ようこそ地球へ
ある夜、宇宙から何かが地球に落ちてきた。現場は町外れ。大きなクレーターができ、どこか未練がましく空に向かって煙が伸びている。
夜中ではあるが、はしゃぐにはむしろいい時間帯。現場に駆け付けた野次馬を始め、警察消防マスコミ、そして軍や科学者たちが口々に言う。
「干柿みたいな形だな。隕石じゃないか?」
「馬鹿。どう見ても自然物じゃないよ。ほらあの部分、人工的だろう」
「人工衛星だろう。熱で固まったんだ」
「宇宙ゴミじゃないか?」
「う、宇宙人の爆弾だ! 間違いない!」
「おい。今騒いだ奴をどっかにやっとけ。はぁーあ。しかしまぁ宇宙人か何かは知らないが、夜中になぁ。あー眠い眠い」
と、欠伸をする政治家。ついに宇宙人とのファーストコンタクトのときがと考え、現場に来たのだが肩すかしを食らったと不機嫌気味。
「まあまあ、もしかすると宇宙人の小型探査機。つまり前座。近々、本人が現れるかもしれませんから」と科学者。「いや、あれは巧妙にカモフラージュした他国の軍事衛星だ」と軍関係者。
しかし、事は彼らの予想から外れていた。その落下物には扉がついており、そして開いたのだ。
中から現れたのは無論、宇宙人。乳白色の身体。細身で目も白い。眩しそうに現場に設置された投光器の光から顔を逸らす。
その衝撃に現場に居合わせた一同は『オォー!』と驚嘆の声を上げた。それも二度。一度目は言わずもがなその登場に。そして二度目は、その宇宙人が突然倒れたのだ。
空気が合わなかったのだろうか。いや、長旅で疲労が……と、理由を考えるのはそこそこに人々はすべきことをした。
保護、手厚い治療だ。無論、相手が相手。未知も未知。専用の治療所を建設し、慎重かつ、真心も込め対応にあたった。
その甲斐あってか宇宙人は無事、意識を取り戻した。しかし、言葉がわからず、ジェスチャーによる意思の疎通を試みるも難航。順調に回復しているようで一安心ではあるが、疑問が浮かんでくる。
この宇宙人は地球に何の目的で来たのだろうか。大使にしては翻訳機なるものどころか、その身もあの小さな宇宙船の中にも何もなかったのだ。
そもそも操縦桿に、推進装置らしきものもない。当然、宇宙人の念動力や未知の技術の可能性もあるが、常識から考えてあれは宇宙船から切り離されたものなのではないかと、そう結論づけられた。
……と、なるとなぜ?
実は人類に致命的なほど有効なウイルスを体内に有していて……。実は凶悪犯で島流しに……。
いやいや、やはりあれが大使なのだ。我々がどう対応するか試しているのだ。いやしかし……と結論が出ない。議論が続く日々。
その間に宇宙人は完全に健康を取り戻した。多少、我儘な部分もあるが凶暴性は見られないので、大使であるということを前提に、とりあえず国を案内することにした。
どこか気後れしつつも自慢の施設、街並みをお披露目。科学技術こそ足下に及ばないだろうが、観光地としてどうぞよろしくとアピール。
相変わらず言葉はわからないがどうやら悪い気はしていないらしい。食べ物も口に合うようだ。そして……
「こっち見てー!」
「すてきー!」
「写真! 写真!」
「目線頂戴!」
と、群衆から凄まじい人気があった。当然だ。物珍しいだけではない。映画や漫画、小説。これまではフィクションの世界にのみ存在し、そして恐らく誰もが心の奥底で会うその時を待ち焦がれていた正真正銘、本物の宇宙人なのだ。
宇宙人は手を振り、微笑む。最初は戸惑い、怯えてもいたようだがそれもすぐに慣れたようだ。
いずれはこの様子を報じるニュース番組だけではなく、本格的にテレビ出演もあるかもしれない。いや、その頃には迎えの船が来るか。
……と思われていた、そんなあるとき。またも地球に何かが落ちてきた。
ついにか……! と思ったのは現場に着く前まで。どこか見覚えがあるその小型の落下物。見覚えがあると言っても色や形状は違うが、やはり扉がついていた。そして、中から現れたのも宇宙人。弱った様子なのも同じ。しかし……。
『今、二人目の宇宙人、通称セカンドが療養を終え、そして一人目。ファーストと対面の瞬間です!
……お、おぉー! っとやっぱり違う種族みたいですね。そうですよね。感動の再会とかではないみたいです。どこか気まずい感じがします。でも、他の星の方だとしたら、地球は今、大注目ということでしょう! 文化交流! いやー楽しみですねぇ!』
とある定食屋でそのニュースを見ていた男。一緒に来ていた職場の同僚に、ぽつりと話しかけた。
「なあ」
「ん?」
「……お前、親を老人ホームに入れるならどんなところがいい?」
「えぇ? そりゃ、いいところでしょう。あ、でもまず入るのも難しいんでしたっけ。お金の問題もあるしなぁ。まあ、綺麗なとこがいいですよねぇ」
「……じゃあ、山に捨てるとしたらどんな山がいい?」
「捨てませんよ!」
「どんな山がいい? 禿山がいいか? 熊が出る山がいいか?」
「ええ……そんなの、豊かな、そう、実りある山がいいですけど……あ、温泉とかあったり」
「ああ、だよな……。だよな……」