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2-23

拠点に皆が戻ってきて、説明会になった。勿論竜神さまもいる。事前に竜神さまから俺の庇護者ではあるけど、奴隷でいることについてはギリギリのギリで容認しているのだと話していた。でもめっちゃイラついていてこのドラゴンこえーよ…。



「…事情が特殊過ぎてどう納得すれば良いのかわからない。

俺達がしたら殺されるような事は何だ?それだけ先に教えてくれ」



「人族の子よ、そなた等はコロウの事を並の奴隷として扱えば良い。本人もそれを望んでおる。

しかし禁を破り、奴隷の神から怒りを買うような愚を犯すことが、あれば……その際万が一にでもコロウが関わっていたとしたら…。

絶望の神への祈りなど届くまい。我の怒りは我でさえも計れ得ぬことと知れ」



ゴゴゴゴって効果音が聞こえてきそうな程の怒りを感じるぜこれ。どんだけ怖がらせたいの。


あと絶望の神って誰よ。



「まあ、竜神さまはこう言ってますけど俺自身が結構ちゃらんぽらんなんで、奴隷の神様の決まり事とかも良くわからないんですよね。

なので、そう身構えずに他の奴隷の皆と同じように扱って欲しいですね。

あ、もし良かったら話し相手になってくれたら嬉しいですけど」



すると、殆どの人から目を逸らされた。しかも奴隷仲間からも何人か…。悲しすぎませんかねぇこれ。


クラスメイト達に向かって、『友達になりましょう』って言ったら親が有名人過ぎるせいで敬遠されるような子の気持ちが凄く良く解るんですけど。



「賢竜アルカン、あんたが言う程度の事なら私達は大丈夫だ。奴隷の扱いは熟知している。

…あと聞きたいのは、ワイバーンの死体についてだけど。貰っても良いのかい?」



干し肉をくれた背の高い御者さんだ。この人はあんまり竜神さまの事を怖がってなさそうだな。



「コロウが要らぬと言うのなら、それはそなた等の物だ」



「それで良いのかい。借金の返済に充てることも出来るけど?」



「元々俺が奴隷になった切っ掛けもお金目当てじゃありませんでしたから。

今回皆さんを驚かせてしまったので、そのお詫びとしたいです。

あ、それと竜神さまと俺についての関係性をあまり広められたくないので、その口止め料としておくことは出来ませんか?」



「成る程ねぇ……面白いね。良いかいあんた達?」



話を振られたのは冒険者さん達だ。



「俺達は死なずに金が貰えりゃなんでも良い。

そもそもあの賢竜が奴隷相手にこんな肩入れしてる話をしたって誰も信じねぇし、関わったらどうなるか考えるのも面倒だ。話まとめて早いとこ帰らせてくれ」



「そうだね、その考え方が最もだ。

奴隷には一切喋るなと命令すればそれで良いだろう。ただし、お前さんの口から出た言葉には、自分で責任持つんだよ?」



いつの間にかその女性がリーダーっぽい立ち位置になってるな。御者って偉い立場の人がすることだったのかも。


すると、竜神さまがぐいっと顔を近付けて威圧した。



「我の前でコロウに指図するような真似は控えることだ、矮小な人間族。

例え今この場で手を下さずとも、一度沸き立ってしまった竜の血は早々には冷めぬことと知れ…」



このドラゴン過保護過ぎる上に度を超えた短気だ。ほとんど爆弾みたいなものじゃんか。この程度の事で腹を立てなくても良いのに…。


竜神さまってもっと穏やかなイメージだったんだけどな。最近は俺の事になると直ぐに怒るからめんどくさいな。



「おや、悪かったねぇ。以後気を付けるようにするよ、賢竜とやら」



なんだなんだ、バチってるのか?竜神さまと戦って勝てる程の勝算でもあるのかな?

でも俺としては面倒事は御免だから、竜神さまにはさっさと帰ってほしいな。



「口を滑らせる事には気を付けます。もしあれば自己責任として受け入れますから。

だから竜神さまも俺のやりたいことに首突っ込みすぎないで下さいよ。俺の人生なんですから」



頼れるときは今回みたいに遠慮なく頼らせてもらうけど。



「………ふぅむ、口惜しいのう。

しかし、今までは興味も無かったが、ここのところコロウのお陰で人族として生きるのも悪くないように思えてしまう」



それどういう意図があるんですかね?神様やめたいってことですか?



