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魔女の家  作者: お茶菓子
3/11

3 家にて、知る

 気がつくと、朝だった。昨日見たふかふかのベッドに、私は横たわっていた。

 泣きつかれてそのまま寝てしまったみたい。


「あー……ちゃんと私だ」


 私は鏡花で、鏡花は私だ。転生してからずっと不安定な状態だったのが、ようやく地に足がついたような感覚がする。


 パナが私をここまで運んでくれたのだろうか。まだ小学生とはいえ、私の体は140cm、30㎏。そこそこ重かったはずだ。申し訳ないな……。


 窓を開くと、朝の澄んだ空気が入り込んでくる。昨日、表玄関で感じた不気味な雰囲気とは打って変わって、窓から見える裏庭は穏やかで明るい。木々が適度に伐採されていて、とても日当たりが良い。窓際の蔦を伝う朝露を小鳥がつついている。小鳥たちのさえずりが耳に心地いい。


 鳥が飛んで行った先に視線をやると、小さな井戸と畑が目に入った。畑ではパナが水やりをしているようだ。水やりが終わったのか、じょうろを置き、彼女はゆっくりと膝を折ると、土に顔を寄せた。




 ――突如、何もなかった畑の畝から勢いよく草が芽吹いた。



 ぐんぐん伸びて、伸びて、伸びて、葉を広げ、ついには鮮やかな花が咲いた。





 私は黙って窓を閉めた。



 が、その直後、窓の外から声がかかる。


「鏡花!朝ごはんにするよ!降りといで!」



 え!?何!?何が起きたの!?草が、生えて、花が咲いた。ありえない速さで。



「鏡花!無視するんじゃないよ!」



 急いで窓を開けて返事をする。



「はい!すぐ行きます!」



 窓のすぐ外の枝にとまった小鳥たちがこちらをじっと見てくる。


 そして。



「びっくりした?パナセアが魔女なの知らないの?」



 と言った。



***



 私が一階に降りると、ちょうどパナがキッチンの裏から入ってきたところだった。手には先ほどの花。


「パンを焼いとくれ」


トースターの音と、こぽこぽ水が沸騰する音が響く中、私は意を決して口を開いた。


「……パナさん、鳥が、喋ったんです」


「鳥も話したいことがあれば話すわな。それで?なんて言ったんだい」


「パナセアは、魔女だ、って……」



 パナはきょとん、とした顔をした後に、腹を抱えて笑い出した。


「あははははははははっ……あはははっ!魔女!あたしが魔女か!ひぃっ!そぉ、あたしは魔女だ!」


 パナの笑いは止まらない。


「鳥どももそう呼ぶようになったのか。はぁはぁ……おかしいったらありゃしない」


 理解が追い付かず、ぽけっとした顔の私を見下ろして、パナは面白そうに顔をゆがませた。


「でもね、その鳥どもの話し声がきこえたってんなら、あんたもその "魔女" ってやつだ」




チーーーーンッ




 パンの焼きあがった音がした。



 とりあえず、朝ごはんの、準備を、しよう。うん、そうしよう。


  パナは上機嫌な様子でプレートに朝ごはんをよそっている。私は、冷蔵庫からバターやジャムを取り出し、テーブルに並べた。


 朝食は、オムレツにベビーリーフのサラダとパンだ。怪しい花が浮かんだハーブティをパナが注いでくれた。


「これ飲んだら体が元気になるからね。しばらくは毎日飲むんだよ」


 ふわっと華やかな香りの合間に、漢方薬のような独特な匂いが混じる。


「それにしても堅物の慶次にはこれっぽっちもあたしの要素がなさそうだったのに、孫には遺伝したのか。いやぁ、人間はおもしろいねぇ」


「お父さんは鳥の声、聞こえなかったんですか」


「残念ながら。聞こえてたら、あたしの元を去ることもなかったかもね」


 しんみりした空気が流れる。


「あんたの部屋、もとは慶次の部屋だよ。面白味のない部屋だったろ?本棚の蔵書はなかなかにいいセンスをしていたが、それもほとんど持って行ってしまったからね」


 言われて生前の父の部屋には、棚に入りきらない量の本があったのを思い出した。


「カーテンやらシーツやらは替えがいくつかあるから、好きなのがあったら持っていきな。あと、家具は使ってないのが物置に転がってるはずだ。それも、好きなのがあったら使っていいから。鏡花の好きにしな」


「ありがとう。パナさん」


「……っふん」


 食べるのが早いパナさんは食器をもって立ち上がった。


 慌てて話しかける。


「あのっ、魔女について、教えて!」


 パナが軽く椅子に腰かける。


「あたしは魔女を自称したことはないんだけどねぇ。あたしは薬師パナセア。ひとものを癒す薬を作るのが特技だ。普通の人間にできないことができるのは確かだ。人はそれを魔法と呼び、魔法を扱える女を魔女と呼ぶんだろうさね」


「パナさんは人間じゃないの……?」


「人間じゃあないね。そもそも、この次元の出身じゃない。」


 事も無げに、とんでもないことを言うパナに畏怖の気持ちが心に芽生える。

 私はナニを目の前にしているのだろうか。


「そしたら、私も、人間じゃ、ない……?」


「お前はほぼ人間だ。鏡花、そもそも、人間か人間じゃないかって問題か?」


「えっ、だって、人間じゃなかったら、人間じゃなかったら……」


人間じゃないのは普通じゃないことだ。常識の範囲外。でも、だからってなんだ……?


「人間じゃなかったらなんだ。何にも変わんないぞ。鏡花は鏡花だ。そもそも、鏡花は生まれてこの方いわゆる "魔女" だったんだ。今まで、何か問題あったか?気づいてもいなかったってのに」


 パナはふんっと鼻で笑う。


 すとんっ、と納得ができた。何も、変わらない。確かに。私は私だ。


「この世界には、思ったより、いろんな人がいるんだね……」


「そーそー、さすがあたしの孫!もっと変なやつだっているさね!」



パナが嬉しそうに笑う。



「鏡花みたいに "そうか" って思えなかったのが、あんたの父親、慶次だ。見ないふりしたって存在してるのに。認められなくて、見なくていいところまで、逃げて行った。面白味のないやつだ」



寂しそうな顔をふいっと隠すようにパナはキッチンに向かった。



「あんたの食器も洗ってやるから、早く食べて持ってきな」



パナの言葉に、急いで朝食を食べ進めた。……え、オムレツうっまぁ……

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