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3-4

(奴隷仲間の内に、特に仲良くなった子達がいたんです。

最後に別れる時ぐらいは話できたら良かったかなって、そう思ってたんですけどね)



(…情か。我にも理解は出来る。しかし、そなたは勘違いをしておる。通常、奴隷となった者などに選択肢は無い。

主人にとって必要な労働を成すため、食事と休息が用意されているだけの生きた人形が奴隷なのだ)



(でも、俺は前のご主人様の所では割と良い暮らしが出来てると思ってました。あの生活が続けば良いなと思ってたんですよ?)



(コロウよ、今ある現実もそなたが奴隷となることを選んだ末の結果なのだ。

今の主人に買われることもあれば、別の主人に買われた先で今以上に苦痛を伴う未来もあり得たはずであろう)



…そう言われると、確かにそうだけどもさ。奴隷になる道を選んだ時の俺が、先行きを甘く見てただけなんだろうか?


異世界から来た俺の価値観は、この世界ではまだ歪なのかもしれない。もしくは、俺の覚悟がまだまだ足りなかったのかも…。



(…竜神さまの言いたいことは何となくわかったような気がします。今後は早く奴隷から抜け出せるように努力しますよ)



(うむ……ただ、我もそなたを言いなりにしよう等とは思わぬ。しかし、心配しておる事だけは理解してほしい)



ここまで言われると何かこっ恥ずかしいな…。



(まぁ……はい、わかってます。それぐらいのことは。

それで、アルノー様の事なんですが…。竜神さまから見るとどんな人でしょうか?)



(人族内の社会的地位もあり、魔法の扱いに長けておる。身を守る方法を心得ているが、強い探求心を兼ね備えているために危険な状況へ踏み込む事も多かろう。

身の程を弁えないために、信頼関係の構築に難があるかもしれぬな)



ふーむ、確かにアルノー様には変わってると感じる所が多々ある。竜神さまにとっても部下とか配下だとかでも無さそうだ。ならどういうスタンスでいけば良いかな?えーっと…。



(アルノー様に魔法を教えて貰いたいのですが、どうでしょう?師事しても良い相手だと思います?)



(…悪くは無かろう。ただ、魔術師から魔法を学ぶためにはそれなりの対価を示さねばならぬだろうがな。

己の力を得るためにか?)



(そうですけど、魔法に対する憧れもちょっとありまして。

剣術も楽しそうなんですけどね)



(何事もやってみるがよい。魔法に関してはそなたにも適正があろう。ワイバーンに命中させた技術には光るものを感じたからの。

独学でもそれなりの力とは成りうるが、やはり経験有る指導者の下で教わった魔術師は強い。

同じように剣術についても基礎から身に付けるが良い。多岐にわたる流派が各地に道場を構えておるはず。そこで人族相手の稽古を積み重ねれば実戦でも必ず役に立つであろう)



(んー、了解しました。先ずは魔法についてアルノー様に聞いてみます。どっちも独学で進めるのはやめますね)



朝御飯は薄くスライスして温めた芋と蜂蜜をパンに乗せてトーストした。牛乳も温めたけど、そちらに蜂蜜を入れるかどうかは迷いつつ、甘いものだらけは良くないと思って止めた。



「世話になった。ではまたな」



言葉と共に、いくらかお金も手渡している。2人して食べ物貰ったし、その分のお礼かも。



「ああ、こっちも助かった。

良い奴隷を買ったな。いつでも旨い飯が食えるのは羨ましいぜ」



挨拶をして別れて、野営地の広場を横切るときに、何となく中心にある大きな木の方を見てみた。すると、何か不気味な顔みたいなのが付いてるように思える…。



「アルノー様、あの大きい木に顔みたいなのがありません?」



「みたいではない、あの個体は生きている。トレントの一種で魔物だ」



「えっ!?」



「だが人族に敵対はしていない。雨の時は股下の洞や枝葉の下で雨宿りさせるそうだ。

私はそうしたことは無いがな」



マジかよ……めちゃくちゃ異世界じゃん。ファンタジーじゃん。


しばらく眺めてしまったけど、アルノー様は止まらずに歩き続け、野営地から出ていこうとしたので慌てて付いていく。


トレントは眠ってるのか、風で揺れる枝葉以外は動きもなく、目も口も閉じたままだった。


魔物が、普通に出てくる場所にいる。ちょっと怖くなってきたかも。


昨日よりも警戒心が高まっているのを自覚して道を進んでいくと、今度は人を襲うタイプの魔物に出くわした。というか、魔物に襲われてる人達とも出くわした。



「あれは何なんです?」



「ファンガスだろうな。死体に寄生して繁殖する菌類の魔物で、鹿の死体を使っているのだろう」



馬車が止まっていて、少し先でそのファンガスって魔物と3人で戦ってる人達がいた。馬車にも3人いて、その人達はこっちを見ていた。


ファンガスが鹿に寄生していると言われたけど、俺は鹿だと気付けなかった。四足歩行なのはわかるけど全身に樹皮みたいなのが纏わり付いていて、至るところが盛り上がったりしている。鹿として特徴の有る部分は変形しまくっててどこがどうなってるのかわからない。



