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3-1

新しいご主人様改め、アルノー様が利用していた宿へは入らなかった。異世界出身の奴隷は身分を弁えているのだ。


丈夫な魔物の革で出来たバックパックを買ってもらったので、その中についでに買って貰った二日分くらいの干し肉だとか堅焼きパン等の携帯用食品を入れておく。カチカチになってるとはいえ、パンを袋に入れないまま鞄に納めるのはちょっと抵抗あるな…。


そして替えの衣類も入れておく。それにアルノー様の荷物を追加で分け入れさせてもらった。奴隷の方が軽い荷物を持っていてはいけないのだ。


アルノー様の持ってた荷物の内訳について、先ずは紐だ。その紐は2つ、細いのと太いの。


そんで木製のお皿は2つ。同じく木のコップは一つ。鍋にフライパンにナイフにフォークは金属っぽいけど、手入れが甘いのかどれも少し錆び付いている。水袋は空っぽだったのでどこかで補充しないといけないな。調味料は塩や乾燥させて粉末になった葉っぱがある。この匂いはオレガノかな?


焼き固められたようなでかいクッキーも持っていた。非常食なのかずっと食べてなかったみたいで表面が湿って変色している。カビてるのかもしれない…。食べるときは表面を削った方が良さそうだ。


あと気になったのは、魔法使いなのにそれっぽい道具を持っていないことだ。魔法のランタンとか魔法の薬とか無いのかな。


そう思ってアルノー様を観察してみると、腰のベルトにポーチが付いているのに気が付いた。きっとあそこに大事なものが入ってるんだろうね。


俺が欲しがっていた杖に使うような頑丈な木の棒も適当な店で購入する。銀貨にも届かないような値段で売っててラッキーだったね。


太くて地面に立てると俺の胸の辺りくらいまでの長さをしていた。今の身長だと丁度良い大きさと重さである。


防具は買わず、アルノー様に従うままに歩いて街を出た。


前日に降った雨で道がぬかるんでいる。前に街を出た時は乾いた道だったから歩きやすかったな。


アルノー様のローブの裾は街中にいる時から泥が跳ねて汚れていた。今も隣を通っていく馬車がゆっくりと走っていても水溜まりに車輪を落としたのか盛大に泥を跳ねさせる。俺もこういうのに慣れてしまったから、泥で汚れても全然気にしなくなっていた。また雨が降ればきれいになるだろう。



「竜神から話を聞かなかったな?」



顔に跳ねた泥だけは落とそうと袖で顔を拭っていたら、話しかけられたことに気が付く。話って、何の話のことだろ?


ってか、アルノー様がいきなり竜神さまとの繋がりについて聞いてくるって事は、もしかしてこの前の事を誰かが喋ったのかな?


まあそうであったとしても、今の俺は奴隷だし、聞かれたなら正直に答えなくちゃいけないか。



「えっと…竜神さまとはつい最近にもスキルを使って会話しましたけど…。

何の話でしょうか?」



「竜神が私に、お前を買うように申し付けたのだ」



「あっ」



やられた、と思った。というのも、前々から竜神さまは俺が奴隷でいる事が気に食わなかった。でもそれを容認してくれてたのは俺が奴隷であることを満喫していたからだ。…満喫とはちょっとだけ語弊があるかもしれないけども。


だから、奴隷としていることは認めつつ、恐らく竜神さまの手先であるアルノー様を使って俺を買い取り、間接的に奴隷から抜け出すように計画していたって事なんだろう。


おのれ竜神さまめ、俺が楽しくやってたことを気に入らないならそう言えば良いのに!


……いや、言ってたか?…でも、こんな手段を取ろうとしなくても良いじゃんね。フェアじゃないよ。


しかし、アルノー様が竜神さまの手下だと考えるのはちょっと違和感があるな。俺が召喚されたあの山で、竜神さまが加護を与えていた関係性を考慮すると、ドワーフの人を手先にするのなら話がわかる。でもエルフの人については良くない印象を持っていたような……そんな話をした覚えがあったんだけど。



「失礼ですが、アルノー様と竜神さまはどういった繋がりがあるのでしょうか?」



「私もお前と同じで竜の儀式を受けた者だ」



マジすか!



「アルノー様…あの臭い血、全部飲めたんですか?

どういう心境だったのでしょうか?」



変な人を見るような感じで言ってしまったからだろう。前を歩いてたアルノー様はわざわざ立ち止まり振り返ってきた。


その顔は理解できないとでも言いたげに歪んでいた。



「なぜ今その質問をする?

その問いに答えるためにここで証明する労力など無価値だ。

そして臭い程度の不利益など、得られる効果と比較すれば取るに足らない事だとわからないか?」



ふーむ、なるほど。アルノー様は頭が良い人っぽいな。そして、無駄な事が嫌いなんだろうな。


話をする相手にも、ある程度の教養が備わっていないとストレスを感じるようなタイプっぽい。ちゃんと気を付けて話しよう。



「……わかりました、アルノー様にはそれをするだけの理由があったからあの臭い血も我慢できたんですね。

因みにどういった理由なのか聞いても良いでしょうか?」



アルノー様は表情から不快感を消してまた歩き始めた。


俺の相手を諦めてしまったのかな…?そう心配したけど、歩きながらも直ぐに話し始めてくれた。



「…私はあらゆる知識を求めている。その目的のためには更なる力が必要だ」



「というと、戦闘力の事ですか。

儀式をしたなら、アルノー様も強い筋力をお持ちなんですね。見た目が魔法使いみたいだったから意外です」



「戦闘においては魔法が得意分野だ。

筋力については期待するな、私はお前程の適合は示していない。少々体が頑強になって魔力が増えた程度だ」



俺の体の変化については、竜神さまから連絡があった時に気付いたことを大体伝えている。アルノー様が俺の変化をご存知なのも竜神さま経由で知らされていたんだろう。それしか考えられないし。


