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何日も過ぎた。まだ言語の意味はわからず、スキルは得られていないんだろう。


竜神さまの生き血を飲むのにも慣れてきた。今日は飲んだ後、腹の底から熱を感じるような気がした。いつもとちょっと違う。


竜神さまとは色々な話をした。


しながらも、これからのことを思って体力作りのために山を登ったり降りたり、死蔵されてた剣で鞘付けたまま素振りしたり。


取り敢えず基礎体力を付けようと頑張ってた。


時々来る参拝者にはあまり姿を見せない方がいいと言われてたので、山を登ってる人が見えたら隠れるようにしてた。でもこの意味って何だろう?


竜神さまはこの間、一度だけ羽ばたいてどこかへ飛んで行ってしまったことがあった。


近くに強い魔物が出たらしくて、参拝者の一人が知らせに来たらしい。


どうも助けてほしくて、というよりは竜神さまの経験値にどうでしょうかという提案みたいなもので、別にわざわざ行かなくてもそのうちどこかの人族が倒してただろうって言われた。


ただ、何年かに一度のペースでめっちゃ強い魔物が出てくるらしい。


そういう時は本気で竜神さまにお願いに来るんだとか。



『この役目も元々は我が今のような神に至る前、人族に広めておった事なのだ。

可能な限り早く進化を遂げ、神へと近づきたかった故に強敵を求めていたのでな。

今ではたまの気晴らしとして行っているに過ぎぬよ』



「あー、そういうのありますよね。

こっちは一度だけと思ってやってあげたんだけど、相手側はもうずっとやってもらう気になってるから毎回毎回頼まれるような仕事とか。

こっちもやったことがある分、断りにくいっていうか、断るタイミング見失うっていうか」



『しかして、頼られて悪い気はせぬ。

更なる信仰心も得られるやもしれぬからな』



「それも気晴らしにもなる理由ですよね」



竜神さまの役目は他にもあって、この山にいるのもドワーフへの加護のためだ。


ドワーフに直接というわけではないけど。要約すると、山の下にある町の、鍛冶場の炉の火力を上げる加護を、この山にある地脈を通して与えてるらしい。


その昔、ドワーフ族の鍛冶技術が発展したのと同時に、燃料を大量に消費するようになった。


この世界の燃料と言ったら薪くらいのものだ。つまり木。


必然的に樹木が沢山切られるようになったことで、次第に森林資源に関わる大地神への信仰心が軽んじられるようになってしまう。


だから竜神さまを使徒にして、今の形にするよう使命を与えたのが俺達の運命の始まりだった。


でも竜神さまの言うには、信仰心のためというよりあくまでも環境のためにというのが大地神の言い分らしい。



『神々は信仰心の取り合いは決してしようとせぬ。

神と神が対立すれば、結果的に苦しむのは創造神の子らよ。それは誰しも望まぬ。

我のような使徒に与える役目とは世界にとっての調和。そしてバランスを整えることとなるのだろうな』


「うーん…。

建前だけのような気もしますけど」



『そんなはずはない。

もし大地神が信仰心を独占する気ならば、我が神にまで至ることはさせなかったであろう。

大地神が己で受肉し、我の役目を自ら行っていても良かった』



「あー、なるほど。

それなら竜神さまへの信仰心を独り占め出来てましたね」



…ということは元をたどれば、俺が恨むべきは大地神かな?ドワーフかな?


でもあんまり気にしてひねくれた人間になりたくはないな。この事については意識しないで無心でいることを心がけよう。



『鍛冶技術を発展させた代表的なドワーフも、信仰心を得て遥か昔に神へと至っておる。

現世には居らぬだろうが、強い信仰心を捧げている信者には声が届くことも有るという』



ふーむ、ならまだ存在が消滅してるわけではないのか。頑張って会うことが出来るんなら…まあどちらも一度は向かい合って話してみたいけどね。


その時に恨み言を言わないよう、心に留めておかなきゃな。


しかし、鍛冶か。前の世界でたまにテレビでやってた刀鍛冶職人の特集とか、見ちゃってたな。


カンカン打ったり、研いだり。職人と呼ばれる人が働く姿を見るのって楽しかったよ。



「今の時代だと、武器の技術ってどんなのなんですか?

