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3-10

「…この先なにか居る」



道から逸れて森に入ってしばらくしたところ、ラクシュ君が何やら察知したみたいだ。ここまで来ると全員無駄口も無くて緊張感が伴ってきてた。



「一旦止まろ。

えっと…私とラクシュで見てこようと思う。良いよね?」



声を潜めたリンダさんが確認するようにマドクさんへ声をかける。リーダーなのにちょっと自信無さげだな。



「ラクシュ、お前は何だと思った?

今解る事だけでも良いからとりあえず言ってみろ」



「…まだ遠い、下草を踏む音は聞こえる。でも多分人型じゃない…気がする。

何か食べてる音もしない。……2体以上は居ると思う」



すげぇ、俺全然わからんのに獣人族ってこんなに感覚が優れてる種族なのかよ。


10メートル位先なら全然見えるけど、50メートル先になると何があるのかわからないような植生の森だ。耳や鼻がいいと便利だなぁ。


…あれ?ダミカはどうだったんだろ?そういう索敵系では何にも言ってなかったな。ということはラクシュ君の方がレベルが高いとか、獣人族の中でも感覚が優れてるタイプなのかもしれないな。


そう思う俺だったけど、マドクさんの評価はよろしくない様子だ。



「だったら『何か居る』じゃなく、『人型以外の可能性が高い何かが複数この先で足音を立てている』って言え。

で、匂いの方はどうなんだ?」



鋭い指摘だと思った。これが本職の冒険者か…。



「今は…血の臭いが強くて嗅ぎ分けられない」



「だろうな。だからさっきの解体はお前がするべきじゃなかった。

リロイがまだ経験不足なんだから、リンダもそういう所まで考えろ。誰に何をやらせるかをな」



「う…ごめんなさい」



「…俺が勝手に前に出て仕留めたせいだ、悪い」



ふーむ、仕事前に酒飲むなんていい加減な人だなって思ってたけど、案外しっかりとした指摘をしてるように思える。勉強になるわー。



「ラクシュ、自分で仕留めた獲物に思い入れ強くってさ。だから前から止めろって言われてるのに、ついつい解体やっちゃうんだよねー」



俺も戦うかもしれないので、背負子を降ろすのを手伝ってくれてるフラッド君がこっそり教えてくれる。拘りかー、そういうのあるタイプに見えないけどねー。



「じいちゃん、そこに新しい足跡があるよ。3本爪だ。鳥じゃない?」



ディーク君が地面を指差す。柔らかい場所を踏んだからか、確かに一ヶ所だけくっきりと鳥の足跡が残ってる。しかしこれ大きくね?ダチョウくらいあるサイズに見えるんですけど。



「そうだな、この足跡は大型の鳥のだな。

確かに新しい。よく見つけたなディーク」



マドクさんは孫の小さなお手柄に嬉しそうにしてる。へへっと誇らしげに鼻の下を擦るディーク君の頭をぱしぱし叩いてた。



「あ、じゃあ……ディークと私、それと…リロイで先に行こう。

見付けたらディークは魔法で攻撃、弱った相手を仕留める。

もし向かってきたらリロイと私で応戦するから、その間に皆集合して」



さっきよりは自信ありげな指示。これなら良いんじゃない?



「良いぞ。それで行くか」



マドクさんのゴーサインも出た。やったね。


ところが、接近中に気付かれてしまったらしい。


グワグワと叫ぶ鳥の鳴き声と慌ただしい足音の後、ディーク君が魔法を放つ声が聞こえた。急いで皆で向かう。



「外した!」



ディーク君の声が響き渡る。魔法を外したってことか。マドクさんは……モニクさんの後ろにいるな。あんまり急いでない感じだ。



「ヒクイドリの幼体!」



リロイ君が知らせてくれたのは、多分魔物の種類なんだろうな。ヒクイドリって、前の世界でも居たっけ。


俺はとりあえず鞘から剣を抜いた。


現場に着くと、翼をバサバサ広げて威嚇するように鳴く大きな鳥がいた。そいつに向けて、リロイ君が正面から必死に槍で応戦してる。リンダさんは横から足を狙ってるみたいだ。


アヒルみたいな幅広の嘴に、体格の割には小さな翼。ダチョウよりかはだいぶ太く見える首と、その頭の上にイルカの背鰭みたいな形のピンク色したトサカが乗ってる。なんか弱そうな魔物だな。でも足が長くて背の高さは俺と同じくらいある。


