ゼブラは進む
「行くぞ!」
と叫んだはいいが、つい魔王軍の砦の城壁の前に一人で起っていることに気が付いた勇者グレート・ゼブラは、さすがに焦った。できるだけ目立たないように、かといってある程度は否定されない、功績を認めざるを得ない活躍ぶりを見せないといけないし、あまりに評価される活躍をしたとはみられないようにして、かつ、魔王軍をできるだけ少ない損害で、大きな打撃を与えないといけない、それにはどうしようかと考えているうちに、こんなことになってしまったのだ。
「何をしている、と言われるかな?これで足下を掬われても困るしな…。」
とにかく、何かしようということで、
「我が足に、あだなす敵の城壁を砕く衝撃を!転真敬会奥義、大進金!」
と叫んで、身体強化を目一杯かけて、さらに足に衝撃?魔法をかけて、城壁を蹴りつけた。
「あ、あれ?」
魔力で強化されているはずの、そのような魔力を感じていたが、城壁の一部に、音をたててヒビがはいっていった。それが次第に大きくなり、その一角が崩れだしてしまった。
「?」
あ然としてしまったゼブラだったが、それ以上に突然、大きなヒビが城壁にでき、それがどんどん広がり、一部が崩れかけ、塊になって落下しそうになっている光景を目にした敵味方の双方全員が、ほぼ全てが、まず目が点になり、次にはどうしたらいいか分からない自分に途惑ってしまった。
“と、とにかく、どうにか取り繕わなければ…いや、そういうことではないか?え~と、よく考えろ…。この状態は…何だ、簡単なことだ。見方に有利だ、攻める側、攻城側に有利だということだな。そうやって、あらためて見ると、もうちょっとだな。”
彼は、身体強化をまた、目一杯かけて、水平打ちをした。再び、城壁自身の内部から崩壊を示すような地響きのような揺れと音がした。ヒビはさらに拡大し、完全に一部が崩れだし、塊が下に落ち始めた。
「う~ん。もう一撃かな?」
今度は、身体強化もせずに蹴った。すると基部が歪むように動き、かなりの部分が基部がから崩れだした。
「うわー!」
響めきが、両方から上がった。
「今だ!みんな、私に続け!」
崩れた瓦礫の上からグレートが叫び声が、敵味方に木霊した。しばらくして、我にかえった砦内の魔族の力に自信のある者達はゼブラに向かい、そうでない者達は腰がひけた。そして、我に返った攻城側は、直ぐに突撃する者達を見て全軍が突撃に移った。
「転真敬会奥義。小退火!」
向かって来る魔族達を、蹴りと水平打ち、体当たりで、一撃で数体ごとぶち壊している魔族達の後方が凍りついて、かなりの魔族達が氷付けになってしまった。
それが、彼の蹴りの一撃、水平打ち一閃で崩れ去ってしまった、中身の魔族達ともども。
「え~い!逃げる者は死だ!」
と叫び、巨大な魔大剣を掲げた魔族、狒狒顔だった、は、
「では、お前から死ね。」
ゼブラの脳天唐竹割りで真っ二つにされて、血を噴き出しながら倒れた。彼の親衛隊は、その前に彼の蹴りと水平打ちで一発づつで、まとめて倒されていた。
「勇者ゼブラ様に続けー!」
との攻城側の兵の叫びに、砦内の魔族は砦から出て逃げることに全ての望みをかけるしかなくなっていた。完全に掃討戦になったので、そちらは皆にまかせて、彼は奴隷や捕虜達を捜すことにした。
「本当に奴らは、魔族なのか?」
と思わず口にしてしまったゼブラだったが、
「そうです、私達は同族などとは思っていません、主様、何度も言ったとおり。」
との声が返ってきたので、納得して黙ることしかできなかった。
地下牢には、中には死んでいる者も死にかけている者すらいる、そして、劣悪な状態で捕虜が拘束されて閉じ込められ、奴隷達が寝起きさせられていた。それは人間・亜人さらには魔族の、老若男女の別なく、魔族が一番多かったようだが、という状態だった。
"奴らって、一体何なのだろう、何者なのだろうか?"ゼブラは首を捻った。魔族が、"あいつらは同族なんかじゃない。"という魔族とはなんだろうか、ということだった、問題は。"とにかく、学者、賢者や錬金術師、魔族の学者を連れてきてよかった。何か、彼我が何者か指し示してくれるだろう。"と自分に言い聞かせた。当の面々は、その状況を興味気に見ながら、大きな声で議論したり、その死体を解剖したり、観察したりという作業を淡々とこなしていた。
兵を休息させて三日後、魔王軍、かなりの兵力が迫っていることを知った。迎え撃つしかなかったが、急いでの軍議で進み、いち早く防御陣地を構築して迎え撃つということになった。それは、それ自体は予定通りにいった、ほぼ。
完成した野戦陣地に、予定通り魔王軍が押し寄せてきた。全ては想定内だった、ある一点を除くと。その一点とは、魔王が陣頭指揮していたということだった。
「しまったな・・・。」
魔王に負ける気も、恐れる気もなかったが、確実に勝てる気も自信もなかった。まだ、全開まで身体強化魔法をかけたことはないし、全力の魔法攻撃をかけたことはないが、どの程度副魔王レベルより上なのかわからなかった。日々強くなっている、鍛錬している、技術は向上しているのは実感しているが。それによもや倒してしまっては、後々が大変である。かといって、そんなことで躊躇していては、致命傷になっしまう、隙を与えてしまう。
「う~ん。」
とゼブラは迷った。
しかし、
「とにかく全力で戦うしかないか。」
と腹をくくった。