銃とかってあります?竜神さまは聞いたこととか?」



『ジュウ?いや、知らぬな。

刀剣類は材質にもよるが、基本的に世に出回っている物の質はここ何百年と変わりはない。

魔法素材由来の物はまた様々よな。そなたが鍛練に用いておったのもその一振り。魔術抵抗に失敗すると行動阻害の状態異常に陥る。

スヴェーレ・ラーケンの作で、名を雪香(セツコウ)



セツコさん!あなた魔法の剣だったんですね。ブンブン振り回してばっかりいて申し訳ありませんでした。でもこれからもよろしくお願いします。



「そのスヴェーレさんってもしかしてドワーフなんです?」



『左様。鍛冶職にドワーフ族が多いのも、人族の中では火耐性が高く、筋力が優れているため。恐らく気質も合っておるのだろう』



まあ、俺のイメージとしてもドワーフは鍛冶職人って感じ。


火の粉に晒されながらハンマー叩いて、弟子を怒鳴り付けては浴びるように酒を飲む。これこそドワーフってもんよ。知らんけど。


そんなこんな話をして、晩御飯食べて最高に綺麗な夕日を眺め続け、完全に日が落ちると就寝。毛皮は水で洗って干したのにも関わらずまだくさい。


そして……異世界に来てから、初めて夢を見た。




きっと武器とかの話をしていたからだろう。


俺は光輝く魔法の剣を手にしていた。


それは意思を持ち、怒り狂っているかのように絶えず稲光を発し、俺以外のあらゆる物へと降り注がせる。


木も土も岩も、その怒りに触れて何もかも黒焦げになっていく。


気付けば、視線の先に一人の男。


渦巻く煙を身に纏っていた。


不穏な気配…。煙の色は、気付けば黒く染まっていく。かと思えば、拡散して視界を奪おうとしてくる。


何のために?きっと俺に何か悪いことをするためにだろう。


…なんだろうな。夢だと思っていたけれど、異世界なんだからもしかしたら夢じゃないのかも。


はは、夢じゃなかったら何だっていうんだ。妻と子を失ったつまらん俺が死ぬのか、それとも名前も知らない男を俺が殺すかっていう状況だ。世界にとってはどちらになっても男が一人減るだけ。


夢でも現実でもどっちでもいい。


俺は剣を振り払った。瞬間、轟く雷鳴。煙全体が強く発光し、跡形もなく掻き消された。


おっ、これ強いかも。調子に乗っちゃおうかな。


トンと地を蹴ると、グンッと前のめりに急加速していく。


このまま接近して斬ったら多分殺してしまうかな。でも思い止まって斬らなかったら俺も危ないか。なら覚悟決めて、振り切ろう。


ブンと剣を振ってみれば、今度は落雷の時のような、パーンと破裂するような気持ちの良い音がした。


光で一瞬なにも見えなくなる。


視力が戻ると、男の上半身は弾け飛んでいるところだった。


泣き別れの足はぼとりと倒れるが、くるくると回っていた上半身には暗い影を落としたように硬い表情をした顔が俺を見ていた。


灰色の瞳の赤褐色の髪。



「うっ!」



今度は俺に雷が落ちたんじゃないかと思うような衝撃で覚醒した。外は少し明るい。何時もよりも長く眠れてたみたいだったと思って、ようやく落ち着いてきた。やはり、夢だったか。


でも、これ程夢で良かったと思うことになるなんて。嫌な汗がどんどん吹き出て来るのを感じる。


心臓がドクドク脈打つ。まだ、アドレナリンが残ってるかな。そりゃそうか。


俺は一体、何なんだろう?人を殺してしまうことが怖いんだろうか?


…いや待てよ。俺は死後の世界であの子と、出来れば妻にも会いたいんだ。地獄に落ちないためには簡単に人殺しなんてしちゃいけない。こんな大事なことを忘れてたのか?


この事を肝に命じておかないと、取り返しのつかないことになってしまう。


まあ…あの世とか地獄とかが有ればの話なんだけど。


それと、えっと……今回の夢で気付いたことは、少しでも知り合った人が死ぬと、俺は結構ショックを受けるということかな。


もしもの時に戸惑ったりしないように、覚悟を決めておかないと長生き出来ないかもしれない。これもしっかり覚えとこう

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