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2-22

「意識が戻った様だのう」



悪夢から戻った時、視界に飛び込んできたのは竜神さまが1体のワイバーンを倒していたところだった。悪夢の中でもしっかり捕まっていられたのは良かった。



「あ、はい…」



ただ、自分のメンタルがかなり食らっていたみたいだ。精神攻撃で正気を失わなかったとしても、精神状態に影響はあるみたいで鬱っぽい気分になっているのを自覚する。


戦っている最中だというのに…こんなんじゃダメだ。テンション上げていかないと。せっかく魔法も使いたい放題なんだからね。



「よし、おっし!よっしゃ!いくぞいくぞお!やってやるぞうおおお!」



「うむ、その意気よ。精神へ干渉される場合、心に付け入る隙を与えてはならぬぞ。

しっかりと気を引き締めなければ」



「はい!」



落ちた気分を上げるなら爆発で行くしかないっしょ!



「ファイアボール」



燃え盛る岩がボコボコと膨らみながら空中に現れ、それが粘土のように丸めて固められていく。大きさはバランスボール位だろうか。顔が照らされているけど感じる熱量はヒートバリスタ程じゃない。


こいつは追尾性能が無いタイプだけれど、任意で爆発させられる。だから強いしテンションも上がる。魔力の消費量も今のところ一番大きい。そして発動がもの凄くおっそい。


これを接近してきてる奴へ向かって撃って……。



「ここだ!」



起爆させる。僅かに収縮したかと思った直後に想像以上の大爆発が起こった。


ファイアボールはヒートバリスタよりも速度が遅いから余裕で回避されていた。でも付近での爆発の衝撃と、飛び散った灼熱の破片を浴びたワイバーンは火達磨になって墜落していく。



「すげぇ威力。近くで爆破したらこっちもやばい奴だ」



「爆破系統は強力な魔法よ。我も何度か喰らった覚えがある。かなり痛いぞ」



おもろいこと言うなこいつ。普通こんなの使われたら痛い所じゃなくて死んでしまうわ。痛みの程度で評価する辺りがドラゴンらしい。


……ん?魔物とかも魔法って使うのかな?竜神さまってどんな存在から敵対されてたんだろ?もしかして人間に使われたわけじゃないよね。


まあそこら辺の追求は後にして、今度は別の魔法だ。



「ファイアボルト」



名前は似てるけど威力が全然弱い奴だ。ただの火炎で出来た矢の形をしていて、着弾することでしか起爆しない。その爆発も大したこと無くて、火炎瓶みたいに着弾点付近の狭い範囲で燃焼を起こす程度の物。


その分発動が早くて飛翔速度もヒートバリスタ並み。連発もできる。


当てやすいのもあって、外すことを恐れず連続で使用して何度も命中させる。ファイアボールの時とは別の火達磨になったワイバーンが暴れるように羽ばたきながら逃げて行った。


単発の威力が弱くても連射出来るのが普通に強いぞ。良いなこれ。



「何を呆けておる。逃さず止めを刺さぬか」



「え、あはい」



そっか、経験値になるんだから取りこぼしてたらダメだよな。



「ヒートバリスタ」



火の付いたまま暴れて飛ぶから、速度はあんまり出ていない。それに対して俺達は悠々と飛んでいるようでも相手の全力に追い付けるスピードがあり、もっと言えば飛ぶことと攻撃として狙い撃つ事とで役割分担までしている。これはイージーモードすぎますねぇ。


