私は、暖炉
『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品です。
【本編に『小説家になろうラジオ』で指定されたキーワードが全て入っています】
コスモス/雪山/温泉/パスワード/たまご/和菓子/5年/金魚/帽子/クエスト/三日月/文化祭/暖炉
私は、暖炉。
100年の間この家に居て、いつも家族の幸せを祈っている。
「暖炉しゃん。これあげる」
末っ子のエイミーはおしゃまな子。いつもプレゼントをくれる。今日は一輪のコスモス。ちゃんと花瓶に入れて、水も入れて、レンガの上にきちんと乗せた。
5年前はまだ赤ちゃんだったのに、時の速さに驚いてしまう。
『ありがとう』は言えないから、炎をゆらゆら揺らした。
四姉妹の2番目はジョー。
活発な子で、いつも暖炉の前で芝居をする。
今は文化祭の出し物、劇に凝っている。
「お前のパスワードは見破った!」
張りのある良い声。
その内女優のたまごになるそうだ。探偵帽子を目深に被って。一人前の探偵を演じている。
拍手する手はないから、炎を余計にパチパチさせて喝采をしているんだよ。
「やけに燃えるなぁ!」って笑っているけど。
「こんなの作ってみたのどうかしら?」
はにかみ屋のベスだ。ベスは内気で料理が得意。今日は家族に和菓子を振る舞っていた。隣の家に日本人が引っ越してきたらしい。
「お魚の形だわ! キュートね」
「『金魚』って名前の魚なんだって……」恥ずかしそうに笑った。
家族が一斉に揃ってお茶をする時間が大好きだ。しゅんしゅんと暖炉で湯が沸く。
「あっちっち」
ケトルを鍋つかみでとってポットにお湯を入れるんだ。
メグはお母さん代わり。暖炉になんでもくべてしまう。
鍋をどーんと置いてたまごをいっぱい茹でる。茹でたまごが家族のご馳走だ。
「フォレストクエストだっ!」
乗り込んできたのは、近所の悪ガキローリー。
いつも我が家の居間でドッタンバッタン。冒険ごっこ。
元気なのはいいけど、暖炉に突っ込みやしないかヒヤヒヤするよ。消火用のバケツは切らさないで。安全に私を使って欲しい。
いつも賑やかな我が家だけど、静まり返る時がある。
家族総出で雪山にスキー旅行に行ってしまったとき。今頃ワイワイ温泉に浸かっているのだろう。
家の中は物音一つしない。暖炉の火は消えて、三日月が冴え冴えと誰もいない部屋を照らす。
だからみんなが旅行から帰ってきたときは嬉しくて。
「ただいま我が家!」
薪を投げ入れ、新聞紙に火をつけて、暖炉にくべる。
パチパチ、パチパチと炎がしだいに大きくなると、みんな一様にホッとした顔になる。
「やっぱり我が家が1番ねぇ」
「どんな王宮もここにはかなうまい」
この瞬間ほど満たされるときはない。
私は、暖炉。
100年の間この家に居て、いつも家族の幸せを祈っている。
*登場人物の名前は『若草物語』から取りましたが、特に関連はありません。名前もらっただけです。
これで私の『なろうラジオ大賞』応募作品を全て掲載終わりました。
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