33話 一難去ってまた一難
「電話出ないし……」
俺は響にルインでメッセージを送ったが、既読すらつかない。仕方なく直接電話をしてみるも、コール音がむなしく響いたあと、「おかけになった電話番号は――」という無情なアナウンスが流れてきた。
「全く……」
苛立ちを抑えつつスマホをポケットにしまう。せめてどこか行くなら一言くらい言ってからにしろよ。
「ひーくんと連絡取れた?」
椿芽が心配そうに聞いてくるが、俺は軽く肩をすくめて首を横に振った。
「残念ながら……」
「うーん、私も朱音ちゃんに連絡してみたんだけど、出なかったの」
「そっちもか……」
椿芽の言葉に、ため息が出る。
「2人とも、一緒にいるのかな?」
「いや、あの2人が一緒にいるってのはちょっと想像つかないんだが……」
「えー、でも同じ委員会だよ?」
「そりゃそうだが……」
椿芽の指摘に、俺は少し考え込む。確かに同じ委員会だが、どうにも2人が親しげにしている姿は思い浮かばない。
「でも、あの2人って仲良くないだろ。いや、最近はマシになったけど」
「そうだっけ?」
「お前、覚えてないのかよ……」
2人の最初の出会いは最悪と言っていいものだった。さらに、委員決めのときも色々とあったせいで、若狭さんが響を警戒しまくってたのを思い出す。最初は全然口をきこうともしなかったしな……。
「まあ、とりあえずもう少し探してみるか」
「そうだね……」
椿芽は少し不安そうな顔を見せつつも頷いた。俺はクラスの何人かに連絡を取りつつ、別行動で2人を探している鈴木にルインでメッセージを送る。こういう時に情報通がいると本当に助かる。スマホをしまうと、俺は再び椿芽と一緒に歩き出した。
「いないねえ……」
「そうだな……」
動物ふれあいエリアを端から端まで探し回っているが、未だ2人の姿は見つからない。時間にして15分以上は経っているだろうか。俺たちの足も少しずつ重くなり始めた頃、ポケットの中のスマホが振動した。
「ひーくん?」
「いや、鈴木だ」
着信画面を確認し、すぐに通話を取る。
「もしもし、鈴木?」
『あ、佐藤くん!2人の場所わかりましたよ!』
「マジか!どこにいた?」
隣にいた椿芽に軽くジェスチャーをして、見つかったことを知らせる。
『クラスの女子から聞いたんですけど、展望台のところで2人を見かけたらしいです』
「展望台……?」
『そうです!』
「そっか、ありがとう。助かった」
『いえいえ!僕もこれからそっちに向かいますね』
「ああ、展望台で合流しよう」
通話を終え、俺はスマホをポケットにしまうと、椿芽に詳細を伝える。
「2人、展望台で見かけたらしい」
「展望台って……ここからどれくらい?」
「えっと……」
視界の端にあった案内板を確認すると、展望台は完全に反対方向にあることがわかった。
「真反対だな」
「わーお……遠いね」
俺たちは顔を見合わせ、思わず苦笑いを浮かべる。ここからそこまで歩くとなると少し時間がかかりそうだが、仕方ない。2人のために足を動かすしかないだろう。
「行くか」
「うん!」
俺たちは2人がいるという展望台に向かって急ぎ足で歩き出した。
展望台へ向かう途中、鈴木とも合流した。そのまま勢いを殺さず進んでいくと、やがて展望台の全貌が見えてきた。
「あ……!」
椿芽が何かに気づいたのか、走りながら指を指す。俺もその方向を見てみると、展望台のデッキ部分に響と若狭さんの姿を見つけた。だが――妙に違和感がある。
「なんか……2人の距離近くないですか?」
「ああ……」
鈴木もそれに気づいたらしく、小声で俺に話しかけてきた。確かに2人の距離はやけに近い。お互い手を伸ばせば触れるほどの距離で、何か真剣に話しているように見える。
「……!?」
椿芽がそれを見て何かを察したのか、急に走るペースを上げた。そしてそのまま一直線に展望台へと向かっていく。
「お、おい、待てよ……!」
俺が呼び止めても、椿芽は聞く耳を持たず、どんどん先へと進んでいく。その背中を追いながら、俺も自然とペースを上げた。
「佐藤くん、僕ここまででいいです……」
「……わかった」
鈴木はさすがにこれ以上ついていくのは無理だと判断したのか、少し申し訳なさそうに言う。俺はそれを受け入れ、椿芽を追うためさらにスピードを上げた。
展望台に到着した椿芽は、エレベーターを一瞥もしない。隣にある階段をものすごい勢いで駆け上がっていく。
「階段かよ……このペースで……」
心の声が漏れそうになるのを抑えながら、俺も仕方なくその後を追う。何回か踊り場を通り過ぎ、ついに展望台の最上部へとたどり着いた。
そこには――眩い景色とともに、響と若狭さんの姿があった。
だが、俺は風景に感動している場合じゃなかった。
2人の距離は、さらに近づいている。いや、これ……キスしてねーか?
「何してるの……2人とも……」
息を整える暇もなく、椿芽が低い声で問いかけた。その表情には一切の温かみがなく、けれど――ニッコリと微笑んでいる。笑顔なのに、妙に冷たいオーラをまとっていて、俺は思わず背筋に寒気を覚えた。
「つ、椿芽!?」
「椿芽!?」
驚いたように響と若狭さんが声を上げる。響は慌てて若狭さんから距離を取った。
(修羅場……いや、これ修羅場すぎだろ……)
目の前の状況に、俺はひたすら胃を押しつぶされるような感覚を覚えていた。
(なんでこうなるんだよ……)
心の中で嘆きながら、俺はただこの場の空気に飲み込まれていった。




