表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/48

3-2

アルノー様とは話をしながらも歩き続けた。ただ、同じ方向へ行く人もそれなりにいたので、俺が異世界人だということは無闇に話すなと釘を刺された。その理由については明確なので俺も言われた通りにする。


それでも話は途切れなかった。アルノー様は頭が良くて知識も豊富だから、さっきみたいに適当な質問したりしなければ、基本いくらでも話ができる。


収入源とか、魔法の技量についてや、アルノー様が副業としている冒険者稼業について等々。あと行き先についても聞けた。


その話にあったように、暗くなる前に検問も無いような人里に着いた。ここは宿場町だそうで、主に寝泊まりするための宿や食堂があるばかりの町らしい。そして目指している場所はもっともっと先で、アルノー様の活動している街が最終的な目的地になる。馬車もあるんだけど、それに乗っては行かない予定だと話してくれた。


馬車に乗ると、知らない人と一緒の空間になるのが嫌らしい。それに知ってる人と一緒になっても話しかけられるのが鬱陶しいとか。わがままちゃんか?


まあそんな感じで、ここまで来る最中にアルノー様とは大分話し込んだ。そのお陰かある程度は打ち解けたような気もする。俺の比較的上品なジョークスキルが功を奏したかもしれないね。


ただ頭を使った会話をしながら歩き続けていた弊害か、頭も体も程よく疲れている。休憩もお昼の食事のために小一時間体を休めたきりだ。夕食の時間は椅子に座りながらご飯食べたいな。


素泊まりの宿を決めた後に汚い食事処へ入る。どちらもアルノー様が選んだが、自分の注文については選ばせてくれた。



「昼にも思いましたが、あんまり量は食べないのですね」



「種族柄多くは摂れない。酒もドワーフの様には飲まない。その分、空腹にも()えられるがな」



そう答えるアルノー様は昼だって俺の半分も食べなかったし、今も頼んだのは薄いハムを挟んだパンに、煎った豆とビールがコップに一杯だけだ。そのせいで遠慮してしまっているのに、それでも俺の方が豪華な夕食に見えてしまう。どっちが奴隷かわからないや。


アルノー様が食べ始めたのを見てから、俺ももぐもぐ食べ始める。食事中はアルノー様から話しかけられることは無いので無言だ。


でも周りは大分喧しい。ドワーフや獣人もいるけど、人間族と一緒になって机を囲み、男も女も沢山並んだ料理を食べてジョッキを煽って、お祭りみたいに騒いでいる。


ちなみに、ボイボドというお酒の神様がいて、その神様に祈りを捧げてからアルコールの入った飲み物を飲むと普通よりも早く酔いが回るらしい。ろくでもない神様だな、最高かよ。


そんなわけで、殆どのグループがボイボド様にテキトーな祈りを捧げては酒飲んで騒ぎまくってる。俺達みたいに行儀よく静かに食事している人達なんて、ほぼいない。


…昨日までの生活が思い出された。



「奴隷の食堂も騒がしく感じてました。若い子が多いからだと思ってましたが、この様子を見ると騒がしいのがここでは普通みたいですね」



暗に『この世界では食事風景そのものが騒がしい』と伝わるように言う。



「お前の故郷の食事風景は、ここより随分と落ち着いていたということか。

教養の標準値の高さが垣間見えるな」



騒ぐ人達を面白半分眺めながら食べてると、一つのグループ内で男同士の喧嘩が始まった。


最初は口喧嘩からで、徐々にエスカレートして小突き合い始める。大声だから聞き耳立てずとも聞こえてくるんだけど、言い合ってる内容はしょうもない。女の人の好みとか所有してる馬の毛色についての拘りをバカにしたとかしてないとか。


警察みたいな組織とかこの世界にもあるのかな?誰か止めてあげないと怪我しそうだよ。


そんな事を考えてる俺を他所に、アルノー様は新しいおもちゃでも見つけたかのように楽しそうに喋り出す。



「人族が争う理由は場末の喧嘩だろうが戦争だろうが大抵くだらん。しかし男女間に芽生える感情については興味をそそられるものだな。

今あそこの男達は拳での対話を始めようとしているが、同じ席に居るあの女の潤んだ目はどちらに向けられていると思う?」



…は?急に何言ってんだこいつ?



「おっと、とうとう殴り合いを始めたぞ。どちらも酔っているせいか良い勝負だな。

…ふむ、良いことを思い付いたぞ。コロウ、今からあの殴り合いに割り込んでどちらも黙らせて見せろ。あの女の感情がどう冷めていくのか見定めたい」



こいつイカれ具合が振り切ってるわ。どういうエンタメ探し求めてんだよ。


でもまあ俺も進化で背が伸びたから、気が大きくなっている感じはある。ご主人様のご命令とあらば、いっちょ倫理観も恥じらいも、かなぐり捨てて目立ちにいってみようかね。異世界に呼び出された特権と思って、振り切った感じで行こうかな。



「ぅおい!お前らこっちは飯食いに来てんだぞ!

うるせえだけの下らねぇ喧嘩なら外に出てやれや。まさかそれもできねえ様な躾のなってねえ豚野郎共じゃねぇだろうな?

