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2-21

この世界の魔法について思い出すのは、竜神さまから聞いた話の中でのことだ。


魔法は地脈から滲み出す魔素をエネルギーにして構築される。だから地脈の弱いような普通の街では強い魔法とかは基本的に使えないようになっている。だから魔法による被害も無くて、魔物に襲われる心配も無い訳だ。


でも例外もあって、体内に貯めておける魔力量が多い人はそういう場所でもそこそこ魔法が使えるらしい。


ただし、魔法は使ったら使った分魔力を消費するので、また取り込まないといけない。でも魔素の少ない場所だと補充が出来ない。


竜神さまの場合は貯めておける魔力量も多いのもあるけど、神としての権能において特別な制約を自らに課すことで、どこに居ても魔力を取り寄せる事ができるらしい。神、ルールブレイカー過ぎる。


そして魔法の扱いについてだけど…。


実は俺、魔力を消費することについてはずっと前から練習していた。


どうやって練習していたのかというと、それはスキルの使用時になる。


俺は言語スキルを使用するとき、本当にごく僅かだけど魔力を消費するような感じがあるのを自覚していた。だから何時だったか、言語スキルを切って日本語で話をしたことが有ったんだけど、その時は供給する魔力をシャットダウンしてたのだ。


それと俺の言語スキルレベルがまだ貧弱だった時、一言目で相手が上手く聞き取れていないなって思ったら、スキルに込める魔力を多くしていた。そうすることで、言葉が相手に伝わりやすくなっていたのだ。


つまり、そこでの魔力を込める感覚が掴めていたから、魔力の流れについては対応できる自信がある。


竜神さまから流れてくる魔力は濁流のようで、大量で勢いもありながら、その内の一部しか俺の物として受け取ることが出来ない。それでも半端な量では無いのだけど。


これはきっと魔法陣を介しているから出来ることなんだろう。それか、俺と竜神さまの魂が元は一つのものだったから成せるものなのだろうか。


何はともあれ一先ず魔力の量は問題ない。次はこの本についてだな。


竜神さまは攻撃魔術が記憶されていると言ってたけど、なるほど使ってみれば意味が解った。


魔力を本に込めると、俺が魔法の使い方を自動的に『知っている』状態にしてくれる。これは画期的だ。



「ありがとう。お前はお利口さんだね」



この本、『この手に悪夢を』と魔力の流れを共有する。俺の脳に13種の攻撃魔術が一気にダウンロードされたが、これはきっと一時的なもの。魔力が供給されなくなれば、俺は魔法の使い方を知らなかった状態に戻されるだろう。


詳しいことはわからないけど、どの魔法を使いたいのか選べば自動で魔力を引き出して、自動で魔法を発動してくれる。その後に俺のすることと言えば任意で目標を定めるだけだ。簡単だね。


さて、それじゃあ初めての魔法は一番シンプルな奴で行こうか。



「チェインライトニング」



バサバサと独りでにページが捲られ、開かれた項目の魔法陣に魔力が吸い込まれていく。魔法が、発動する。そう思った瞬間に、更に魔力が奪われた。


何が起こったのか理解できなかった。魔法は不発に終わったのだろうかと疑い、次いで急に体が怠くなり不快感が増して、あらゆる事が不安になってきた。


空を飛んでいることが不安で、魔法という不確かなモノへの不信感が強くなり、目の前に迫るワイバーンへの恐怖が押し寄せる。こんな状況にさせてきた竜神さまに対して強いストレスを感じた。疑いの心が芽生えたと言っても良いだろう。


……でも、それだけだな。俺みたいな人間が、今さら何を怖がっているのか。竜神さまへの疑いの心が有ったところでそれが何だというのだろう。そんな事を考えても、あの子の傍に戻れる訳でもないのだ。