そんでアルノー様、話が嫌いなわけでは無さそうだ。言葉に気を付けてれば結構話してくれる。



「さっき知識が欲しいと仰ってましたけど、主にどういった知識なのでしょうか?」



「言っただろう、あらゆる知識だ。

その中でもスキルと魔法、薬学については特に興味がある」



「あ、俺もそういう知識欲しいですね。

でも竜神さまからは詳しくは教えてもらえませんでした。深入りして聞こうとしなかったのもあるでしょうが…」



別にどうしても知りたいという気持ちがあったわけではなかった。あの時は心が疲れきっていて、新しい知識を意欲的に取り込もうとは思えなかった。それにこの世界で生きていく内に、やがて知っていくことだとも思ってたから、後回しにしてたというのもある。



「竜神から得られる知識には深みが無い。かといって奴の扱う魔法が初歩的な物だけという事もない。

口頭で伝えられる情報においては意図的に制限されていると私は考えた」



ほう?仲良しなのかと思ったらそうじゃないのかな。でも竜神さまに教えられる情報が制限されてるなって思うのは俺も同じだ。だから今になっても自分から教えて教えてって気持ちにならないし。


ただ、俺はそういうのが嫌いって程ではない。アルノー様はどうなんだろう?



「竜神さまの事を信用していないのですか?

悪人……というか、悪い神様だとは思いませんが…」



「私は神のような者達を善悪で評価することは無い。

我々のような生物という枠組みから超越した高位存在だからな。人族が虫の一生を大して気にかけないのと同じで、神にとって虫も人族も大した区別はしないだろう。それも竜神に至っては元々魔物だったのだ。

奴を完全に信用することは無い。むしろ言動も行動も全て疑うつもりだ」



…そうか、竜神さまって俺以外の人については信仰心を集めるためだけの存在なんだろうな。


竜神さまから大事にされてると感じられるのは、もしかすると俺だけなのかも。



「お前は竜神の事をどう評価している?」



お?今度は俺への質問ですか。



「…俺が異世界の人間なのはご存知でしょうが、その世界の家族を俺から奪ったような相手ですからね。もちろん良い気はしませんよ。

でも、それについては元々悪気は無かった様ですし。家族へ向けるような感情を俺へ向けてくれているのは、そこだけ見れば有り難いなと思わなきゃいけないって考えちゃいますね。

元の世界に戻してくれよって不満が滅茶苦茶大きいですが、でもこの世界もちょっとだけ楽しんでしまっているのもあるので…。一概には言えないですね」



難しいんだよな、この点については。


もし竜神さまが同格の人間だったなら、世間体とか法律とか全部無視して殺しに掛かってたかもしれない。けど、俺が絶対に敵わないような相手にこういうことされたら、反撃されて無駄死にするのは良くないなと。そう思うわけだよな。引き離されただけで俺も家族も生きてるんだし。


……まあもちろん、さっき言ったように全て前向きに捉えられるわけじゃないけどさ。



「…異世界の存在なのか?」



何度も何度も繰り返した同じような考えに、もう一度耽ってたら驚いた様子のアルノー様が血走ったような目で俺を見ていた。



「…あれ、竜神さまから聞いていませんでしたか?」



アルノー様がどういう情報を貰ってたのか知らないけど、もしかしたら余計なことを喋ってしまったかも。



「お前は、そうか…。髪を染めてあるわけでも突然変異でも無いのか。

異世界からの召喚………その伝承は全て、辻褄合わせによるものだと見ていたが…。成る程、生き証人が存在するなら認めざるを得ない。

これは、素晴らしい。奴は究極の召喚魔法を成立させたのだな」



一人でぶつぶつ早口で喋ってる。アルノー様が楽しくなれるような話題を提供できて良かったな。



「魔法は使えるのか?神は存在する世界か?」



「前の世界では見たことないですね。神様も居るみたいな…宗教って言えばわかります?そういうのがあったんですけど、俺はあんまり信じていませんでした。信仰してるだけの人ばかりで、あまり救いが無いように見えたので。

この世界に来てからだと、魔法は使えましたよ。この世界の神様も信仰してます。ネビス様とか…」



「認知出来なかったのなら、やはり根本的な体系が異なる世界がある…。

神による加護も制御されたスキルも、この世界限定だという説は正しかった…?

ふむ、天界とはそう遠くないものと見て間違いないか」



天界とは、前に竜神さまが話してたな。神様達がいる場所で、そこで神様がするべき役割をこなしてるらしい。


しかしそこん所の事を気にしてるってのは、もしかして…。



「アルノー様は神様になるのが目的なのでしょうか?」



「…今後、必要があればな。

面倒無く永遠と知識を求め続けられるなら、それも悪くないだろう」



…アルノー様、現代日本にいたらニートになってて、ネットサーフィンとか好きそうな人だな。

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