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体が重く、立っていられない。胸に穴が開いているみたいに、どうしたらいいかわからない程の虚無感に襲われる。


どう、生きていこう。このままだと、今日を乗り越えることさえ出来そうにない。


膝を折り、みっともなく啜り泣く。


辛い…。



「コウタロウよ。そなたの、想いを聞かせてほしい」



「…えっ?」



「我を恨む心があろう。

その想いは隠さずとも良い。

しかしそれもまだ話せぬというなら、どんなことでも。好きな話をしてほしい」



どんなことでも、か。


辛い事があったときは、妻によく話を聞いてもらってたな。


問題を解決してくれるようなアイデアを思い付くわけではなかったけど、真剣に話を聞いてくれていた。それだけで、心が楽になっていたことも多くて…。


だから何度も頼っていたんだよな。


………あぁ、妻とももう会えなくなったのか。


異世界に来る人たちって、どうやってこの気持ちと向き合って来てるんだろうな。


それこそ、物語の主人公になれるくらい心の強い人だとか、なにも感じないモンスターみたいな存在なんだろうな。


俺もそれくらいになったら、乗り越えて行けるんだろかな?



「あ、そういえばさっき、心が強くなるようなスキルとか話してましたよね?

俺もほしいです、そういうの」



どうしようもないと思っていたんだけれど、ここは異世界なんだ。この世界なりの対処法でこの辛さを乗り越える事が出来るかもしれない。


そうなったら良いなって、妄想レベルの話だけれど、なんだか希望が持てそうな、そんな気がしてきた。



「スキルか。

コウタロウが望むのならそれもよかろう。

しかして、そなたの場合はそこいらの人間族とはちと異なる方法で…」



と、ドラゴンが話してる最中に、穴の外の方から、呼び掛けるようなガラガラ声が聞こえてきた。



「ふむ、客のようだな。

コウタロウよ、無視は出来ぬので行ってくるが、直ぐ戻る。待っててくれるか?」



ドラゴンに客?というか、追い返すつもりなのか?


そんなことしなくても良い。俺を優先させるつもりなのかもしれないけど、むしろ一人になりたいくらいだ。ドラゴンにはその客人の相手してもらってたほうが都合が良い。



「いえ、俺の事は後で大丈夫です。

どこかに行ってますよ」



「よい。説明すると長いが、今そなたが人目に付くと厄介よ。

ここで隠れていなさい」



話してる最中にもガラガラ声は聞こえていたが、どうも俺には理解できない言語を使ってるみたいだった。


ドラゴンは立ち上がると、座ってる俺を悠々と跨いで穴の外へと向かっていく。


…こんな存在と魂を分け合っているだなんて、未だに信じられない。何かの間違いじゃないんだろうか?


ぼんやりと深緑の鱗を眺めてると、今度はドラゴンが喋りだした。口がちゃんと動いている。でも日本語じゃない。きっとこの世界の言葉なんだろうな。


するとガラガラ声の主も姿を現した。


太い腕と胴体、髭もじゃの顔、短い首。上半身だけ見えた。そこだけ見ると、ラガーマンとか、アメフト選手みたいで強そうな感じがした。


けど全身が見えると、今度は異様に足が短い事がわかった。というか、明らかに大人のはずなのに背が低くて子供みたいな、ちぐはぐな印象を受ける。


ドワーフだ。有名なファンタジー映画で出てきた人達だ。


ドワーフを見るとラガーマンみたいだって思えたのに、ラガーマンを見てもドワーフみたいだって思ったことがなかったのは何でだろう?



「コウタロウよ、その位置では見えてしまうかもしれぬ。

もう少し奥で隠れていてくれぬか?」



じっとドワーフを見てしまってたら、ドラゴンからの声がした。でも今も口を動かして喋ってるけれど、それとは別の事を話しているみたいだ。今もドワーフと日本語とは別の言語で会話していたから。


ソロソロと気付かれないよう、穴の奥へと身を隠しながら考え事をする。


俺と話すときはきっと念話で話をしてた。多分ドラゴンは日本語が喋れる訳じゃないんだろう。


恐らく、伝えたいことを相手が勝手に理解できるようにしてくれるシステムなんだろうな。


ドラゴンと俺が話してた時、何となく心情までゆるーく感じ取れていたから。



「待たせてしまったな」



ドラゴンが戻ってきた。話は終わったみたいだ。


もっと話してても大丈夫だったんだけどな。



「いえ、大丈夫です。

何の話だったんです?」



「この山の下に人里がある。そこの君主の代理とな。

地脈とこの火山、そして我を通して(もたら)す加護により、産業を支えておるのだ。

大地神からの密命でもあったが、今や隠す必要もないことよ」



「さっきの人、ドワーフ…で合ってます?