今はそう、ワイバーンをぶっ飛ばして気分転換だ。戦うのを楽しもう。魔法を撃ちまくって憂さ晴らししよう。


そう気持ちを切り替えると、直前に沸いてきていた負の感情達が綺麗さっぱり消えてなくなった。


……もしかすると、さっきのが竜神さまの言ってた精神攻撃なのか?この本の嫌がらせみたいなものか。


まあ、いいや。群れから先走っている先頭の個体に手を伸ばして狙いを定める。



「チェインライトニング!」



もう一度声を上げた。


この魔法はある程度自動で追尾してくれるので狙いは大雑把でも大体当たる様だ。


バヂヂッと音を立てて青い稲光が走る。顕現した魔法が最高にカッコいいし、それを俺が使ったことに言い知れぬ高揚感が伴う。っていうか爽快です。


魔法は落雷みたいに一瞬で到達するのではないけれど、それでも速い。青い雷光は狙った個体に命中し、その後続の内2体に連鎖するのが見えた。


だけど直撃したワイバーンが少しだけ失速しただけで、連鎖した2体に至っては何の反応も見せていない。



「初めてにしては上出来よ。だがそのような魔法では、流石に一撃で仕留めることは出来ぬぞ」



「いやぁ、技名がカッコいいから言ってみたかっただけですって」



「楽しみ方が違うのではないか?」



「まあまあ、心配せずに見ててくださいよ」



もうさっき消費した分の魔力は戻っているが、話しかけられて答えていると集中が乱される。どうやって魔法を使うんだっけ?という感じになってしまって、魔力が込められなくなってしまうのだ。


『この手に悪夢を』に意識を集中させる。今度はさっきより強いのでいくぞ。



「ヒートバリスタ」



今度もさっきと同じように二段階で魔力が吸われる。すると、頭上に1メートル程の長さをした槍状の物体が成型され徐々に赤熱していく。見てると顔がちょっとアッチィ。


目線を前に向けると、ワイバーン達が回避行動を取り始めた。一斉に向かってきてた群れが散り散りになっていく。


その内の一体、高度を上げ始めた個体をロックオン。



「いけっ!」



放たれたそれはチェインライトニングよりかは遅く、正しく矢のような速度で飛んで行くけど、命中はせずに惜しいところで外れた。こいつには追尾性能が無いから仕方ないと言えば仕方ない。



「ヒートバリスタ!」



感覚は掴んだ、今度は当てられる。


再度形成される弾頭。それに狙われていることが解るからか、更に逃げようと上を目指して羽ばたくワイバーン。そいつを良く狙って…撃つ!



「見事だ」



当たる前から確信していたのか、竜神さまの声と共に胴体へ命中した。



「よしっ!」



シューティングゲームが好きだったんだ。偏差射撃はお手の物なんだよね。


ワイバーンは苦しみもがきながら墜ちていく。でかい矢が体に刺さったのも痛いだろうけど、それが焼けた石のような熱さなんだ。とてもじゃないが飛び続ける事なんて出来ないだろう。



「ワイバーンと言えど、竜の血を引く者の端くれ。

硬い鱗に覆われておるが、腹は弱い。上手く当てようたの」



なるほど、たまたまだったけどクリティカルになったって事か。じゃあ次も腹の方狙いますかね。



「竜神さま、左に旋回してください」



「ふむ、良かろう」



羽ばたきと共に竜神さまの体が左へ傾く。


ワイバーンが2体で固まって飛んでる方へ行きたかったからそう指示したんだけど、これだと竜神さまの体が邪魔で見えなくなっちゃうな。



「すみません、見えなくなったんで今度は右向きにお願いします」



「うむ……む?そうか視界が悪いのか。

なれば、我が奴等めの位置を伝えよう。もう目の前におるぞ」



見えたのは10メートルも無い距離に居るワイバーンだった。


あらまあ、もうこんなに近くに来てたのね。



「おぉっ!ヒートバリスタッ!」



「遅い、これは上にやるぞッ!」



ドンッと強い衝撃。俺は宙へふっ飛びそうになるのを寸での所で堪えた。支えにしている腕が外れてしまいそうな程だったぜ。危ない危ない。


前を向けば、竜神さまが口に咥えたワイバーンを上に向けて放り投げた瞬間だった。


投げられたワイバーンは姿勢の制御もできずに空中で暴れている。体は大きいが竜神さまと比べてしまうとスケールが小さい。見た目はコウモリと蛇が合体したような安っぽいドラゴンみたいな感じだ。落ち着いて、晒されたお腹目掛けて撃ち込む。


