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3-7

ザンカートは人族なら誰でも入れる。魔物に対する見張りは居るけど検問みたいなのは無い。犯罪者も勇気を出せば入ることはできる。


ただ、悪いことをするのならマジで命懸けだ。だってこの街は魔境の中にあるからね。魔素が濃いってことは魔法使いが有利になる。もしも指名手配されてたとしたら、アルノー様の使ってたようなマジックミサイルとかが、どっかからか飛んでくるかもしれないわけだ。


それにそれぞれの魔法に対抗する魔法も存在しているらしい。だから悪い事する側が魔法使いだったとしても常に優位になれる訳じゃない。


そして何より、この街に純粋な非戦闘員は存在しないと言っても過言ではない。なぜなら街の中でも魔物と遭遇することがあるし、俺だってここへ辿り着く過程でも何体か出くわしたしね。つまり誰も彼もが戦う用意がある人ばかりなのだ。


…まあ……その弊害か、血の気が多い人族同士の喧嘩が割と絶えないらしく、そういう奴らに限って滅茶苦茶に強いからか大きな争いに発展してしまうこともまあまあ有るそうだ。


巻き込まれないように気を付けよう…。そんな事を思いながら街へ入ると、冒険者らしき物騒な装備を身に付けた人達が沢山いる。誰も彼もが堅気じゃなさそうな人ばかりだ。


アルノー様の後を着いて行きながら、あらゆる人の邪魔をしないように気を付ける。すると広場に差し掛かった。



「…という御触れが王都で報告なされた。

かくして多大なる死傷者を出しながらも、映えあるマーキンス将軍閣下の指揮の下、王国は西方戦線を押し上げている。冬が来るまでには、国王陛下へ新たな勝利を届けることが出来るだろう!」



広場ではこんな感じで人々に向かって大声で語ってる人がいる。賑やかしかな?と思ってあんまり気にしてなかったが、どうやら戦争の話だったらしい。ダミカのお父さんの事が頭に浮かんだ。だけどそれだけで、今の俺には何にも出来ることはないと結論付けて記憶の海に沈ませた。今の俺はアルノー様の奴隷だ。


少し進むと、今度は違う人がギターみたいな弦楽器を演奏しながら吟うように喋ってた。



「命~を惜しむ……そこに名誉はあるのか~?剣を取るのは~誰が~為か?

おぉ勇者ハーバスよ~血に濡れたハーバスよ。光を失いながらも、どの神に祈ろうと言うのだろうか~…」



…これは、吟遊詩人とかいうものか?聴いてた人達の中からお捻りらしきものが幾つか投げられてる。



「ありがとう、ありがとう。続きを聴きたいという諸君ら、是非ともクレットロの酒場まで足を運んで欲しい。これから日が暮れた後も、親愛なる酒神の加護の下、語り継がれるべき物語に、共に酔いしれようではないか!

また勇者物語に造詣の深い紳士淑女方もご安心を!今まさに王都で流行している英雄譚をご存じかな?ザンカートではまだ誰も知らない新作だ。今宵新たな興奮をクレットロの酒場で、ぜひ堪能して頂きたい!」



王都か…さっきの人も王都から来たらしいから、もしかしたらその物語もう知ってる人いるかもね。


ちなみに通り過ぎずに長々と聴いていられたのはアルノー様が立ち止まってたからだ。知り合いっぽい人と立ち話してる。金属の塊みたいな大きな盾を片手で持ってる獣人族だった。尖った耳があるけど何の獣がベースになってるのかはわからないや。


すると丁度良くそっちの話も終わったみたいだ。アルノー様が歩き出すので着いていく。



「リオニードと戦っていたのは完全体に近いナーガだったそうだ。危なかったな…。

準備なく出会っていたら私でも殺されていただろう」



え、マジかよ怖…。


しかしナーガっていうのは聞いたことあるな。確か、前の世界のどこかの国の神様じゃなかったっけ?



「どんな風に戦ってくる魔物なんですか?」



「ナーガは蛇種から何度も進化を繰り返して巨大化し、知性と神性を帯びて変異した魔物だ。ラミアのような半人半魔の姿をしているが、その強大さは歴然としている」



おー、ラミアも知ってるぞ。上半身は女の子の体をしてる蛇で、ちょっとえっちな感じでファンタジー物に出てくるんだよな。



「肉弾戦では殆ど竜種の域に足を踏み入れている。その上魔法の扱いにも長けていて、召喚魔法も扱える程だ。

魔法由来の武器を何処からか召喚し、それらを両手で自在に操る。足音もなく高速で接近し、攻撃を図りつつも離脱を繰り返す戦法を取ってくる。

遠距離での攻撃魔法も気を抜けない」



やばすぎ、そんなん無理ゲーやん。



「この街って、しょっちゅうそんなのに狙われてるんでしょうか?」



「そうだ。頻度で言えば月に一度はあるだろうな。

だが安心しろ。街に被害が出ることは有るだろうが、巨人族が守っている。壊滅させられることは無いはずだ」



ううん…魔境に街を作るのって、それだけの危険を承知の上でもしたいってことなんだろうな。




そんで、程なくして俺達は怪しげなお店にやって来た。


アルノー様は俺に、『仕事を手伝ってもらう』と言ってたから、このお店はアルノー様の営む薬屋だと思った。だから薬作りや素材集めを俺にやらせるのだと思って中へ入ったのだけど、そうではないらしい。俺はまたもや微妙に騙されていたのだ。



