17話 何気ない朝
朝の眠気に勝てず欠伸を噛み殺しながら、俺はいつもの待ち合わせ場所へと向かっていた。眠い目をこすりつつ歩いていると、いつも見かけない人物が目に入る。
若狭さんだ。
「若狭さんおはよう、ここで何してるの?」
声をかけると、彼女は俺に気づき、じっと睨みつけるような目でこちらを見た。
「む……お前は佐藤か」
その鋭い目に少しビビりながらも、どうにか平静を装う。
「なんで睨むのさ……」
彼女はすぐに視線を緩め、少し申し訳なさそうにため息をついた。
「すまない……そういうつもりはなかった。おはよう、佐藤」
彼女がそう謝ってくるものだから、少し拍子抜けする。なんだ、そんなに悪気があったわけじゃなさそうだ。
「いいよ、別に。それより、どうしたの?」
俺が尋ねると、若狭さんは少し間を置いてから答えた。
「ああ……実はな、待ち合わせをしているんだ」
待ち合わせ?こんな場所で?
「もしかして椿芽?」
俺が言うと、若狭さんは少し驚いたようにうなずく。
「よくわかったな」
「いや……俺もなんだ……」
その言葉に、若狭さんの顔が一瞬険しくなる。おいおい、別に悪いことをしてるわけじゃないんだが。
「お前が椿芽と……?」
若狭さんの視線が鋭さを増す。いやいや、椿芽だからって特別なわけじゃないぞ、と慌てて否定する俺。
「いやー別に椿芽だからって理由では」
軽く後ずさりしながら、どうにか彼女の鋭い視線から逃れようとするが、若狭さんの目には何か言いようのない警戒心が宿っている。
「お、2人ともいた!」
椿芽が元気よく声をかけてきた。振り返ると、椿芽と響、そしてアリスの3人が駅の中から姿を現す。
「神野響!?なんで貴様がここにいるんだ!」
若狭さんは驚きのあまり、大げさに後ずさりしている。
「うわ、なんで若狭がいるんだよ……」
響もまた、若狭さんを見て思わず後ずさっていた。お互いびびっている様子で、なんだか異様な雰囲気だ。
「私が呼んだの!」
椿芽はえっへんと胸を張り、得意げにしている。
「また人増えたね」
アリスはそんな空気を全く気にすることなく、若狭さんを上から下までじっくりと見つめていた。
「お前は……」
若狭さんが戸惑いながらアリスに視線を向けると、
「響のお嫁さん予定の棚木アリスです!」
アリスがニッコリと満面の笑みを浮かべて宣言する。
「は?」
若狭さんは何を言っているんだという顔でアリスを見つめる。
「いや、そんな予定してねーよ!」
響はすかさずアリスに突っ込みを入れた。
「むー、響のバカ……」
アリスはぷいっとそっぽを向き、少しふくれっ面をしている。響に突っ込まれて不満そうだ。
「まあ、とりあえずさ、ここにいると他の通行人の邪魔になるし、学校行きますよ」
俺はそんな微妙な空気を打ち破るように促し、みんなで学校へ向かって歩き出した。
朝の駅前は人が行き交っているし、ここで立ち話をしていると迷惑になる。椿芽が楽しそうに先頭を歩き、アリスと響もなんだかんだで並んでついてくる。若狭さんも少し緊張した面持ちながらも後ろからついてきて、俺たちは自然とグループの形になって進んでいった。
学校に着くと、俺たちは別のクラスのアリスを除いて教室に入った。いつものように、それぞれが自分の席に座り、周りの人に軽い雑談を交わしている。教室は朝の光が差し込んで明るく、どこか安心感があった。
「うし……」俺は自分の席に座ると、ちょうどその時、担任の先生がやってきた。
「んじゃ、立ってるやつ席座れー! ホームルーム始めんぞー!」先生の声が教室に響き渡り、生徒たちはそれぞれ静かに席に着く。普段通りの授業が始まると、教室の空気が少しずつ落ち着きを取り戻していく。