命中したんだけど、今度は近すぎたためか弾頭が貫通して抜けて行ってしまった。あと位置が悪く、血煙が飛び散って結構浴びてしまう。うえっ、生臭っ。


それでも死んだのかどうかを確認したくて目で追っていると、後ろの方へ風に流れて行ったワイバーン。そいつに対して、竜神さまが体を波打たせ、しならせた尾で強烈に打ち据える。


鞭が空気を叩く時に鳴るような音がして、俺のほっぺたが衝撃波を感じ取った。ワイバーンの死体が真っ二つに裂けている…。



「おのれ翼竜の分際で…。混ざりものの安い血を撒き散らしおってからに」



えぇ、なんか怖…。竜神さまって魔物界におけるレイシストなのかな?混ざりものとかって…。そういうの魔物が気にする必要なくない?居るのか知らないけどキメラとかの事をどう思ってるんだろうか。あとワイバーンって混ざりものなの?突き詰めれば竜神さまだってトカゲの混ざりものじゃん…。


後で時間があったらじっくり話そう。けど今は戦うことに集中しなくちゃ。



「すまぬなコロウよ。終われば川か湖にでも降りる故、そこで体を綺麗に洗いなさい」



あ、俺のために怒ってたの?



「いえ、気にしてませんよ。その話今しなくていいですって」



「…そうか、すまぬ。そなたの事を想うと、つい感情的になってしまっていかぬな」



はいはいっと。さて、見えてる奴で一番近いのはどいつかなー。あいつか?



「チェインライトニング」



放った直後に…。



「ヒートバリスタ」



チェインライトニングは自動追尾する。撃ったらお任せで、その間に次の魔法を発動する。


ヒートバリスタは頭上に作成されるまでタイムラグがある。その間にチエインライトニングは命中。そうすると感電して失速するから…。



「いけっ!」



ここで撃てば硬直した状態で狙い打てるんだ。頭に当ててやるぜ!そう思って魔法を放とうとしたけど、出来なかった。あれ?って思って上を見ると、今形成が済んだ所だった。


…仕方ない。遅くなっちゃったけど、しっかり狙って撃つ。


思い通りに発動出来なかったのもあって、どうせ避けられるんだろうなと期待してなかったのだけど、以外にも回避行動を取られず普通に当たった。


頭から背中にかけて擦るように当たり、ワイバーンの鱗が粉の舞うような弾け飛び方をする。鱗だけじゃなく肉も抉られたのか、鳴き声が苦痛に呻くものだった。


良いダメージが入った感じだ。もう一回さっきのやろう。



「チェインライトニング……ヒートバリスタ」



同じ行程を経て、撃とうとしたその時だった。


視界が暗転し、悪夢が始まった。


フライパンで熱したケチャップみたいに泡立つ全身の肌。喉で何かが膨らむ感じがして苦しくなる。いや、もう息も出来ない。


竜神さまの鱗が捲れ上がって、四方を囲む壁になると、急速に狭まって来た。見れば壁面の鱗が逆立ち、棘になっている。


足元から何かが這いずって体を登ってくる。無数の虫や、大きな蛇だ。


更に何か不穏な事が起ころうとしているらしいが、俺の心は既に恐怖で押し潰されて、何かを認識しようとする事を頭が拒んでいた。発狂したように叫び出したい程に。


直ぐに解った。これがこの本の本領って事なんだと。


本を手放したくなって、そこで思う。これは現実に起こってることじゃなくて、幻覚で間違い無いんだよねって。


悪い夢を見ているときのように、これが夢であってくれと願うような気持ちになっているのに気付いた。…それが我ながら愚かしく思えて仕方がなかった。


これが現実に起こっていたとしても、別に良いじゃないか。何で不快感を覚える必要がある?


俺はもう空っぽの人間。苦痛から逃れようと無様に生き延びても、その先で何かが俺を十全に満たしてくれる訳でもない。きっとどこかで我が子を求め続ける気持ちは消えないと思う。


本当にさぁ………ここまで散々考えて来た事なのに、俺の心は今さら何を恐れてるんだか…。



「もう、このくらいの悪夢なら見慣れてるよ。

だから無駄なことをして、つまらないおっさんを苛めようとしないでよ」



『この手に悪夢を』の表紙を撫でると、幻覚は消え去っていった。それはまるで悪夢を見せることを諦めたかのようだった。

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