「あら、かわいい子を連れてきたじゃない!」



この世界の人々の見た目についてだけど、美人さんやイケメンの比率は高いと思う。だけど、防具や布で顔を隠したり、フードとかで髪を覆う人も多い。


多分だけど、魔物との戦いとかで顔に残る傷を負ってしまったり、後ろ暗い仕事をしてるのに目立つ髪色をしてたら、そういうのを隠したくなるのも自然なことだと俺は思うんだよね。


そういうのも踏まえて思う。この人はめっちゃ美人さんだ。


そんで耳を見て確信する。エルフだ、それも女の人の。アルノー様と違って、ちゃんと見た目が麗しい感じのエルフだ。全然痩せこけてない。


くすんだ金髪に、緑色をした瞳で、この三人だけの小さく暗い店内のカウンターに彼女は座っていた。



「あの、アルノー様…この方は?」



俺の紹介をしてくれた後に聞いてみる。異世界から来たことは伏せられていたけど。


この人があまりにも綺麗なので現実味が感じられない程の印象を受ける。小学生の時に北欧から留学に来てた女の子を思い出す。テレビで見る芸能人さんよりも綺麗だと思ったものだが、今まさにそんな感じ。いや、その時以上かもしんない。



「ジルーセ様だ。彼女はエルフ族における進化の到達点に至った、真なるエルフ。ハイエルフだ」



「ハイエルフ…?」



気分がハイになってるエルフってこと?もしかするとアルノー様も進化したらもっと性格が明るくなるんだろうか。



「ふぅん、アルちゃんはそう言うけれど、私なんてちょっと年食っただけのババアなエルフよ。

若い子の手助けしたくて、ちょっとしたお(まじな)いをしてるのよ」



「若い子の手助けですか…?」



気になる点がさっきから沢山出てきているが、若者の手助けという部分が印象的に感じて、ジルーセ様の考えを勝手にあれこれと推測してしまった。


俺が、我が子の成長を見守ることが出来ない状況になってしまったことと、ダミカやランドル達との関係をいきなり切られてしまったことが立て続けだったからかもしれないが。



「それって、どんなおまじないなんですか?」



ちょっと興奮気味になった。ジルーセ様の扱うものを見てみたいと思ってしまったからだ。


しかし、ジルーセ様は言い淀むように少しだけ困ったような顔を見せた。何か言いにくいことなのだろうか?



「彼女は恋の魔法使いだ」



………は?


ぽかんとしてしまう。ジルーセ様が言わないからアルノー様が答えてくれたんだけど、この瞬間だけはアルノー様がおかしくなったのかと思った。



「やぁねえ。そういう依頼が多いだけで専門家ではないわよ」



う、うーん。ますます良くわからんくなってきた。この二人だけで話してるの聞いてても理解できないことだらけになりそうだな。



「…あの、ジルーセ様はどんな仕事をされていて、どんな魔法を扱われるのでしょうか?」



「大体中級位までの冒険者に対する相談役と、それらパーティーへの斡旋、って所かしらね。

魔法は、さっきアルちゃんが言った通りに恋の魔法って言えば簡単だけれど…。正確には運命や幸運に対する上昇補正を付与する魔法よ。…ちょっと難しいかしら?」



「あぁー…いえ、よく理解できました」



バッファー系の魔法使いか。そういうのもあるのね。



「お前にはジルーセ様からの依頼を優先的に行ってもらう。寝泊まりの宿は私が用意しておくから、毎朝ここへ来て命令を頂け」



「はい、承知致しました。

……さっきまでアルノー様の仕事を手伝うのだと思ってましたよ」



「ふん、薬品の調剤に素人は邪魔でしかない。だが素材の調達になら使ってやる。ジルーセ様からの用が無い日は私の仕事場に来るがいい」



「でもコロウちゃん丸腰じゃない。先に何か用意してあげたら?」



ジルーセ様は武器も用意してもらえなくて可愛そうな奴隷だと思ったんだろうけど、そうじゃないんです。用意してもらったけど一度の戦闘で壊してしまった愚かな奴隷なんです。



「……何か欲しいものはあるか?」



手のかかる奴隷だな、とでも言いたそうですね。



「あー、剣を頂けますでしょうか…?」



ここでまた木の棒なんか求めたら、怒られるの確定だったろうな。それに俺もあの時の蛇でもう懲りたし。刃の付いた武器が必要なのは十分理解したつもりですよ。ほんとマジで。

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