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落ち着いてから、食べ物をもらった。
豆の煮物。案外普通の食事なんだなと思っていたんだけれど、味は良くわからなかった。鼻が効かなくなってるのか味気ない。
木の器に入れられたお酒もあったけど、酷く不味い物のように見えた。気分じゃないからだろう。
食べきれない量があったからほとんど残してしまって申し訳なかったんだけれど、この食事を用意したのがドラゴンだと思うと少し可笑しかった。っていうか、朝からお酒?どういうことだろ。
「竜神さまは、子供いないみたいなこと言ってましたよね。何か理由があるんですか?」
『うむ。竜種も様々であるが、基本産まれて間もない竜にとっては兄弟も補食対象なのだ。成長しても知能や理性が育たぬ場合もあるため、同種だからと敵対しない保証はない。故に親竜は卵を別々の場所で産むことが多い。そうなると殆どの個体が親を知らぬため、希に親殺しに至ることもある。
我には元々使命があった。自ら厄介事を増やす等、考えられなかっただけよ。
飛竜種はまた異なり、成長過程に囚われず親兄弟、同種で群れを成す習性がある。言ってしまえばほぼ鳥種であるな。
しかし知恵はさほど付かず、言語を扱うこともできぬ』
…後半ほとんど聞いてなかった。
「兄弟も…。
でも、竜神さまが子供を作らなかった理由ってそれだけなんですか?」
『…我がまだ若く、成長しきっておらぬ頃、番になろうと縄張り近くへ巣を作った、ある竜がいたのだが。
我は嫌悪しかなかった。我の欠けた魂のせいか、相手のせいかはわからぬが。
友と呼べる竜もその時々でいたが、本当の意味で心を通わせた訳では無かった。どの存在も、どこかで力の劣った存在と見下していたのだ』
「…なんか、嫌な奴ですね。竜神さまって」
『そなたにはそう思われてしまうかもしれぬな…。
しかし実際、そのどの竜も今は何らかの種族に滅されておる。
この世界では力こそ全てよ。生き永らえるには身を守らねば』
ドラゴンって最強ってイメージだったけど、なんかそこまで無敵って訳でもないのかな。
「じゃあ、今人間と仲良くしてるのは何でなんですか?」
『信仰心のためよ。
事象や存在が神へと至るには、生物からある一定以上の信仰心を得なくては成らぬ。
その点、人族は強い信仰心を他へ与えることが出来る種族。
仲良く、というよりは我が利用していると言った方が良いかもしれぬな…』
確かに人間の信仰に対する想いは強そうだ。俺の世界の歴史が物語ってる。
でもその点、俺はあんまりそういうのに当てはまらないような気がする。神様にお願い事なんてしても無駄だと思ってるし。
無謀な望みを神頼みしてる人がいたりすると、冷めた目で見てしまうこともある。何かを成したいならまず自分で頑張ってみないと。
「竜神さまって、どれくらい強い神なんですかね?