「夜明け後の道を先頭で進んで行くと、うろついている魔物と出くわし易い。

助力は要るか?」



アルノー様が少し声を張って彼らに一度呼び掛けると、反応があった。



「あたしらはニルトント集落の者だ。

あんた魔法が使えるなら燃やすか頭を飛ばしてくれない?」



「良いだろう」



やり取りが終わるとファンガスに向けて杖を向ける。杖の中に魔力を溜めているのが感じ取れた。


応戦していた3人は皆それぞれ違う方向に距離を取る。


ファンガスは反応が遅いのか、離れた人達へ向かっていくこともなく今のところぼーっとしている。



「マジックミサイル」



魔法が唱えられると杖の先から杭のような形状の魔力の塊が発生する。ぼんやりと光るそれはファンガスの方へ真っ直ぐに飛んでった。頭に突き刺さって命中すると、すぐさまパーンと破裂音が響き渡る。頭が粉砕していた。


すげー量の粉塵が辺りに広がっている。何だか汚い感じがするなぁ、絶対に吸い込みたくないや。


気持ち呼吸を少なめにしつつ、倒せたのかなーって思ってたらアルノー様はもう歩き出した。



「助かったよ」



「ああ」



短く答えて通り過ぎていく。ファンガスと戦ってた人達は死体を燃やすためか火を起こし始めていた。


倒したのに燃やす目的って、やっぱり菌が広まってしまうからなのかなーって想像してたら、頭の失くなった体がまだ僅かに動いていた。死んでないんだ……ゾンビみたい。



「アルノー様、こういう手助けって普通にすることなんですか?見返りとか貰おうとしても良いんじゃないかなって思ったのですが」



「かける労力によってはそれもあるだろうが、この程度ならば必要ないと私は判断した。

それに彼らが居なければ最初に遭遇したのは私達だっただろう。後始末も面倒だからな」



倒した魔物の後始末をせずにいると、後から道を通る人にとって迷惑だろうな。コソコソやってもばれた時の事を考えると少し怖い。


そうしてそんなわけで、野営地からすると俺達が先頭を歩いている事になったと思う。どんどん進みつつ、次に出てくる魔物は何だろなと警戒しつつも楽しみにしていると、道の脇の林の中から蛇が頭を出していた。



「あ、アルノー様!あそこに蛇がいます!」



「……魔物化しているだろうが、今のところ放っておいても害は無いだろう」



「でも魔石があるかもしれないんですよね?

蛇なら昔倒したことがあるのでやらせてください」



前の世界の1メートル位の蛇だったんだけどね。



「あの程度の魔石など、手間と比べれば大した額にはならない。

…だがお前がやってみたいなら好きにしろ、見ていてやる」



えー、魔石って何でも高く売れる訳じゃないんだ…。もしかしたらダミカ達と集めた鳥の魔石も大したお金にならなかったのかな。


ま、お金のことは今はいいや。蛇の肉って食べられるはずだから、そっちの方に期待しよう。


棒を手に近寄ってみると、めちゃくちゃ大きい…。全長は7メートルくらいか?近寄った俺に気付いて、大きな頭を動かし舌をチロチロ出している。


直ぐに噛みついて来るようなタイプじゃ無さそうだな。頭を一発棒で叩いて、怯んだ所でぐるぐる回して木にぶつけまくってやる。


棒を上段に構えて近寄る。でも頭が低いところに有るから上手いこと叩けるイメージが湧かないせいで、中々間合いに入れない。


俺がまごまごしてると蛇の方が近寄ってきた。くねくねしながら進んでくる。頭が左右に揺れるから軌道が読みにくい …けど、ここだと思うタイミングで棒を振り下ろしてみた。



「あっ」



俺の攻撃は結果的に外れてしまった。っていうか、振り下ろしてる最中から外れそうな予感までしてた。蛇の方は俺の攻撃に対して臆せず接近してくる。


噛まれる!と思って焦った俺は、急いで蛇の胴体を叩いた。…効いてなさそう。



「うわあうわおお」



足に絡み付いて来た。ひんやりと冷たいのに筋肉で出来た塊のように硬い。気持ち悪さと思った以上の強い力に恐怖を覚える。


焦る気持ちを抑えながら、とりあえず叩ける所を棒で叩きまくる。蛇の方はぎゅうぎゅうと俺を締め付けながら体の方まで登ってきた。息をする度に苦しくなるのにどうしても呼吸が早まってしまう。