大きさが驚異になるかというと、そうとは感じられず。というより、とれる肉の量が多そうだなって印象だ。今日はトリニクパーティーかな。


群れだったらしく同じような5羽くらいが四方へ向けて逃げるように散っている。残ってるのはこの一匹だけか。



「ハイッ!ハイッ!」



リロイ君が掛け声と共に槍を突き出してるけど、俺の眼から見ても踏み込みが中途半端で全く有効打になってると思えない。それにリンダさんもリロイ君の攻撃が決まるのを待ってるだけで何も仕掛けない様子だ。ヘイトは完全にリロイ君に向かってるのにね。


ディーク君は杖を構えてリロイ君の後ろにいた。こっちは魔法の準備中なのかもしれない。



「ま、いっか」



リンダさんとは反対の方から近付いて、お尻の辺りに深く剣を突き刺した。絶叫する鳥。


すると、前のめりになる鳥に引っ張られる。あれ、剣が抜けないな…。


ちょっと焦るけど、その間にリンダさんが脚に斬りかかってくれたお陰で体制が崩れたので、羽毛を鷲掴みにして引き倒す。バタバタ暴れながらも横倒しになった所、リンダさんが薪割りのような斬撃をお見舞いして首を切り落としてくれた。助かったぜ。



「ちょ、みんなこっち見て!」



フラッド君の叫びで振り向くと、鳥が3羽集まってる。逃げた奴が戻ってきたのか?マドクさんとモニクさんとラクシュ君とフラッド君が相対してる訳だが、対応しきれるのかこれ?



「ディーク、撃つなよ」



マドクさんの言葉は、魔法を使うなってことか?むしろ魔法を使う場面じゃね?


疑問に思いつつも、鳥のケツから剣を引っこ抜き、ラクシュ君の横に並ぶ。彼はその時点でもう既に何回か嘴をぶつけられてた。


ちら、と彼の顔を見る。犬の獣人なので少し出っ張った鼻と口、そこから血がポタポタと垂れて、革で出来た胴鎧を汚していた。


カッと、頭に血が上る感覚…。彼に対して仲間意識が芽生えるには早すぎるだろと思う。けど、魔物なんかに危害を加えられ、この若者の毛むくじゃらの顔に傷でも残ったらと思うと我慢ならなかった。



「おうっ!」



上段に剣を構えて大きく間合いに踏み込む。嘴で突いて来るとわかっていたので、それに反応するつもりだったけど、見えていても対応できる速度じゃなかった。速すぎる。


硬い嘴で頭を痛打された。だけど、思いの外軽い。怒りを上乗せして、全力で振り切る。


攻撃から引いた鳥の頭を確かに捉えたけれど、刃はさほど食い込まずに往なされた。頭が軽過ぎるのか!


ならばと更に踏み込んで、首の根本へ向かって剣を叩き込む。が、太刀筋がへなちょこ過ぎてか上手く肉を斬れなかった。


倒せてないけど、それでも俺の攻撃で鳥は大きくよろめく。



「良いね!」



喜ぶようなフラッド君が一太刀浴びせたと思ったら、連動したラクシュ君がもう既に胸の辺りに剣を突き込んでいた。


俺はしっかりと剣を握り直し、刃が立つ振り下ろし方をイメージする。味方の位置にも注意しながら、苦しむ鳥の首に剣を振り下ろした。


剣から伝わる感触はスパッとした爽快な切れ味ではなく、筋肉やらの繊維や、骨とかをブツブツと断ち切るような感触。より生き物を斬ってる実感がそこにはあった。


完全には切り落とせなかったけど、それでも半ば以上に断ったために切断面から上側の首が、だらりと垂れ下がる。傷口から血がドバッと流れ出た。足元からぐらぐらした後、どっと倒れ込む。もうこいつは死んだだろう。



「他の鳥は!?」



まだ居たはずと周りを見回す。するとマドクさんがテクテク歩きつつ立ち位置を変えながら、2匹のヘイトを自身に集中させていたのが目に入る。


その様子はまるで戦闘中とは思えない。威嚇しまくってる鳥達が場違いに見えるな…。


何て言うか、休日に中古車を見に来た中年男性が、車のボディーにキズが無いか、内装が汚れてないかチェックしてるくらいの雰囲気と動き方をしてて、ちょっと異様だ。



「リロイとモニクはよく見とけよ」



びっくりな話だけど、今やっとマドクさんが剣を鞘から抜いた。重そうな肉厚の剣だ。


無造作にも見える姿勢で一歩接近する。当然鳥は嘴で突いてくる。それを苦もなく左手の盾で叩き上げ、次いで右手に持つ剣で、さらけ出された首を切った。頭を切り落とすのではなく、首元を浅くピッと裂いただけ。


