素直に勝利者として胸を張りなさい
「くっそ―。このまま足止めされていたら、魔王に個別撃破される。」
「何とか・・・もう一歩なんだが・・・。」
「守勢に徹せられたら苦しい・・・。」
「このままでは、主導権が握られたまま苦しくなる一方だ。」
後4人の勇者達は、歯ぎしり、していたとはわけではなかったが、しながら、目の前の副魔王や魔将軍達と対峙しながら焦っていた。優勢ではあったが、今一歩が進まなかった。相手もわかっていると思われた、それだけに焦った。退けば追撃され壊滅させられる、しかし押し切れない、そのままいって疲れ切って、力尽きて、そして魔王に叩かれて負ける。どうしようもない状況だった。苦しい、どうしようもない。
その時だった。魔王軍が彼らの前から引き揚げていった。どうして?
「ゼ、ゼブラ様が・・・勇者グレート・ゼブラ様が・・・。勇者グレート・ゼブラ様が、グレート・ゼブラ様の軍が来ました!」
誰の叫びかはわからなかったが、誰もがその声を聴いて、
「助かった。」
と感じていた。
「6勇者様。遅くなって申し訳ありません。敵の別動隊を撃破するのに時間がかかり、ようやく到着いたしたところです。参加できませんでした。お役に立てず残念です。」
ゼブラが跪いて、土下座せんばかりに、全軍の前で六勇者の前にいた。
"わかっているわよ。"
「何を言われます。支援の勇者様。ゼブラ様が駆け付けてくれたおかげで、魔王軍を退けることができたのです。」
7勇者と各国代表を交えた会議で決められたことだし、ゼブラの軍の来援は想定していないことであったから、彼は表されて当然ではあったが、“六勇者様より、功績が大とかなんてなったら、面倒だしな。”
一応は、これで王侯貴族部族長達は、納得した顔を見せてはいた。
が、その裏で、
「あのゼブラという奴は、わざと来援を遅らせたのでは?」
「あやつの軍の者達に質したところ、ろくな戦いはなかったと言ってましたわ。」
「魔王と六勇者様達の相打ちを狙っていたのでは?」
と六勇者の側に言いに来る連中がいた。そうかと思うと、
「僅かな兵を割り当てて、ゼブラ様だけを1人で戦わせたのは、魔族に殺させようとしたのではないでしょうか?」
とゼブラに告げ口のように言ってくるものがいた。
ゼブラは、六勇者に悪意を感じていないことをつねに口にしつつ、自分の戦いも吹聴していると思わせない程度に語る、強調するという難しい対応をせざるを得なかった。
そして、自分を後援する国々が現れていることに気が付いた。足繁く、それらの国の使者が彼のもとに訪れていた。
バディア達の母国である。何となく分かっていたことだが、このような支援、支持がないのも困ることから、彼は彼らが離れないようにも、言動を配慮していた。彼らもあからさまな好意や支持は打ち出さないようにしていた。
「あくまでも、魔王を退けたのは、六勇者様達ですよ。私は、そのお手伝いを舌だけですよ。」
と彼が言えば、彼らも、
「そのことは、よく分かっております。」
と応え、
「それでも、7人目の勇者様であるゼブラ様の功績も大きいですよ。」
と付け加えてはいた。
だから、各国の彼への手土産というか、報酬というかも抑えたものになっていた。主に金貨と当面必要な物、支援のための騎士団、少数ながら、提供にとどめていた。
「グレート・ゼブラ様。あなたには、できるだけ魔王城まで、先に進んでもらいたいの。やってもらえる?」
「分かった、可能な限り、やってみる。しかし、君たちの立場が悪くならないかい?」
「あなたには、できるだけ、魔王軍の戦力を潰しておいて欲しいのよ。あとから、本軍の先頭に立つ私達の負担を減らして欲しいということよ。」
「本心かい?」
「本心から言っているのよ。」
「分かった。できるだけ、やってみる。」
“断ったら、後が怖いからな。”グレートは、勇者ロピアの依頼受けることにした。
「六勇者様のための準備をしておきました。後は、お願いします。魔王討伐の報をお待ちしています、と迎えればいいかな?それとも、回復次第、後を追います、の方がいいかね?」
「後の方がいいわ。ありがとうございます。支援の勇者様、これで思う存分戦えます。後ろを頼みます。と言ってあげるわ。」
それでも、ロピアは、疑わしいという顔だった。
「あなたも、勝利者として、堂々と胸を張っていただいてよろしいのですよ。」
とさらに付け加える彼女の顔は変わらなかった。グレートには彼女の疑念は、分からないでもなかった。彼との力の差を嫌と言うほど見せつけられた今回の戦いで、下手をすれば自分が築きかけてきたもの、全てをうしなうことになりかねないからだ。
「それに、ロピア様には、魔族との提携、共存で尽力いただきましたから、そのロピア様の依頼は絶対ですよ、私にとっては。」
グレートは、しみじみと言うように言った。本心である。六勇者全員の合意のこととはいえ、前面に立って交渉して、色々な面倒なことを一手に引き受けて、人間・亜人の諸国諸部族の合意を取り付けたのは彼女だったからである。
“そうではあるけど…。こいつを、取りあえず信じるしかないわね。”下手に今から取り除こうとしたら、危ういかもしれないと、ロピアは感じてもいた。
「よろしくお願いします。勇者グレート・ゼブラ様。」
「はい。勇者ロピア様。」
2人は、立ち上がって、握手した。
「本当によかったの?」
「本当に良かったのか?」
それは、どちらの側でも声があがった。
「私達は、捨て石にされちゃうんじゃないの?」
とはバディだった。深刻な表情で心配するのは、彼女だけではなかった。ただ、
「私の部族からできるだけ多くの兵力を出させます!」
とのサンの言葉。
それに、
「それはありがたいな。」
とゼブラは言いつつ、半分はそれを期待もし、少しでもいい、多ければ多いほどいいと思い、後半分は、あまり多いと関係を心配させてしまう、六勇者にもまわさないとも思い、悩んでいた。
「少ない兵力しかまわさないと非難がでるぞ。」
「かと言って、多すぎて、活躍され過ぎたら困るぞ。」
「魔王まで、もう倒し終わりました、なんてことになるのも困るわよね。」
「でも、彼が倒れてしまっては、元も子もないのではないか。」
「まあ、あと一歩までいって、倒れてくれればいいんだけどな。」
他の5人の心配に、ロピアは、分かっているわよ、でもどうしようと言うのよ。彼女は、彼らの心配だけでなく、彼のために兵力を割くと、自分達の戦力の低下を招くことも計算していた。
「彼には、魔族の兵をできるだけ与えようと思うけど、全部というわけではなく・・・。」
頭の回転に言葉がついていかなかった。