してもらってるんだ。俺たちじゃないんだ、許されてるのは」
二年、相談所で働いてきたからこそ感じるものだった。
「大丈夫ですよ先輩。分かってます」
その背中を、そんな言葉を共にぽんと押す。
「そういうところも含めて、先生は私たちを信じてこの依頼を任せてくれたと思いますよ」
ダメ押しの溜め息を落として、校門に跳び乗る。
「ほら、行くぞ。今日は屋上のやつだけ調べる。残りは週明けだ」
伸ばしてきた手を迷いなく掴むと、一息で引き上げられる。お姫様抱っこの形で受け止められると、その勢いのまま学校の敷地側へ着地した。
「先輩、今日の移動これにしましょう。名案だ」
「アホ言うなら帰れ」




