1.
これは賭けだ。校舎の何処か一ヶ所でも開いていれば、忍び込んで教室に辿り着ける。
高校生の生活で、しかも週末にスマホがないなんて考えられない。どうして引き出しに入れたまま、この時間まで気付かなかったのだろうかと彼女はひどく後悔している。
翌日になれば、教師が出勤しているため対応してもらえるのだが、そうも言っていられないのだ。日曜日で当然予定が入っているのだから、今すぐにでも持ち帰らなければタイムロスが発生してしまう。準備の時間が削られてしまうことだけは、どうしても避けたい。
見慣れていた通学路も、夜になれば全く違う顔になる。その雰囲気に怯みながらも、彼女はどうにか校門に到着した。
案の定校門は閉じられているが、一度深呼吸して覚悟を決めると、容易くよじ登って校内の敷地内へ侵入した。
一階端の教室から、手当たり次第に窓やドアを動かそうと試みる。そのどれもがきちんと施錠されており、徐々に不安が膨らんできた。こんな日に限って、二一時だというのに職員室で残業している教師がいないのが困りものだ。
「あーあ、寝る時間なくなっちゃうよ……」
そもそも諦めて早寝をし、早起きして準備を済ませて朝にスマホを回収すればいいだけなのだが、夜更かし気味の彼女には早寝するという選択肢がないのだ。
不法侵入の方を諦めて帰ろう、と深い溜め息と共に踵を返した。
ふと、夜空が目に入る。市街地の光のせいで星はあまり見えないが、それでも今日は大きな満月が上り始めていた。
こんな時スマホがあれば迷いなく撮っていたのに、目と鼻の先で鍵に阻まれている。
もう一度溜め息がこみ上げてきそうになって、視界に違和感を覚えて、俯きかけた顔を夜空へ戻す。
正確には、四階建ての校舎、その上にある金網の張られた屋上。
「あれ、何……?」
縦長のシルエットが揺れていて、ひどく不安定に見える。
大きく傾いてグラウンド側へ落ちる瞬間に、月と重なってそれが人影だと認識できてしまった。
悲鳴は喉に引っ込んでしまい、ただ息を吸うことしか出来ず腰を抜かす。