魔法を発動するのが遅くなっても問題なく頭に当てられた。あれは死んでるだろうな。



「うむ、これが最も効率的であろう」



「ファイアボルトで弱らせてヒートバリスタで止め。了解しました」



「最適解を選ばなければならない程の状況には成らぬし、魔力の余裕もあるがな。

後ろに着かれておる。そなたの好きに料理してやるがいい」



「あ、後ろに?ならヒートバリスタで」



振り返ると追いかけてくる個体がいた。怒り狂っているのか魔法の発動を見ても全く逃げようとしてない。


弱点のはずの頭部をあんなに狙いやすくさせてくれるなんて有り難いなあ。


撃ち込むと鼻っ面から突き刺さって即死した。ダブルヘッドショットだ、気持ちいいね。



「上手く当ておったな。ここまで正確に命中させるような魔法使いはそうそうおらぬぞ…」



「魔法は初めてですけど射撃には経験がありまして。あとは何処にいます?」



「下だ。弱って逃げるのもままならぬのが1匹おる」



そう言った竜神さまが急に高度を下げた。というか、地上に向かって飛び始めた。落ちてるのと変わらないどころか落ちるより速い。逃げ切られる訳でもなさそうなのに何でこんなことをするのって思ったけど文句を言う時間もない。


最後まで残ったワイバーンは俺に鱗を削られた個体だった。



「うううっ、ヒートバリスタッ!」



チェインライトニングとファイアボールで迷ったけれど、ヘッドショットの連続記録がかかってたのを思い出す。


飛行速度が高まって空気抵抗が上がっているお陰なのか、形成される弾頭が唸り声を上げているように感じた。



「当てるッ!」



ヒートバリスタの速度とワイバーンの飛ぶ速度とを意識して、集中力を高め狙い撃つ。


脳天に命中するかと思ったが、しかし僅かにずれてワイバーンの首筋に突き刺さった。



「ちくしょう!」



「見事……うむ?我の見立てでは、あれは致命傷のはず。

なんぞ誤りでもあろうか?」



竜神さまは急降下を止め、緩やかに着地しようとし始めた。



「いえ、途中から全部頭に当ててやろうと思ってたんですけど、最後の奴がちょっとだけずれちゃったから惜しかったなって。残念に思っただけです」



「ふぅむ、初の魔法戦闘の場で中々趣深い遊びをしておるな。

だが、先にも言うておるがワイバーンと言えど鱗は強固。頭に当てれば必ず仕留められるわけでも無かろう」



「えー、そうなんですか。何か普通に倒せちゃってたからそこまで硬く無いんじゃないかと思ってましたよ。

当たり所が良かっただけでラッキーだったって事なんですね」



「技量にもよるが、本来一発の魔法だけで葬れるような柔な魔物では無いのだからのう…」



そう言われれば、あれだけ熟練感のある冒険者さん達であってもワイバーンの巣を見つけた時、相手取る気がまるで無さそうだったからなぁ。


このアーティファクトがそれだけ強力な物だって事かな。


そこでふと、ある考えが過った。


…今なら、この状況を利用すれば俺が竜神さまを殺せるかもしれない。


鱗の隙間から、狙えるだろうか?もしくは目に?口の中なら鱗は無いはずだからそこからなら…………いや待て。今俺はこの本から精神に干渉されているだろうか。


…わからない。なら止めておこう。こんな状況で考えることでは無かったな。第一、竜神さまへの憎しみはもう何度も振り切ったはず。今後もそれに囚われるような心など持っていたくない。


憎しみにまみれたままの俺を、我が子や妻に見られたくなんか無いからな…。


そんな下らない葛藤を終えたところで、竜神さまと一緒に最後に仕留めたワイバーンの近くへ着地した。ついでに周辺の木を破壊するのも忘れていない。魔力を供給する魔法陣はまだ展開されたままになっている。



「まだ生きていますね、しぶとい…」



死んでると思ってたんだけどな…。ただ、頭の付け根辺りの首にヒートバリスタが命中しているため、もがいて暴れるから森の枝木を破壊する音と、ジュウジュウと肉の焼けるような音が聞こえている。



「放っておいても経験値にはなるであろう。捨て置くか?」



放っておくことは…したくなかった。


魔物といえども生きてるんだ。戦いになったのはこいつらが人間の脅威になる可能性が有ったから、俺達から始めた事なんだけど、死を先延ばしにして苦しませ続ける必要も無いだろう。



「チェインライトニング」



騒々しい森へ鳴り響く電撃音。それで幾分か静かになった。



「ヒートバリスタ」



動きも止まっていたので、良く狙う必要も無い。眼球を突き抜けて脳を破壊した。それでお仕舞い。完全に静寂が戻った。



「あと、竜神さまが良ければこの死体を持っていって貰っても良いでしょうか?

