14話 無邪気な笑顔と微かな寂しさ
「おぉ……凄く高いビル……」
アリスが、まるで子どものように目を輝かせながらビルを見上げている。その様子に響が近づき、「あのビル展望台あったはず」と教えると、アリスの興味はますます膨らんだようだ。
「なんと!登ってみたい」
声を上げるアリスに、響はやれやれと肩をすくめる。
「目的が変わってるぞ、さっさと行くぞ」
響が促すと、アリスは元気よく「はーい!」と返事をするが、その勢いのまま視界に映った遊園地にまたも引き寄せられてしまったようだ。
「響!響!遊園地ありますよ!遊園地!!」
興奮気味に叫びながら進んでいくアリスを見て、響は慌てて追いかける。
「アリス勝手に行くな!あーもー……」
ブツブツと文句を言いながらも、結局響はアリスの後を追いかけていく。
「アリスちゃん、楽しそうだね」
隣で椿芽が呟くと、2人の様子を見ながら俺は「そうだな……」と返事をするが椿芽は少し微笑んでいる。
俺達は県内有数の観光地に足を踏み入れた俺たちを待っていたのは、見上げるほどの超高層ビル、大きな観覧車がある遊園地まで揃った場所だった。
「別にここじゃなくても、いつもの駅で良かっただろ……」と、俺は少し不満げに呟く。近場の方が何でも揃ってるし、わざわざ乗り継いでまで来る必要はなかったんじゃないかと内心思う。日本有数のターミナル駅なら、もっと効率よく目的を達成できるのに。
そんな俺の呟きに、椿芽は微笑みながら
「まあ、せっかくのお出かけだし、こっちでもよくない?」
彼女のその一言に、つい反論する気も削がれてしまう。確かに、こうしてちょっと遠出することで、いつもと違う雰囲気を味わえるのも悪くはないのかもしれない。
「おいコラ、響もサラッと遊園地の中に入るな!さっさとショッピングモール行くぞ」
俺は二人に声をかける。何しに来たんだ、俺たちは。
響は慌てた様子で振り返り、「いや、俺は違くて!」と弁解するが、その隣ではアリスがきらきらとした目で遊園地のゲートを見つめている。どうやら彼女にとっては、ショッピングモールなんかよりも遊園地の方が断然魅力的らしい。
そんな二人を引き連れて、俺たちはそのまま少し歩き、大きなショッピングモールに向かった。周囲には観光客も多く、活気あふれる通りを抜けていくと、目の前に巨大な建物が見えてきた。
アリスの服選びに付き合って、俺たちは試着室の前で待機している。さっきから次々と衣装を変えながら出てくるアリスに、響は毎回のように無難なコメントを返すだけだ。
「響!響!どうですか?これ!」
アリスがふんわりとした清楚なワンピースを着て登場する。上品で大人っぽい雰囲気が漂っていて、確かに似合っている。
「似合ってると思うぞ」
と響は言うが、感想が淡白すぎてなんか物足りない。
「これとかどう?」
次にアリスが見せたのは、ボーイッシュなジャケットにパンツというスタイル。アリスが着ると、意外にカッコよく決まってる。
「いいと思う」
と、またしても無難な返事の響。
「今度はこれ!」
今度は少しロリータ系の可愛らしいワンピース姿で登場するアリス。リボンとレースがふんだんにあしらわれていて、これはこれでインパクトがある。
「可愛いと思うぞ」
と響は言うが、さっきから反応が薄い。
「響……」「ひーくん……」と、アリスと椿芽が響の語彙力不足に呆れ顔で見つめる。
「響お前、語彙力無さすぎるだろ……」
ついに我慢できなくなった俺は言ってしまう。
「う、うるせえ!そういうお前らはどうなんだよ!」
響は言い返してくるが、こっちはもう笑いを堪えきれない。
「そりゃ……地雷系みたいだなって」
何気なく俺が言った瞬間、その場の空気が一気に冷えた。
「……」アリスは軽蔑した目でこちらを見つめ、響は呆れた表情、椿芽まで「悟くんそれはさすがにないね」と溜息交じりに言ってくる。
「ごめんなさい……」
俺は慌てて謝るが、みんなの冷たい視線が痛い。
「全く男の子達は……アリスちゃんそのワンピース、ほんのりロリータ風で可愛い!、アリスちゃんの雰囲気にぴったりだしリボンとかレースもさりげなくて上品だし、なんだかお人形さんみたいだよ!」
椿芽は言う
「「おぉ」」
これが語彙力か……俺と響は思わず感心してしまった。言われたアリスも少し照れくさそうにしている。
買い物も無事に終えて、俺たちはショッピングモール内で昼食を済ませた。そしてアリスの「遊園地も行きたい!」という一言に押されて、再び遊園地へと戻ってきたのだった。
「うわあああ!」「きゃあああ!」
アリスと響は、ジェットコースターの頂点から一気に落下する瞬間、楽しそうな叫び声を上げている。俺はその様子を少し遠くから眺めつつ、隣にいる椿芽に問いかけた。
「椿芽、お前は一緒に乗らなくて良かったのか?」
「ううん、私はいいよ。今日はアリスちゃんの付き添いだから。悟くんこそ、乗らなくていいの?」
椿芽は首を横に振り、笑ってみせた。
「俺はこれさ」と言いながら、腕に掛けられたアリスのショッピングバッグを示す。
「ふふ、そうだね。重くないの?」と椿芽が少し心配そうに聞いてくる。
「重くはないよ、ただ……」
「ただ?」
「袋の紐が指に食い込んで、若干痛い」
「それって、十分辛そうじゃない……手伝おうか?」
椿芽が優しく提案してくれるが、俺は即座に首を振った。
「女の子に荷物持ちなんてさせられません!」
彼女はふふっと小さく笑って、「悟くんらしいね」と言った。椿芽の笑顔に、ちょっとだけ痛みが和らぐ気がする。
「響!次あれ乗りたい!」
アリスはキラキラした目で新しいアトラクションを指差し、響の腕を無理やり引っ張って駆け出していく。
「待てよアリス!」
困ったような声を上げながらも、響もまんざらではない様子で彼女についていった。
「悟くん、二人とも行っちゃうよ。私たちも行こ」
と椿芽が笑顔で言う。
「ああ、そうだな」
俺も軽く返事をしたけれど、その瞬間、彼女がふと見せた表情が気になった。
椿芽の微笑みにはどこか寂しげな色が混じっていて、目線の先には無邪気にはしゃぐ響とアリスの背中がある。
椿芽の横顔を見つめながら、俺は少し胸の奥がざわつくのを感じていた。