そういう種族なんですよね。俺の事も人間族って言ってましたし」



「如何にも。知っておったのか。

…先もスキルについての理解が早かったよの。魔法の無い世界であっても、知識は持ち得ているのか」



「どう説明すればいいかわからないですが、こういう世界も有りそうだよなあって程度の知識なら、持ってます。

それでその知識からすると、俺みたいな他の世界から来た奴は、世界を救うような役目をお願いされたりするんですけど…」



もしそんな役目をお願いされたら、俺は言うとおりにするだろうか?


いや、しないな。


名誉にあんまり興味ないし。それにほっといたら世界が滅亡するのなら、それはそういうものだと思うから。他の誰かが何とかしようとするのなら、微力でも手を貸したりはするかもしれない。でも俺が何とかして人々や世界を救いたいとは思わない。その責任を負いたくない。


むしろ…俺からあの子を奪うような形になった今は、この世界の事を良く思えない。もちろん滅亡させたいとはならないけど。



「そのようなことも有るのかもしれぬが…。

我はコウタロウにその様な役目を押し付けたくは無い」



「…そうですか。俺も立場が同じだったら、同じ考えになってたと思います」



気分が、大分落ちてきているからだろうか。さっきまでのドラゴンとの会話を振り返ることがでる。


状況のせいで今まで否定的な感情しかなかったんだけど、改めてドラゴンと同じ視点から考えてみると俺も同じこと言っていそうだなと思うところが多かった。


魂が同じだということ、今なら少しは信じられるような気がしてきた。



「コウタロウよ、我が召喚した目的を話しても良いか?」



きたか。気にはなっていたんだけど。



「どうぞ。今ならきっと冷静に聞けます」



「うむ。

そなたの魂を我の魂へ取り込むためよ。

可能な限り、元の形へとな」



「取り込むため。今ですか?」



「いいや。そもそもコウタロウの魂はそなたの世界にほとんど染まっておる。

取り込もうとしても、混ざり合うかどうかは分の悪い賭けのようなものであろう。

故にこの世界で少しずつ慣らしていく必要がある」



「もし混ざらなかったら、どうなるんです?」



ドラゴンは考えていたのか、少し時間を置いて答えた。



「可能性としてだが、コウタロウの魂自体この世界に弾かれ、また別の世界で転生することになるのであろうか…。

もしくは、その一部だけがバラバラに他の世界へ飛んでいく事になるやも。

いずれにせよ、そなたの思念は跡形も残らぬだろうよ」



…じゃあ、それは選択肢としては一番無いかな。


生まれ変わった俺が、また同じように召還されてしまう可能性があるってことだから。


てか、可能性というか100%だろうな。どうしても取り戻したかったとか言ってたし。


こんな運命、俺が一度受けるだけで十分だ。他の人に押し付けたくは無いよ。



「わかりました。俺、この世界で生きていきます」



「思い切りが良いよの。

もう少し悩んでも良いものと思うが」



「いえ、もう亡くすものも無いので」



言って気付いた。今の俺の心境。


やるだけやってみて、とっとと死んでしまおう。そんな気持ちでいる。



「自棄に成らぬがよいが。

今の考えを聞かせておくれ」



「はい。自分から死ぬのは子供のためにしません。

まだあの世で会えるかもしれないので、地獄に落ちるつもりはないです。

それで、妻からしたら何で急に居なくなったんだと思われてるでしょうから、ちゃんと役目を果たそうとしていたと、そう伝えられるためにこれから頑張ります」



まぁ…居なくなったことについては、理由がどうであれ半端じゃないくらい怒られるだろうけどなぁ。


てな事を考えたら、ふと笑ってしまった。


嫁さんに怒られるの自体はめちゃめちゃ嫌だけど、その場面を思い浮かべると、今となっては何だかホッとしてしまう。


異世界に来たけど、嫁さんに怒られる時には日常に戻れたような、なんか安心出来るような気がした。


あー、相変わらずどこか辛いままだけど、頑張ろう。そんでいつか、嫁さんに怒られよう。そうしよう。



「うむ。ならばそなたさえ良ければ、我の生き血を取り込むのがよかろう」



「…いきち?」

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