お望みなら順番に頭から馬の糞溜まりにでも突っ込んでやろうかぁ!?」



すらすら出てきた台詞に自分自身笑いそうになるのを我慢しながら凄んでみると、食べかすの散らかったとても汚い床で掴み合いになってる二人の動きが止まった。


ってか、飯屋全体から音が消えてしまった。こんなに静かにならんでもええやろ。


そしてちょっと待っても誰も喋ってくんない。もしかして、皆俺の行動待ちなわけ?さっきまでの勢いはどうしたんだよ。



「なんだあ、お前ら揃って死んでハエに(たか)られてる牛みてぇな面しやがって。

腐ってアンデッドになる前に、ケツから蹴っ飛ばして息を吹き返させて見せようか?

おもしれぇだろ?名付けて、心配御無用ケツ蹴り心肺蘇生だ。明日からは満足に糞も出せなく成るだろうなあ?」



自分でも何言ってんのかよくわかんなくなってきてたが、雰囲気が出まくってしまってたせいか、男二人は立ち上がって暴れたことを謝罪してきた。どうやら酔いは覚めてしまったみたいである。ちょっとでも良いから誰か笑えよ。


変な方向で恥ずかしくなった俺は、静かにするならそれで良いと、取り繕うように吐き捨てる。


その後そそくさ、というように見られないよう、気持ち悠々とした態度でアルノー様が待つテーブルへと戻ってきた。



「私は、殴って黙らせるようにという意味で伝えたつもりだったのだが……ま、良い。結果的にそれよりも面白いものが見れたとでも思おう」



「…俺もそのつもりで言われたんだと感じてましたけど、自分から急に殴るのはどうかと思って挑発してから先に殴らせようとしたんですよ。

でも向こうが逆上してくる前に、意気消沈するとは思わなくて…」



「ふむ、なるほどそういうことか。

さっきお前がしたような言葉を装飾して表現する方法は貴族が好んで使うものと良く似ている。

柄の悪さはあったが、あの男達からすると貴族に類する存在に見えたのかもしれんな」



ああ、そういう感じに受け取られたのか。だからびびって酔いがさめたってことなのかな。


そういや奴隷になってすぐくらいに、その時のご主人様の奥様からも貴族じゃないかとかって疑われた覚えがあったっけ。何か懐かしい。



「謎は解けましたけど、雰囲気を壊したせいかちょっと居心地悪いですね。

もう店出ましょうか」



祭りみたいだと思ってた雰囲気から、ランチタイムのファミレスぐらいまで店内のトーンが下がってしまっていた。アルノー様はもう食べ終わってたので、俺も残りを食べて店を出ることにした。



「魔力よ、道を照らせ」



お店を出たところ、外は薄暗くなっていた。そこへアルノー様が杖を少しだけ掲げてボソッと唱える。


杖の先から黄色味がかった光の塊が出て来て、10メートル先位までを照らす。



「あ、魔法…」



めっちゃ自然に町中で使うじゃん。


いかんな、わくわくしてしまって聞かずにはいられないぜ。



「アルノー様、今出したこれはどういう魔法なのでしょうか?」



「これは魔法分類学では属性として定義されていない、非定型魔法に分類されるものだ。

…と言ってもお前にはわからんだろうな。例えば…お前が使ったであろうファイアボルトは魔法分類学上、『ファイアボルトという名の火属性の定型魔法』になる。

要は誰が使ったとしてもほぼ同じような効果が現れる攻撃魔法ということだ。それも火属性のな」



俺の問いにすらすらと喋り始めたアルノー様は、学校の先生みたいに見えた。



「これの魔法とは根本的に違うということでしょうか?」



光の塊を指差しながら尋ねる。



「その質問の『根本的』が、何を指すかによるな。

定型、非定型のどちらも魔力を原動力に発動するが、発動者の創造力に起因するかしないかの違いがある」



想像力(・・・)とは違う意味だと理解できた。



「創造力って、もしかして創造神様と関係があります?」



アルノー様は感心したような表情を見せた。



「その通りだ。お前は意外な所で察しが良いな…。

この世界の根幹にある、魔法に由来する事象は創造神が司っていてな。雑多な魔物へ向けた信仰も、魔法に対する信仰も創造神へ集約される。

魔法への習熟もレベルを上げることも創造神への信仰無くして成立しないのだ」



……聞きたかった話はそこじゃないんだけど、何か熱が入ってしまってるみたいなので様子見しときますか。



「創造神は言わば魔法を司る神だ。

神話にある魔法の起源についてもこの点から信憑性はあると考えている」



「では…竜神さまが神になれたのはどうしてなのでしょうか?魔物への信仰は創造神様へ集まるはずなんですよね?魔物から神様にはなれないのでは?」



「少し考えれば判ることだ。ただ漠然と魔物を信仰したとしても、ある一つの個体が信仰心を得られる訳では無い。

『賢竜アルカン』という存在が認知され、それが信仰されたとき初めて神へと続く道を歩む事が出来る。

人族が信仰されれば人族全体が神になれるのか?そうではない、正しくは個人が信仰されることで個人が神へと至るのだ」



なるほどな。そこの仕組みはなんとなく理解できましたわ。


アルノー様は知識を求めているのもあるだろうけど、考察とかするのも好きそうだ。もしかして研究とかもしてるんだろうか?


もし暇な時があれば俺にも魔法の使い方を教えてくれたら嬉しいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