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今日飲んだ竜神さまの生き血は、喉を通るところからもう既に熱く感じた。腹の中に入ると、内蔵全体がじんじんと温かくなるような感じが気になるような印象がしないでもない。



「うっぷ。なんだか段々と竜神さまの血をしっかり取り込めてきたような感覚がありますね。

なんならもうちょっと飲めるかもしれません」



『ふむ、そういうこともあるのか。

明日より少しずつ増やしてみようかの』



話す声を聞いて、違和感があった。



「竜神さま、意志疎通のスキルを切って下さい」



俺に言われた竜神さまは、瞬時に理解してくれた。



「コタロー、きこえる、こえ、わたしの」



「聞こえた!」



実際はもっと理解しにくい状態だったが、話してることの意味はまあ何とかわかる。


その後も色々と話したけど、難しい言い回しとか言葉が長くなるとどんどんわからなくなっていく。理解するためには何度も聞き返したり、ゆっくり言い直してもらったりしたらわからなくはないといった感じ。まだスキルを覚えたばかりだからなんだろう。


今まで二回、町まで行ったことはあったけど、その時は町並みを見て回るだけだった。今の状態で行ってもその時と比べて出来ることは変わらないだろう。俺がスキルで喋る内容はもっと理解できないと言われたからだ。



『しかしながら、まだ儀式が終わっておらぬというのに、素晴らしい適応能力よな。

言語のスキルはまだまだかかると思っておったが』



「異世界から来た俺みたいなのがスキルを覚えるためには、儀式関係ないってことですかね」



『…言って無いことであるが、我がこの儀式を施したのは今回が初めてではない。

前に試したのはこの世界の者だったが、儀式期間中に大きな変化はなかった。

コウタロウの場合、影響を及ぼすと考えられる因子が多いので何がとは言えぬが、恐らく普通のことではない』



前に竜神さまと儀式をしたという人に俺は興味が湧いた。


でも竜神さまの方から今まで何も言おうとしなかったのは、何か理由があると思った。だから何も聞かなかった。



「竜神さま、俺は言語のスキルをちゃんと身に付けたら、直ぐに旅に出ます。

この世界に俺の魂を馴染ませるには、この世界が俺の生きる場所だと自分に理解させなきゃいけないものだと思うからです」



『よく、理解しておるな。

今までもそう捉えられるよう、我もそなたに話してきたつもりよ。

我らは魂で繋がっておる。何処へ行こうとも、我はその旅を見守ろう』



ちょっと、しんみりした感じになった。


その3日後、俺は高熱が出て寝込んだ。


竜神さまは回復のための魔法は使えないらしく、使える人を呼ぼうとしたけど俺は断った。


竜神さまは今まで、俺がここに居ることを人に知らせようとしなかった。それに死ぬほどの熱じゃないと思ってたから。これ以上にきつい熱を出した経験があったから、割りと落ち着いてた。


そしたらやっぱり、次の日までに大分良くなった。その次の日はむしろ今までより体調が良い感じがした。


てなこと伝えたら、竜神さまは何か色々と魔法を使った後、考え込んだ。



『コウタロウはやはり特別なのかもしれぬ。

そなた、ほとんど魔物になっておる』



…どうゆうこと?



『見た目に変化はない。無いが、恐らく体内に魔石が存在しておるのだろう。

人間族として魔物に近付いたのか…。魔物としての性質を取り込んだ人間族なのかもしれぬ』



「…竜神さま、それって血を飲み過ぎたせいじゃないんですか?」



『…かも、しれぬ。

考えられぬが、本来の儀式としての効果が出始めるより、そなたの魔物への親和性が強すぎたため、それとは別の効果が現れたのか…。我の血から竜の生命力を取り込み、同時に本来の我らの魂へと戻ろうとしたのであろう』



「えぇ…、そこまで人間やめたくないんですけど」



『いや、人間族なのは間違いない。

そもそも魔石を宿した人族も存在している。

そなたを魔物だと言い出す者なども居らぬだろう』



うーん、なら良いんだけど。でもちょっと心配だな。


魔法とかがあるこの世界だと、自分の理解が及ばない何かが有るような気がしてしまう。


自分の存在が魔物として見られてしまったら、人族に追われる人生になってしまわないだろうか。それが心配だよ。



『それで話を変えるが、そなたのための装備なのだが』



お、装備?



『我の信者の中から随一の腕前を持つ鍛冶職人に、そなたの体格に合わせられた装備を作らせよう。また旅に必要な道具を信頼できる者に用意させる。

邪魔で無ければ、護衛も付けた方が良いかもしれぬ』



ちょっと、考えた。でも身の丈に合ってないと思った。



「竜神さま、それ全部いらないです」



『全部?何故か?』



「そうですね…。まあ、例えば俺が最高の装備を持ってたとして、多分使いこなせません。

生き残るために装備を良くするんじゃなくて、今の俺が生きていける道を自分で探したいです。

誰かに生かされるんじゃなくて、生きたいって思えるように」



『…この世界の右も左もわからぬそなたが、一人歩きなど出来るはずもなかろう』



「まあそうでしょうけどね。

でも他人に、竜神さまに全部やってもらいながら、ダラダラ生きていくのって……そういう運命しかないんですかね?」



自分がちょっとイラついてることに気付いて、それを少し恥じた。


竜神さまはきっと親心のようなもので、そうしなさいと言ってるんだろう。それに対して俺は、わからず屋な子供か…。



「俺にはもう夢とか希望とか、そういうのありません。生き甲斐が無いんです。

きっと誰かと一緒に居続けたら、俺のためだとわかっててもうっとうしくなって、その内喧嘩ばかりするようになりますよ。

竜神さまと一緒にいられるのは、終わりが見えてるから我慢出来るんです。しっかり話し合いましたしね」



そうだ。今、竜神さまと一緒にいるのは、言語を覚えるまでの間だけ。それが一番の繋がりだ。


まあ気も合うのも有るかもしれないけど。


もちろん良くしてもらってることは感謝してるし、たまには会いに来ようと思ってはいる。


でも頼るのはここまで。これ以上はない。



『…我にもその気持ちが解らぬでもない。

心残りではあるが、了解しよう』



そして俺は、見習いが作った鉄製の剣と適当な防具。二ヶ月分くらいの旅費になるお賽銭を分けて貰うことになった。


これもただ貰うだけってのは申し訳なく思うな。何かでお返し出来れば良いんだけど。でも今俺は何も持ってない。前の世界から持ってきた電池切れで使えないケータイと家の鍵、小銭入れ。それと身に付けてた服と靴ぐらいで、竜神さまにあげられるものは何も無い。


でも…俺も迷惑かけられてるもんな。この恩は踏み倒していいか。もう考えないでおこう。


一人そんな考えごとしてたら、竜神さまも何か考えてたみたいだった。



『コウタロウ、やはり万が一のことがあった場合、我を呼ぶ事を約束してくれぬか?』



「竜神さまをですか?

それって、俺が召喚魔法を使うということでしょうか」



『いや、違う。

日に何度か我から意志疎通のスキルを用いてそなたへ呼び掛ける。

身の危険があるなら、我を頼ってほしい』



ふむ、まあそういう感じですか。


意志疎通のスキルは使用者じゃない相手側、つまり俺の伝えたいことも伝えられる。念話の相互バージョンだ。



「いえ、スキルで話すのは数日に一回でお願いします」



『むぅ、それではそなたを助けられぬではないか』



竜神さまは困ったような感じを滲ませてた。

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