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3-6

何度か生き物を見つけた。


鹿や蛇や兎や鳥。どれも魔物と化しているらしいけど、アルノー様がマジックアローを放つとそれぞれ逃げていく。


勉強のため、その魔法を使ってもらう度に魔力の流れを見せてもらうけど、まだ理解しきれてはいない。なんとなく魔力の流れには法則があるのかな?って程度の理解が進んだくらい。


そして、中々命中しない。


アルノー様は相当熟練の魔法使いらしいけれど、それでもこんなに当たらないのは思いの外驚いたね。もしかしたら魔法の命中率についてはアルノー様より俺の方が上なのかもしれない。



「魔法の構築には思考する能力が不可欠だ。そして思考するためには様々な知識や経験が必要。

『マジックアロー』とは何だ、魔法とは何か。魔力は礎、創造力は骨、制御力は血肉だ」



俺が苦労してる所にアルノー様がこんな感じで話しかけてくれるが、よくわからん。禅問答かこれ?



「アルノー様、魔法って何となくで使ったら危ないでしょうか?

一度マジックアローを撃ってみたいんですけど」



他人の使う魔法を理解しようとしても、知らない国の言語を理解しようとするみたいで難しすぎる。俺が使う魔法を見てもらい、そこからアドバイスしてもらった方が学びが多いと思った。



「まだ早い。今は正しい魔法を感じ取り、正しく形作るための思考力を鍛えろ。

それに魔法を使うならば杖は別に用意するべきだ。良く使われた杖には使用者の魔力が馴染んでいる」



へえ、専用の杖が有るってことなのかな。杖の方から選ばれるような展開があるとロマンチックですねぇ。


あ、そういうのもあって俺から魔法に干渉してほしくなかったのかな。



「それでさっき俺が魔力を流すのを止めるように仰ったのですね。

もしアルノー様の杖を使ってしまったら、どうなるのでしょうか?」



アルノー様はしばらく言葉を選んでいるみたいだった。



「…使えないことはないだろうが、魔法を使う際は余計な要素を含めないことが肝要だ。

常に一定の効果を示す魔法を使えるように習熟してこそ、一人前の魔法使いと言える。

……干渉するなと言った件は、個人的な理由からだ。深く詮索するな」



具体的な理由があったわけじゃないのかね。アルノー様が嫌で嫌でしょうがなかったということかな。


事前に忠告しなかったのは、俺があの時魔力を流してくるとは思わなかったためだろうか。もしかして、魔力を杖に込めることだけでも結構すごいのかも?……いや、やっぱりそこは考えないでおこう。調子に乗ってしまうかもしれない。


それから普段は昼休憩の時間になったけど、それでも止まらずに歩き続ける。今日は急ぐみたいだ。アルノー様は食べてないけど俺は歩きながら食べた。


道の途中で大量の血が染み込んだ地面と、生臭い空気が漂っている場所を通る。そういう付近の草むらを見ると、まだ死んで間もないような生き物が転がってたりして、場合によっては死肉を漁るカラスみたいな鳥も集まっていた。戦いの後を思わせる風景だ。


前の世界で車を走らせてると、道路上に死んだ動物を見付けることが良くあったな。その時、人間は無情だなと思ったりもしたけれど、今は魔物との戦いを求める心を自覚している。だから魔物の死骸に対する憐憫の情は無い。


地脈の強い場所、魔素が多い魔物の住まう環境……魔境。


ここは森の中にある道だけれど、不気味な存在が辺りに潜んでいるような、そんな気配も感じられる。


子供の頃、初めて海に潜る時のような。夜の暗い闇に包まれた山へ踏み込んでいくような…。魔物への知識が少ないためか、得体の知れない何かへの恐怖心が魔境への実体の無いイメージを膨らませているような気がする。


そんな時、道の反対方向から向かってくる人達がいた。今までも行き違う人達はいっぱい居たけど、今回は何だか感じる印象が違うように思える…。あの人達は何なのだろう?



「アルノー様、あの人達見えます?

何だか妙な雰囲気が有るように思えるんですけど」



「…あれは貴族の娘だ。それと騎士と従士達だろう。

近付いたら私と同じ行動を取って動くなよ。機嫌を損ねれば無礼討ちも無いとは言い切れんからな…」



お、ここで第一貴族様ですか。異世界に来て初ですね。


顔が識別出来るくらいの距離に迫ると、アルノー様は周囲が安全か探ってから道の端に寄って、片膝を地面につけて頭を下げた。杖は地面に置いて手からは離している。攻撃の意思が無いことを示すってことなのか。


俺もアルノー様の横に行ってそれに倣う。集団がどんどん近付いてきた。


ちらりと盗み見るように集団を観察する。何だかキラキラしたオーラがあるような、そんな気がした。貴族様ってのは容姿というか、身に纏うもの全てから馬に至るまで何もかも仕上がってるものなんだな。なんというか……人として一級品って感じ。


