勇者のはずが
グレイト・ゼブラ。田舎のまあまあ大きな騎士の長男である。父親が現役なので、長男から順に家を出て、修業の旅と自称するが、家は大抵の場合、末っ子が継ぐことが多い。
そのような家に生まれ、大して変わったことはない、剣や魔法、武術の才能が秀でた以外には、特にない…それがグレイト・ゼブラだった。
だが、彼は知っていた、いや、知っていたはずだった。月へも人が旅立つ世界を前世にした、その記憶をそのまま持って生まれたこと、そして、この世界がとある勇者が魔王を討伐するライトノベルの世界と全く瓜二つであり、自分がその勇者であることを。
彼は、15歳の時に勇者を捜す一行から、勇者の資格を持った者と見なされ、とある国の魔法学院入学、最終的に勇者認定をもらうのである。
それがなかった、つまりその一行はこなかったのだ。自分に勇者の力がみなぎっているのは分かっていたのだが、彼は鍛錬を怠ることはなかったが、自分が勇者であることを、積極的に喧伝することなく、習慣に従って旅にでて、各地を周り、信頼できる友情を勝ち得ながら、順調に旅をしていた。
勇者になれなかったことが悔しくなかったかと言われれば、当然、その思いは持った。かなり強く感じた、当然。ただ、勇者という立場と彼の生来の性格から、鍛錬を地道に待って、原作通りの展開、国を挙げて勇者を探そうという動きがなく、そのうち勇者候補が何人も見つかったという話を聞き、自分の記憶が間違っているのかもしれないと思ったことと、慎重に対応しないとと本能的?に思っての態度が積み重なって、
「まあいいか。」
と思うにいたることになった。そのまま冒険者として旅立った。勇者の力はあるから、何となく、気も楽だった。そして、冒険者としての生活、道のりは順風漫歩だった。聖剣も、本来のヒロイン達も、なにもかも無縁の存在となってしまったが、彼には次々と色々なものを手に入れることができた。
聖剣などの聖具は必要ない程の力はあったから、そんなものの必要性は感じなかった。そして、ハーレムだ。そんなものは、考えたこともない、人並み以上に性欲も、人など較べようもない精力もあるが、理性の力も、それを抑える力も持っていた。ただし、ハーレムは現在出来つつある、望んでいたわけではないのだが、とあくまでも彼は主張するだろうが。
それでも、未練がないわけではない。勇者候補達の、勇者の話を聞くと、できるだけ詳しく聞いたり、調べた。
「こいつは、聖剣エクスガリバーと聖鎧を手に入れ、魔法学校で出会う、勇者認定後特別に3年間学ぶことになっていた、悪役令嬢?と聖女?と結ばれたのは、名前が一度か二度出て、物語の初期に死んだ…たしか…モブ?授けられるはずの魔法石、魔法力を回復するものと索敵に役立つものを得て、三位一体教会の教会聖騎士女団長と聖修道女と結ばれたのは、侯爵家の次男で元々神童だったのが、傲慢に陥って…俺に突っかかってきて…最後に返り討ちされた初期の頃のラスボス?。それから…。まるで、転生者が原作知識で成り上がるパターン?…俺も転生者だし…他にも転生者がいても…おかしくないな。そういう成り上がりものは…なんか…勇者の立場からすると理不尽な展開になっていたな…なにも知らない勇者は闇に堕ちたりして…最後は、ざまあされたりする場合も。」
ここまで考えると怖くなってさえきた。これは、勇者と知られずひっそりしていた方がいい、と彼は結論した。
彼らと戦うことを考えなかったのは、
「彼らだって惨めに死にたくないだろうし、ある意味当然のことをしただけだったわけだから・・・。それに、このまま彼らが勇者様達になって、戦って、魔王を倒してくれればいいわけだし・・・。」
と思ったからである。
それでも、根がお人好しであるから、モブ的に、あるいは一兵卒として彼らを助けてやろうと考えなかったわけではないし、この世界で人間、亜人にとって魔族、その長たる魔王の存在は脅威だったから、協力するのは義務かも?とも思ったこともある。
しかし、止めた。モブだけど、悪役だけど、前世、原作、ゲーム知識を使って成り上がる、運命を回避する小説物では、えてして彼らと出会った勇者は、転落、闇堕ちの悲惨な運命を辿る場合が多い。それは嫌だ、だから、彼らとは無縁に近い所にいようと考えた。
今の所、それは成功している。“いや、成功していないかもしれない。”彼が、3杯目のジョッキを、半ばまで飲み干しているのを見て、互を牽制するように睨み合っている4人のパーティーメンバーを見て、彼はため息を漏らして思った。
彼は毎日は酒は飲まない。仕事が終わり、全てが一段落した上て、高い、修道院秘蔵ビールなどを飲む。それに、大ジョッキー3杯と、浴びるように飲むことはない。
「たまに、高いが旨い酒を、味わって、味が判る範囲で飲み、楽しんでいるんだ。」
彼の口癖だった。だから、そろそろ終わりだということなのだ。彼女らは、その後を狙っているのだ。彼女達以外の女性メンバーを含めた他のメンバーはそれを感じて笑いを堪えていた。
「4人とも、後で来てくれ。」