鱗とかが素材になるでしょうから持って帰りたくて」



「…拒む気は無い。無いが我としては、あ奴等の利と成るようなことに加担するのは気が引けるのう」



「そうですか?じゃあいいですけど…」



「まあ、よい。そなたのためになるならば持って行こう」



死体を口で咥えると、ふわりと空へ舞い上がった。竜神さまは早くワイバーンを降ろしたいからかさっきまでより速度を出して飛んで、拠点まで戻ってきた。今度は最初に着陸してきた方とは反対側の木々と道を吹き飛ばしながらだ。木片が結構飛び散って来るので乗ってる身としては非常に危ない。



「おまたせしました。急に居なくなってすみません」



竜神さまの上から見下ろすと、奴隷の皆と護衛の皆さんが見えたけど冒険者さん達は居なかった。



「あの、これ竜神さまからの手土産なんですけど……他の皆さんはどちらへ?」



「コロウお前竜騎士だったのかよ!

しかもっ、こんなにでけえ竜の!」



着陸と同時に駆け寄って来てたランドルが声を震わせ興奮気味に聞いてきた。


竜騎士て、俺が騎士様に見えるならお前は勇者様か何かか?



「ランドルと一緒で奴隷なのにそんなわけないでしょ。

ねぇ、他の人はどこ行ったの?」



「近くにお前が倒したワイバーンが落ちてきたんだ!そこへ行ってる!」



ランドルは興奮冷めやらぬ様子で森の方を指し示している。



「まだ落ちただけで息絶えてはおらぬかもしれぬぞ。

コロウ、行くか?」



うん、さっきのもしぶとく生きてたしね。その可能性は大いにあると思う。



「ええ、行きましょう。もしまだ生きてて冒険者さんが怪我しちゃったら可哀想ですし。

その場合は俺の仕留め損ないが原因になるわけですから」



今度は空を飛ばずに歩いていくようで、器用に木と木の間を蛇のように体をくねらせながらどんどん進んでいく。四足歩行であっても竜神さまの背中はそこそこ揺れが大きい。


野太いペンギンの鳴き声みたいな音が聞こえてきたので急いでもらうと、血みどろで横たわるワイバーンが冒険者さん達に囲まれていた。


腹にヒートバリスタが刺さってた奴だけど、更に両目が潰され大量に吐血している。もう暴れるような力も残っていないみたい。



「…あんたか。今度は何が来るかと思った」



「あ、えっと…驚かせてすみません。

止めしますね、ヒートバリスタ」



弱って動かないので目のところから貫通させて頭を狙う。ビクンと強めの痙攣をした後、ゆっくりと力尽きた様に脱力していった。



「普通は勝手によそ者が魔法を……いや、もういいや。

あんた、こいつの素材が欲しくて来たのか?」



あ、しまった。勝手に倒したら横取りしたことになっちゃうかな。冒険者さん達を観察すると、俺たちの方を警戒してる様にも感じ取れた。敵対されても竜神さまに勝てるわけ無いだろうけど。


しかし俺のさっきの行動はマナー違反だったってことかな。今後は気を付けよう。



「いえ、皆さんが心配で来ただけです。その心配は無さそうでしたけど…。

あと、俺は奴隷なので素材が欲しくても貰えませんから」



「…お前、絶対奴隷なんかじゃ無いだろ」



「え?いえ、奴隷の契約はさせてもらいましたけど…。

あの、持って帰るの大変でしょうからこの死体は持っていきますね。竜神さま、お願いします」



「我は荷車では無いのだがな…」



若干不機嫌か?でもさっきと同じように咥えてくれて、来た道を戻っていく。


竜神さまがさっさと行くものだから冒険者さん達のことは完全に置いてけぼりにしてしまった…。

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