「ダメですよ。俺また背中に乗せてもらって空を飛びたいんですから」



「グッグック……そなたが望むなら、また呼び寄せるがいい。

では…この辺りで良いだろうかのう。

コロウ、無事に帰り着くまで気を抜かぬ様にな」



竜神さまはそれで帰って行った。楽しい思い出をどうもありがとう。次会うときはもうちょっと怒らないでいてね。


ワイバーンについては詰め込める部分を遺体から切り取って馬車に乗せ、奴隷も帰ることになった。


残りの素材はもう一台馬車を持ってきて、それで運ぶらしい。そっちは冒険者さん達の取り分だそうだ。


因みにたまたま通り掛かった竜神さまが倒したという(てい)で話を作ってあるので、もし目撃者が居たりしても俺の事は槍玉に挙がらない…と思いたい。


あと借り物の『この手に悪夢を』は竜神さまに持って帰ってもらったよ。貸してくれた人に返さなきゃいけないらしいから。誰なんだろうねそれって。



「コロウってやっぱり本当に凄い人だったんだね」



帰り道。お互いに荷物を背負っている中、ダミカから話しかけてきた。



「んー…俺が凄いというか、凄い竜神さまに気に入られているだけの俺っていうか…。

俺の事は今まで通りの俺として、評価を変えなくて良いよ」



「でもランドルのコロウを見る目は昨日までと全然違うよ?」



確かにあいつは子供みたいに目をキラキラさせてこっちを見てくるようになったけども。



「憧れの騎士様に見えちゃってるからでしょ。男の子は皆そんなもんだよ」



この世界の騎士様とは前の世界で言うところの消防士さんとか物語のヒーローみたいなものに見えるんだろうね。



「…獣人族で魔法を扱える人は殆どいないの。

だからあれだけ凄い魔法を何度も使えるなら十分特別」



あれか。あれはアーティファクトのおかげもあったし、魔力を提供してくれた竜神さまのおかげでもあったし…。


でも全部説明しない方がいいかな。知らないでいてくれた方が、余計な秘密事を抱えなくて済むだろうから。


なので適当に話をはぐらかす。



「ダミカは魔法を使ってみたい?」



「…よく分からないものは使いたくない」



ほーう。異世界でも魔法に対してそういう感性を持ってる人って居るんだ。


俺はファンタジー物の作品で知ってるから魔法への忌避感は殆ど無いけどね。でもこの世界ではダミカみたいに魔法についてそこまで知識がない人もそこそこいるはずだよな、きっと。



「俺は魔法に凄い興味があるからね。

あと、剣術にも流派?とか有るみたいだし。そっちも気になるかな」



「コロウは……そっか」



ダミカはそこから続く言葉を言わなかった。話を続けたいような、何か言いた気な感じはしていたけど、そのまま黙ってしまった。


女の子には理解しにくいかな。剣とか魔法についてワクワクするような、こういう感じって。




道中一泊して街に着いた後検問を通り、そのまま奴隷達の寮に戻ってきた。4日ぶり、かな?奴隷になって初めて街の外へ行ったけど、濃い経験ばかりだった。体感では実際の日数よりも長く感じたな。


素材やら報告やらで護衛の人たちとは街に着いてから、すぐに別れていた。あの人達は仕事終わりで一杯飲みに行くのかな?まだお昼頃ですけど。


しかし俺達は寮の管理人さんに帰ってきたことを伝えると、直ぐに作業が割り当てられた。休ませてくれないんですねぇ…。


まあ奴隷ですしね。しっかりと倉庫で荷物運びして、働きますか。



「倉庫に来た方が帰って来た実感が強いなぁ。やっぱり寮はごはん食べて寝るだけだからかな」



「私はそういうの感じない。ここ私の家じゃないから」



なるほどたしかに。そう考えると、俺の方がおかしいよな。ここを自宅と思ってるわけだもんな。荷物だらけなのに。


休憩時間やご飯時に、一緒に街の外へ行ってたランドルが他の奴隷の子達からどうだったのか聞かれてた。こういうところから、皆が話題に飢えてるような感じが見受けられる。


ランドルは竜神さまの事は喋らなかったけれど、俺が魔物を木の棒で倒していた事については誇張してるくらいに言い触らしていた。


あんまりそういう話をしてくれるなよ、照れるじゃないか。


だけど皆その事を聞いても半信半疑って感じで、俺に直接話し掛けてきたのはキース位なものだったな。もっと友達増えてくれたっていいんだぜ?


そしてその夜、不思議なことがあった。


寝ているはずなのに関節がミシミシと音を立て、頭がじんじんと熱くなり、心臓がどくどくと力強く脈打つのを感じた。筋肉が無意識に収縮を繰り返していて、自分の体が自分のものじゃないような気がする。


それなのに、目は覚まさないのだ。眠っているように感じるのに、体の変化は感じ取れる。だけど苦痛じゃない。全身がぽかぽかしてきて温泉に入っているような感じで、心地良いくらいだった。


これは何なのかと、そういう夢なのだろうかと疑問に思ったまま朝を迎え覚醒する。そして身長が少しだけではあるけど伸びていて、筋肉も以前よりがっしりしているように感じた。


実際に作業をしていると確実に力は強くなってるし、ダミカの頭に付いてる耳の位置も今までより少し低く見える。


筋肉はそういう変化もあるだろうけど、おっさんにもなって身長が伸びるなんてことが有るとしたら…と思って、聞いてみた。



「レベルが上がって進化したんだよ」



そうか、これがそうなのか。


竜神さまからは、進化することで自覚できる程の変化が有るはずだと言われていた。その進化は人族でも起こり得る事だと。


ワイバーンとか猿とか、倒してたしね。あいつらは魔物だっただろうし、経験値も沢山もらえたんだろうな。



「こういう進化って、どれくらい繰り返せるんだろう?

進化し続けたら、どんどん大きくなっちゃうのかな」



「気味悪いくらい大きな人を見たことないから大丈夫だと思う」



「そっかー。

でも進化については何か興味有るな。俺がどれだけ大きくなれるのかも楽しみだし」



「…私は今のままで良い」



ダミカは進化の事についてはあまり興味なさそうだな。


というか、俺の身長が伸びたことに気付いてる人は他にも居たりするだろうけど、何も言われなかった。進化の事は割とあることっていう共通認識なだけであって、俺がこんなに気にしてるのも他所の世界から来た人間だからなのかも。



「ただコロウは強い魔物を倒したから、大きな進化をしたと思うよ。

一度の進化でこんなに背が伸びたのもきっとそのせい」



「…ふむ、なるほどね」



もしかすると、魔法の技能が上がったりとかもしてるのだろうか。スキルも新しいものが使えるようになってたりとかしたら良いんだけど。


そういうのって確認できるのかな。今度竜神さまに聞いてみよっと。


そう頭の片隅で思いつつも結局忘れてしまうのだが。


ただそれとは別に、この2日後に俺にとっての転機が訪れるのだった。

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