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魔女の家  作者: お茶菓子
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8 白馬にて、登校

 朝、起きて窓を開けると、澄んだ心地いい風が流れ込んできた。洗ったばかりのカーテンが風に揺れて爽やかな香りをほのかに漂わせた。ボルドーのカーテンをタッセルでとめると、小花の刺繍がかわいらしい白のカーテンがはためいた。


 近くの枝にとまった小鳥がこちらを見てくる。


「きょうかは今日なにするんだ?」


「学校に行くんだよ」


「学校ってさ、こどもの群れだろ?群れに入るときはポジション取りが大事だよ。毎日ボスの何匹となりの位置を陣取るべきか、見極めるんだ」


「ふふっ。アドバイスありがとう」


「おうよ!」


 あの鳥はシジュウカラという種類らしい。昨日読んだ本に載っていた。

 黒白グレーをベースに背中だけ黄色っぽいグラデーションになっている。スズメほどの大きさで、得意げにむんっと胸を張る様子がなんともかわいらしい。このかわいい子達の中にもボスとかいるんだぁ。


 ドアの近く、濃い緑の軸に白いスズランの花を咲かせたポールハンガーには小学校の制服がかかっている。

 薄いグレーに紺のラインが入ったセーラー服が、私の通う東陵学園初等部の制服だ。制服に着替えて、白地に紺色の校章が刺繍されたソックスを履く。髪型はローポニーにまとめる。


「よし」


 顔を洗って階下に降りると、コーヒーの香りがした。

 キッチンカウンターに雅叔父さんがいた。無造作に整えた栗色のカールした髪の毛、大きめの白シャツに黒の細身のスラックス。シンプルな装いがとてもお似合いだ。ただコーヒーを飲んでいる姿に、ほぉとため息が漏れてしまった。差し込んだ朝日の柔らかい光に照らされた横顔は写真集の一頁のよう。なんて眼福な……。


「……鏡花ちゃん?」


 下ろした前髪の隙間から見える目が、楽し気にこちらを見ている。


「ぼーっとして……まだ眠いの?かわいいなぁ」


 かぁっと頬が赤くなる感覚がした。ぐぅっ。かっこよすぎる。


「えっと、おはようございます。雅さん。パナさんはお庭ですか?」


「いや、パナセアはまだ寝てる。朝ごはんにワッフル焼いたんだけど、食べる?」


「わぁ!嬉しいです!いただきます」


 カウンターの反対側からワッフルの載ったお皿をうけとり、私にはちょっと高い椅子に座る。


 焼きたてで湯気が立ち上るワッフルには蜂蜜がかけてあり、バナナとブルーベリー、クリームチーズが添えてある。


「お口に合うかな?」


 と言いながら、カフェオレもつけてくれた。


 朝から、雅さんの麗しい笑顔と美味しい美味しい朝食をいただけて、私は幸せ者です。



***



 東陵学園は初等部の生徒のためにスクールバスを二便運行している。今までは、学校の西から南を回る便に乗っていたが、これからは東から北を回る便に変わる。

 ただし今日は引っ越し後の手続きが終わっていないため、まだ朝の便には乗れない。帰りの便から乗れるように、昨日のうちにパナさんのサインをもらっておいた。提出するのを忘れないようにしないと。

 今朝はありがたいことに、雅叔父さんが送ってくれる。


 パナに行ってきますの挨拶をしに二階へ上がると、ちょうど部屋から出てきたところに出くわした。ちょっと酒臭い。パナはぼそぼそと何かを話した後、私の首に鍵のついたひもをかけてきた。


「えっと、パナさん……?」


 パナがかがんで私の耳元に顔を寄せる。


「鍵。家の鍵。無事に帰っといで」


 それだけ言うと、パナは亡霊のようにふらふらしながら部屋に戻っていった。




 パナの様子を雅おじさんに伝えると、呆れた様子で笑った。


「まぁ、大丈夫だよ。鏡花ちゃんが帰ってくる頃には元気になってると思うよ。さ、助手席どうぞ」


 クリーム色のフィアットのドアを開けてエスコートしてくれる雅おじさん。さながら現代版、白馬の王子様のよう。


 王子様の安全運転で学校に向かう。


「懐かしいな、この道。私も兄さんも、東陵学園の出身なんだよ」


「雅さんもOBだったんですか?」


「中等部までまでだけどね。高校からは留学してたんだ」


 お父さんが高校の生徒会長をしていたこと、その時に中等部に入学した雅おじさんが囃されて気恥ずかしい思いをしたこと、初等部の頃にやった悪戯の話、そしてその悪戯がばれてお父さんに叱られた話などを道すがら話してくれた。

 今やこんなに素敵な紳士だけれど、雅叔父さんは小さい頃はやんちゃ坊主だったようだ。お父さんは昔から呆れるほど真面目だったようで、変わらないのも面白い。


 もっと話していたかったけど、そんなに遠い距離でもない。あっと言う間に学校に着いてしまった。門を通り過ぎ、敷地内にある送迎用ロータリーに車を停める。


「雅おじさん、ありがとうございました!行ってきます!」


「うん、あ、待って。これ、プレゼント。とりあえず、私の電話番号だけ入ってるから。何かあったら連絡して。」


 車を降りて車から少し離れようとすると、呼び止められ小さな包みを渡された。

 包みを開けてみると新しいスマートフォンが入っていた。もともと持っていたのは事故の時に壊れてしまっていたから、タイミングをみてパナにお願いしてみようと思っていたんだった。


「えっ!っ雅おじさん!ありがとう!」


 窓から手をひらひらさせて、走り去っていく。

 

 車が見えなくなるまで見送り、校舎に向かった。

 三か月ぶりの学校。私が病院にいる間、とっくの昔に夏休みは終わり、今学期が始まってから一カ月が過ぎている。もう十月。初等部とは言え、もう六年生も半ば。そこそこ難しい授業も増えてきた。出遅れた分、取り戻せるかが不安だ。


「きょーかっ!」


 後ろから抱き着かれる。びっくりして振り返ると、クラスメイトの朝倉千鶴(あさくらちづる)が満面の笑みで立っていた。

 私に抱き着いたまま、千鶴が肩辺りに顔をうずめる。


「すぅぅぅぅはぁぁぁ。久しぶりの鏡花。会いたかった、寂しかったよぉ」


 す、吸われてる。なされるがままにしておこう。悪い気はしないし。


「私も会いたかったよ、千鶴。」


 顔を上げた千鶴は半泣きだ。


「スマホ、変わったんでしょ。返信もないし、既読にもならないんだもん。心配したよぅ。けど、顔見たら安心したー!早く新しい電話番号にアカウント、教えてよね」


「あはは、ごめんって。教室ついたら新しいスマホの設定手伝ってくれる?」


「まだやってないの?」


「うん、さっき新しいのもらったんだ」


「ふぅ~ん?そうなんだ?」


 そんな話をしながら教室に向かう。三カ月前と変わらない態度で、変に重たい気遣いを見せない千鶴に心の中で感謝しながら。

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