動揺するのを自覚しつつ、叩く棒に想いを乗せてシバき続けると、何度目かでバキッて折れてしまった。



「あ、終わった…」



「諦めが早い」



アルノー様に速攻でツッコミを入れられたお陰で遠退く意識を繋ぎ止められた。ちょっと所か大分苦しいが、まだ頑張らなきゃ。


棒は折れてしまったけど、折れた所は尖っている。胴体を狙って突いてみるが、どうも上手くいかず鱗が邪魔をする。


本気で苦しくなってきた。死ぬかもしれない…。え?こんな所で死ぬの?遊び半分で倒そうと思った蛇なんかに?


俺、あんなに大きな猿を倒したのに。ワイバーンだって何匹も撃ち落として、沢山経験値もらって、進化したのに?力も強くなったのに?



「…終わりか?私に大損をさせるつもりなのか?

下らんな。この馬鹿者め…」



アルノー様の、興味を失ったような声。


見捨てられる?でも当然か、こんな俺なんかが助けてもらえると思うことが間違い…。


頭上から、食事をどこから味わおうかと眺めてるような蛇の目が見えた。これは丸飲みにされる。


こんな雑魚みたいな蛇に殺されるなんて…そんな終わりって……。


呆気ない。俺の人生、ほんとに下らない…。


もっと、頑張っておけば良かった…。


後悔の波に押し潰されそうになる心の中。その心の隅から、強烈な違和感が溢れ出してきた。


頑張るって何?


生き死にを賭けた戦いで、雑魚と決めつけて戦う前から勝てる気になって、遊び半分でやってるくせに頑張るとか頑張らないとか。


初めから本気でやれて無かったよなぁ、俺ってさぁ…。


バチッとスイッチが入った気がした。



「頭から喰ってみろ…」



掠れた声しか出ず、もう僅かさえも酸素を取り込めない。


だが、蛇の方は俺を頭から飲み込むつもりで口を全開にした。


ここだ!


腕も動かなくなって感覚さえ痺れ始めていたが、手首は動かせた。そのスナップだけで、まだ握っていた棒を上に放る。


外したら終わりの一回きりのチャンス。でも今は研ぎ澄まされた感覚がある。勝ち確の時の、失敗するわけがないという意識があった。


勢い良く回転する棒が視界に映る。それをドンピシャのタイミングで口に咥えた。


蛇は口を開いたせいで、俺が何をしたか見れていない。


迫る蛇の口腔目掛け、棒の折れ先を首の力で突き込む。


ほんのちょっと、喉を傷付けた。


予想外の痛みで蛇は怯むはず。これで驚かなかったらお仕舞いだ。頼む、ちょっとでも良いから拘束を緩めてくれ!


魂の叫びが、届いた。蛇は頭を振って嫌がった。拘束が、大きく緩む。


付け入るぞこの隙に。死ぬほど後悔しやがれ…。



「があああ!」



息を、思いっきり吸う。限界まで空気を一息に取り込むと、目がチカチカするほど全身を満たす酸素で脳が歓喜していた。しかしそれも束の間、獣のように怒りが溢れ出して、今取り込んだ空気を全て吐き出す雄叫びを上げた。


蛇と俺の隙間から右手をすり抜けさせ、蛇の頭を鷲掴みにする。


目を探り当て、親指を突き入れて潰した。


その頭を離さず、引き寄せて喉元に噛みつく。ここは鱗も薄くて柔らかい。だけど噛み千切れなかった。



「ぎぎぎいいいっ!」



歯も砕けろと言わんばかりの力で食いしばる。左手も自由になった。今度は俺の方が両腕で蛇の首を締め付ける。


蛇の体は電柱程もありそうな太さの部分もあるが、首についてはそこまで太くない。とはいえ細くもなかった。


負けじと蛇の方も全身で締め付け返して来る。


その瞬間、ふと我が子の事を思い出した。


何かある度に、俺があの子を抱き締めると、小さな腕と小さな掌で俺の事を抱き締め返してくれることが時々あった。


いとおしい…かけがえの無い癒しだった。


思い出すだけの今でさえ、どれだけ俺の心が満たされるのか、あの子は想像も出来なかったろう…。底知れず、無邪気だったと思う。


俺は……魔物と戦う極限状態のその過程で。俺がこんな幸せをその度に思い出せるのならば……。



「何度でも命を賭けてやるッ!

殺し尽くしてやるぞ魔物共おおおっああああぁぁあ!」



裏返る俺の叫びの向こうから、魔物の骨が砕ける音がした。

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