位って言うのか…。昨日、大地神ってのについて話してましたよね」
『神は…本来現世には居らず、天界で行うべき事をしておる。現世に降りるには受肉する必要があって、滅多なことでは降りてこぬ。
我は元々大地神の使徒であって、今は神格化前の肉体にそのまま宿っておる。単純な戦闘力ならそこいらの神が受肉した程度の木っ端に劣ることはない』
へぇ、神ってあんまし強くない世界なのか。
『大地神の使徒についても、もうその役目は終えた。
我は神となったが…未だ受肉したままで、完全な神ではない。亜神とでも呼べばよいか』
「神について詳しい事、俺も知っておいた方がいいでしょうか」
『神話は親が子に聴かせる伝承であるが、知らぬ者もまま居よう。聞き流してもよいが、一先ず始まりから話すがよいかの』
言語を覚えるという目的のため、とりあえず頑張って聞いてみた。
お話はこの世界の全ての始まりが、星の誕生について、という所から。そしてそこから、やがてごく小さな生物がこの星のそこかしこで産まれたことで色付いていく。その頃はまだ魔力もない時代だった。
地球と同じように絶滅と進化の枝分かれを経て、やがて僅かながらも知恵を持ち始めた生物達は、自分を作り出した何かへの感謝の想いを増していくようになる。
創造への信仰の始まりが起こった。最初の神、創造神が産まれたのがこの辺。
創造神は自身を構成するものが信仰心だと解っていた。また、当時は唯一の神であったため、友を、仲間を求めて、様々な信仰心を作り出したかった。そのため、手始めには生物を増やすことを主義とした。
創造神の創造神たる、創造の力をもって色々な生物が進化を経ずに産まれ、独特な生態系を築きながら、親である創造神へ信仰を捧げた。
この生物達を作った創造神には、既に魔法が使えていたのではないかと言われてるらしい。
その仮定を裏付けるかのように、創造神はやがて魔物を作り始める。
魔物は魔力との親和性が強い生物で、体内に魔石を持ってることが多い。魔力を用いて、創造神の力を使い魔石を作り出して、肉体を与えたということらしい。魔石は魔力の塊。強い力を秘めてる的なアレだ。
創造神はどんどん魔物を作っていたけど、彼らは戦って生存競争を繰り返してばかりいるだけで、あまり信仰心は増えなかった。信仰するくらいなら戦う力を付けようと頑張るような脳筋しかいなかったらしい。
それでも何柱かの神は産まれていた。
長い時が過ぎた頃、いきなりバグのように全く新しい生物が各地で誕生することになった。
人族だ。
一番ノーマルな個体ではあるけど、種族としては一番不思議な人間族と、それぞれ見た目の癖が強くて長所や短所がはっきりしてるドワーフ族、エルフ族、魚人族、獣人族。ドワーフより身長が低い小人族と、一体一体の戦力がドラゴンみたいな強い魔物に匹敵する巨人族がいて、合計7つの種族がいる。
なぜ産まれたのか、誰が作り出したのかわからないが、彼らは強い信仰心があり、魔法も扱えた。生き残る力が強く、様々な生存競争に打ち勝っていきながらも、文明を築く知恵を持っていた。他の種族はまるで太刀打ちできず、どんどん生息域を広げ始める。挙げ句の果てに、集団性があるのになぜか種族内で戦争までし始めた。
俺からすると戦争なんて何でするんだろって疑問に思うくらいだけど、竜神様からすると凄いことらしい。
強くないと生き残れない世界で、より強い血を残すために殺し合い、下等な弱い血を切り捨てるという、種族内での血統正常化を常に行おうとしているように見えるのだという。
自分の経験値のために近くの兄弟にまでかじり付くようなドラゴンとは程度が異なるらしい。
他の種族からの身の危険もあるのに、そんなことが出来る余裕があることも驚くべき事なんだとか。
俺は…そうじゃなくて、下らない為政者に付き合わされる人類って感じがして、異世界の人間も馬鹿馬鹿しいなと思ったけどな。
まぁ、そんなこんなことしながらも、人族は爆発的に数が増えた。
人族が生息域を広げすぎないよう、神々が対策を行うことも有ったほどだという。
具体的なところも挙げると、人間族を真似て魔物が作られるようにもなった。
ゴブリンとかもいて、そういう人形の魔物がそれに当てはまるらしい。
知恵、集団性、道具を使うところ、二足歩行等々。
また、魔物の方も人族を真似て進化した種族が出始めたらしい。
人形混じりの魔物とか。
そして、今は人族から何人も神に至る存在が出てきていて、古い神々の役割をいつか人族が取って変わるときが来るのではないか、というのが話の終わりになる。
といっても、急激に繁栄した人族だったけれど、現在はその支配も大きく広げられることなく、何千年も経ってるらしい。
だから世界にとっては今が一番安定してる状態なんじゃないかな。
あと、一つ気になったことがある。
元の世界でファンタジーもので扱われてた種族とか魔物が、この世界ではいきなり出てきたり、そのいきなり出てきたやつの真似して作られたりしてる。
何か繋がりがあるんかな?