それに騎士の方も頑強そうな鎧を着こなし、厳めしい顔付きで警戒している。この人に守られてたら安心できそうだ。騎士というものが人々から憧れられるのはこういう感じだからなのかも。


通り過ぎて行くのを待てば良いのだと思ってたけど、何と相手の方から話しかけてきた。



「…そこなエルフ、その清涼な髪色は青空の微笑みのような温かさを思い出しますわね。

顔を見せなさい」



…青空の微笑み?アルノー様の髪についてはどちらかと言うと、今にも凍り始めそうな冬の冷たい湖の水面みたいな印象なんだが。


貴族様の言い回しに違和感を覚えている俺を他所に、アルノー様は言われた通り顔を上げた。俺はまだ下を向いておく。



「どこか見覚えがあるわ。貴方からは?」



「アルノーと申します。薬屋を営んでおります。

ある魔法薬の製作依頼を承った折りに、子爵閣下の邸宅へ招集して頂きました。その時には他にも医師や錬金術師が数名おりましたが」



アルノー様の本職は薬屋さんだ。いわゆる怪我を回復させるポーションみたいな物じゃなくて、風邪や下痢とかに対応する薬を作って売っている。あと鎮痛剤も。回復系の魔法や魔法薬だと、バイ菌による病気とか慢性的な痛みとかは治し難いらしい。 詳しくは知らないけど。



「思い出したわ。あの時の。

…それで、その珍しい黒髪の…」



「この者には私の仕事を手伝わせようと遠方から雇った者です。ザンカートでは手頃な人材が見付けられず…」



話に被せるようにアルノー様が言うので少し意外だった。それは失礼にならないのかなって。


ちなみにザンカートという街は今の俺達の目的地だ。今日で到着する予定の。



「そう、遠方から…。

ザンカートの人口が増えることは喜ばしいわ。道中は気を付けることね」



それに丁寧な返事をするアルノー様。貴族様方は尊大な態度を示すように通り過ぎていった。




夕方に迫る時刻。花火のような音が遠くから聞こえてきた。火薬は作られてない世界のはずだから、きっと魔法なんだろうな。



「ふん、この足音はリオニードか」



「え?足音ですか?」



「この坂を上り切れば見える。お前が見るのは初めての事だろう」



意味深な感じでアルノー様が言う。気になるけど、まぁ見てみればわかることなんだろうな。


10分ほどかけて坂を登ると、見えたのは大きな炎…の、ように見えたがあれは…。



「えっ、あれってもしかして巨人族の…?」



「ああ、そうだ。

ザンカートを守護する巨人族3柱の内の1柱、土と火の巨人リオニード」



巨人族…人族中どころかこの世界中でも最強クラスの戦闘力を誇る種族だ。話には聞いていたけど、目にすると何かもう圧倒的だ。


身長は建物で言うと、5階建てくらいの高さがある。20メートルくらいか?


それにただ身長が高いだけじゃない、横幅も体の厚みも 人間族の比率よりも大きい。それが動いているのだけど、土と火の巨人と呼ばれるからには体を構成するものは土と火なんだろう。


強そうだ…こんなのに勝てる存在がいるのか?竜神さまでも勝てやしないんじゃなかろうか。しかもそれが1つの街だけで3体もいるんでしょ?やばすぎでしょ。



「あんなに……ここまで強そうな種族だとは思っていませんでした。

こんな人達が人族の味方なら、何で魔物がまだ絶滅していないんでしょうかね?」



「ふん、あの巨人族の力を常時使い続けられればそれも夢では無いだろうがな。

魔境に大きく踏み込んだこのザンカートの街であっても、巨人族の力を使えるのは数日に一度、それも大して長くは戦えない。

力を使えば魔素を取り込むため最低でも2日間はただの置物になる。その間は完全に無防備だ。他の人族に守ってもらわなければゴブリンにさえも殺されかねん」



ああ、そういう感じなんですね。超強いけどパワーのチャージに手間がかかるような、運用方法が難しいタイプの種族か。そう聞くとお互い守り会ってる訳だからギブアンドテイクって気がして、人族の間で対立構造が生まれないんだろうな。


そうこう話してる間にリオニードさんのその巨体を包み込んでいた炎が急速に弱まっていく。やがて消えてしまうと同時に動きを止めると、その場に座り込んでしまった。



「終わったな。

巨人族が活動しているなら強力な魔物が付近にいたということだろうが、動きを止めたならその脅威は去ったのだろう。行くぞ」



「は、はい。着いて行きます」



そうか、あんなのが動いてたってことは、それ程の魔物がこの近くまで来てたってことなのか。


もう街の近くだって言うのに…本当に、言葉通りに魔境って感じだな。

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