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魔女の家  作者: お茶菓子
7/11

7 家にて、嬉しい来訪者

「鏡花ちゃん。元気な姿が見れて嬉しいよ」


(みやび)さん!」


 思わぬ救世主の登場に喜びが隠せない。


 父の弟、雅叔父さん。私は彼の大ファンだ。数年に一度、ふらりと私たち家族を訪ねてきては、素敵な贈り物をくれる。洗練された装いに、父の弟とは思えないほど若々しく甘いマスク。幼いころは本当に王子様だと思っていた。

 去年会いに来てくれた時は、母とお揃いのネックレスとフラワーボックスをくれた。お母さんと同じデザインのアクセサリーを胸元に飾って、大人の仲間入りをしたような気持がして、嬉しかったなぁ。花はプリザーブド加工して、玄関に飾っていたけれど、今、あの家はどうなっているんだろう……。


 ふと、父と母との日々を思い出して、胸の奥がきゅっと締め付けられた。


 頭の上に、ぽんっと手がのせられた。温かい雅さんの手。


「……夜は冷えるね。中に入れてくれるかい?」


 私はこくりと頷き、雅さんを室内に誘導する。

 ダイニングでは、大蛙がこちらを興味深げ眺めいた。


 「よぉ、雅」


 「久しぶりだね。蛙のじいさん、来てたんだ」


 「そういやおめえこそパナセアの息子だったな。おめぇは "おじさん" か!けっけけけけ!」


 「じいさん、かなり飲んでるね。酔ってるんでしょ」


 雅さん、呆れたような仕草もスマートでかっこいい。

 ……え、雅さん、この大蛙と知り合いなの?


「鏡花ちゃん、聞いたかもしれないけど、この蛙のじいさんは裏山にある沼の主だよ。御年……700歳くらい……だっけ?蛙のわりに見聞が広くて面白いおじいさんだよ。昔の話を聞くとなかなか興味深い事実が聞けたりするけど、学校で習う歴史と混合しないように気をつけてね。」


「歳なんぞもう数えとらんわい。それによぉ、最近は長く住処を開けられねぇせいで、もっぱら井の中の蛙なんだわ。逆におめえらの話が聞きてぇよ。みやびぃ」


「あーハイハイ。あとでね。パナセアは?」


「薬取りに行くって、さっき出ていきました」


 と言った瞬間、キッチン脇の扉からパナセアが戻ってきた。


「じじぃ、これ持ってさっさと帰りな……何だい、雅じゃないか。おい、じじぃ。なんで酔っぱらってんだ」


 手には大きな壺を抱えている。パナセアはじろりと大蛙を睨みつけた。


「おぉぉ、これこれ!ふふん、これだけあればしばらく持つな。あぁ、酒もう全部飲んじまったから、あとで代わりに山菜のたぐいを届けさせとくわ。じゃ、お暇」


 そう言い残すや否や、大蛙は私と雅さんの間とすり抜け、脱兎のごとく帰っていった。


「あのじじい!!」


 空っぽの瓢箪を逆さにして、パナセアは鬼の形相だ。こわい。


「まぁまぁ、パナセア。ルーマニアのワインでもどうかな?今回の旅は東欧の方だったから、たくさんワイン買ってきたよ。まだトランクに積んである。鏡花ちゃんには、はい、これ」


 濃い赤色の液体の入った、お洒落なラベル付きの瓶を渡される。


「ブドウジュースだよ。お酒は成人したら一緒に飲もうね」


 無言でぶんぶん縦に首を振る。

 パナセアはまだ不服そうだ。


「……今日は日本酒がよかったんだよ」


 雅さんが食卓に目をやる。


「……焼き鮭にみそ汁、釜めし?……鏡花ちゃんが作ったの?」


「はい……。焼き鮭は焦がしちゃったのであまり出来に自信はないですけど」


「ふぅん。よかったね、パナセア」


「……ふんっ。もう寝る。雅、もらうよ」


 パナセアは雅さんの手からワインを取って二階へ上がっていった。結局もらうんかい!

 何だったんだろう。パナセアから少し、寂しい匂いがした気がした。



 雅さんは夕食がまだだったようで、みそ汁と釜めしの残りをよそって、一緒に食べることにした。


「この家で和食を作るのは、父さんだけだったんだ。その父さんが一昨年亡くなったからね。外食もしないパナセアにとっては久しぶりの和食だったと思う。鏡花ちゃん、ありがとう」


「……そうなんだ。よかった、かな?」


「ああ見えて、すごく喜んでたと思うよ。和食って不思議と落ち着く味わいがあるよね。特に、鏡花ちゃんのごはん、作り手の思いやりまで溶け込んだような優しい味がする。おいしいね。誰に習ったの?」


 ……なんて答えたらいいんだろう。家庭科の授業?それよりも、混ざった魂の記憶でつくったごはんだ。雅さんには嘘をつきたくないけど、うまく説明できる気もしない。


「えっと、なんていうか、その……」


 雅さんがこちらをじぃっと見てくる。黒に近い灰色の、優しさと慈しみに溢れた瞳。灰色というくくりでは同じなのに、私とも、パナセアとも違う優しい色合い。


「そうか。別の魂と一緒になったんだね。どうりで大人びたわけだ。いい人そうでよかった」


 ――言わなくても、分かってくれた。ありえないことだけど、不思議と怖さもない。


「なんで、分かるんですか?雅さんもパナセアと同じ?魔女なの?」


「少なくとも、魔 ”女” ではないかなぁ。私はほとんど人間だよ。むしろ、鏡花ちゃんの方が魔女に近い素質を持っていると思うよ」


「ほんと?私、魔女になれる?」


「うん。きっと。素質を磨けばね」


「そっか。そう……なんだ。嬉しい、かも」


 雅さんがにこにこしている。

 穏やかな沈黙が続く。


「……鏡花ちゃん、明日から学校なんでしょう。今日は早めに休んだ方がいいんじゃない?」


「うん。そうする。雅さん、明日また、たくさんお話してほしい、です。」


「もちろんだよ。なんでも聞くし、なんでも話すよ」


 おやすみなさいの挨拶をして、自室に戻る。


 明日の学校の用意をしながら、今日のできごとに思いを馳せる。今日は色んなことを知った日だった。事故の後、退屈だった病院生活から一変、感情の揺れ動きが激しい一日だった。

 逃げるように帰っていった大蛙の必死な様子を思い出して、ふふっと笑みがこぼれる。

 両親が逝って、一人置いて行かれて、どん底に落ちた気持ちがしたが、もう私は一人きりじゃない気がする。


 それに……この世界には、まだ見ぬ面白いことがあふれているようだ。


 今夜はいい夢が見れる気がする。

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