意図は直ぐに解った。頸動脈を切ったんだ。



「すごっ」



戦い方がスマートすぎる。盾で弾いてからの剣の一撃まで全く無駄がなくて流れるような動きだった。さっきの俺とあまりにも違いすぎて、思い返すと恥ずかしくなってくるぞ…。


首を切られた鳥はビュービュー血を吹き出しながら、地面にひっくり返ってのたうち回っている。



「リロイとディークとモニクで残ったこいつを仕留めろ。

リンダ達は逃げないように囲めよ」



もう完全にマドクさんがリーダーになっちゃってるんだが、誰からも反論がない。あるのはリンダさんが立ち位置の指示を出してるくらいだ。



「リロイ、動きが遅いぞ。ディークも今もう一発撃てただろ、しっかりしろ」



モニクさんはリロイ君よりか少しだけマシ程度で、威勢良く積極的に攻撃はするけどあんまり剣に力が乗ってなさそう。むしろ武器のリーチの分、まだリロイ君の方が戦力になってるような気さえする。


ディーク君はマジックジャベリンという魔法を撃ってる。前使ったヒートバリスタよりも細くて短いけどマジックアローよりかは太くて長いし当たったときの衝撃も強そうだ。今ので3発目だけど当たったのは2回。それだけで倒せはしないけどじわじわ削ってるみたい。



「はっはぁっ」



リロイ君の荒くなった呼吸音が聞こえる。大丈夫かなと心配になってる時に、モニクさんが鳥に蹴られた。派手に地面を転がる。



「うわぁモニク!」



俺も少し動揺して、加勢してしまおうと思ったけど既にディーク君が走り出してた。剣を鞘から抜くと、一太刀目で脚を折り、翼で叩かれながらも二太刀目で鶏冠頭を割ってしまう。あれ?剣で戦った方が強くね?


魔法が命中してて弱ってたのはあるだろうけど、それでも剣の実力の方が高いと思う。というか、その魔法もディーク君が使ってたんだし、一人で倒したようなものじゃん…。


そこまで考えてから府に落ちた。マドクさんの孫なんだから、マドクさんから剣の稽古を受けてたとか、そういう経験値があっておかしくないよな。



「痛っ、いたたた…」



モニクさんはお腹を抑えてた。大丈夫かな…?



「怪我は!?あ、でも…えっと、ラクシュと……コロウさん周り警戒して…くれます?」



お、確かに戦闘後の警戒も大事だよね。了解了解。



「うん、任せてね。あと遠慮しないでいいよ、俺が一番新入りで下っ端なんだから好きに命令してね」



「リンダー、ラクシュも顔怪我してんだよー。

それにコロウさんは背負子取りに行っておいてもらおうよ。

代わりに俺が見張りしとくからさー」



フラッド君が意見する。そうだった、背負子の事を忘れてたわ。



「あんたは口出さなくていい」



ところがリンダさんはぴしゃりと言い放つ。フラッド君に対してムキになってません…?そこまで間違ったこと言ってると思えないのに、ちょっと可哀想なんですけど…。



「俺の傷は大丈夫だ。血も止まりかけてる。

それよりリロイもモニクを診てやった方がいい。動けるなら早く場所を移そう」



「わかってるわよ。だから荷物は後で、でしょ」



「ねぇ、ちょっと喧嘩しないでよ…」



一番苦しいはずのモニクさんが仲裁することになるなんて、それが一番可哀想…。


こんなことになってますけど大丈夫なんですかねとマドクさんに聞こうとして、目を向ける。そこには一点を見つめながらゆっくりと剣を鞘から引き抜いているマドクさん。


え、何で?と思ってから答えに行き着くまで一瞬だったけど、それが何かを理解する前に背筋にゾクッとするものがあった。



「警戒してッ!」



大声で注意を呼び掛ける。その声に反応したのは敵の方が早かった。


マドクさんの視線の先にある、樹木の影から何かが複数飛び出す。大きな虫かと思って、一瞬強い嫌悪感が沸き上がる。



「インプだ!」



ディーク君が教えてくれた。インプ……それって確か、悪魔だったよな?


悪魔と思うと強い魔物かと心配になるけど、これは身長が30センチ位しかない頭の大きな小人だ。角やら羽やら生えてて全身の色も黒いけど弱そう。


そう見た目で判断して楽観的になってたけど、インプの頭上に生じた魔法の矢が俺の肝を冷やす。



「こいつら魔法使うのかよ!」

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