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2-19

夜はあまり眠れなかった。疲れも有ったというのに休息も十分では無いのは気掛かりかなあ。


そんなことを考えてると竜神さまから連絡がきた。



(そなたの思うこともあろうが、我らの仲よ…なにも言わずとも解っておる。ただ、ここまでの出来事を話して欲しいのだ)



何度も連絡してきてしつこいと言われるのもわかってますよってことね。そこは俺からも同じ事を何度も言いたくないし省略しますか。



(はーい、わかりましたよ。

初日は移動で終わった感じで、次の日は鳥を沢山仕留めましたね。倒すのは冒険者さんがして、俺達奴隷は運ぶだけです)



(…ふむ、冒険者か。

そなたに危険は無かったか?)



(ちょっとだけありましたよ。倒すことは出来たんですけど…)



俺は魔物と戦ったときの事を話した。その後皆から俺がどう思われてるかについて聞けたことも、一応伝えた。



(…その魔物はまだ若い個体だったから良かっただろうの。成長すればもっと大きくなる。倍以上にはな。

ただそこまで成長した魔物は、もっと地脈の影響が強い場所でしか活動出来ぬであろうがな…)



(地脈ってそういうのにも影響するんでしたね。

人族の街が栄えていられるのもそれが関係してるって言ってましたし)



道中で魔物に襲われることが無いのも、そういう場所に道が出来るからだ。


ただ盗賊とかの、人に襲われることは有るから気は抜けないけど。



(左様。地脈の影響とは即ち魔素(マナ)のこと。しかし過信してはならぬ。地脈は常に一定とは限らず、大きくうねり変動することもある。

その余波を受けて滅びた国もあり、中には地脈を操る魔物も産まれ()づる事もあった。

それに、一時的なものではあるが魔素を産み出す方法など、いくらでもあるのでな)



(竜神さま、今日は地脈に関係する事の勉強のために連絡をしてくれたんでしたっけ?)



(うむ、つい講釈を垂れたがそうではないぞ。

我もそなたの安否を気にせずにはおれぬだろうが、それもいつか終わるものだと思えば心も軽くなると思うての)



(なるほど、そういう感じだったんですね)



昨日の時点で決まってたことだが、たくさん収穫できたおかげで馬車の1台が満たされた。なのでそちらの方は街へ戻る事にしたらしい。護衛の人も半数が同行して行くから、ここの拠点の人数も減ることになる。


ここまでの行程で拠点の周囲に危ない魔物が見つからなかったから、今日は更に森の奥まで進んで行くことになるらしい。あの狒々は大した脅威では無かったってことだ。


まあそんな話を竜神さまに伝えとく。



(今日から本格的に危険な冒険が始まる感じですね)



(…その状況を楽しんでおるのか。

弱気になるよりは、と思うが…心配であるな。明日も呼び掛けてもよいか?)



(……別に良いですけど、気分によっては無視するときもあるかもしれませんからね)



(うぬぬ…その時は素直に諦めよう)



ということで明日も連絡が来ることになった。やれやれだぜ。


そしてこの話は終わりで、皆起きたら出発の準備にかかり始めた。



「身の安全は考えて行動するだろうけど、万一何かあったら頼りにしてるぜ」



奴隷の仲間から戦力として頼られているというのは昨日から感じてた。でも、もしも戦闘になった時、俺は冒険者さん達が倒してくれると思ってる。


狒々と遭遇した際も、俺が居なくても冒険者さん達だけで倒せていただろうしね。それでなくても、随所でプロフェッショナルな仕事ぶりを見ているから、対処しきれないような状況に直面しないよう避ける選択をするだろう。



「コロウ、今日も紐付けて良い?」



昨日の事があったが、ダミカとは普段通りを心掛けたい。ただ、彼女の方からは以前よりも親しげな印象がある。



「んー…ダミカが安心するなら、まぁ良いよ。

絵的には逆だろって思わなくもないけど」



「ううん、私はそう思わないから大丈夫」



そうかな?獣の見た目のダミカが縄に繋がれてる方が自然に見えるような気がするけどな。犬の散歩みたいで。


……ん?これは人種差別に当たるのかな?そういう意図は全く無かったんだけど。


しかしそれとは別に、この世界は身分の違いで対応が変わることはあるだろうけど、種族の違いでは差別とか無さそうだよな。ちょっとくらいはあるかもしれないけど、今のところ見かけないし。


そんなこんなで出発したけど、今日は見掛ける鳥は全部見逃していく。時間短縮と、もっと深い場所にいる魔物を獲るため、行きの道の浅い場所では荷物を増やしたくないのだろう。


どんどん進んでいくと、冒険者さんの止まれの合図。



「血の匂いだ」



そう話す声が聞こえたけれど、そんな匂いなんて全然感じ取れない。辺りを見渡すも、それらしいものはなにも見えない。



「ダミカはわかる?」



「うん、言われてみればちょっとだけ…」



そうなのか。やはり獣人の五感は優れてるなぁ。冒険者さんもスキルによるものなのか、人間族なのに鋭い嗅覚を持ってるね。


警戒しながらゆっくり進んでいくと、動物の死体があった。遠目から見るとどうやら鹿みたいだ。お腹の中身が殆ど無くなっている。



「まだいる、近いぞ」



冒険者さんの一人が呟く。


確かに俺でもわかるぐらいに辺り一面が獣の体臭で満ちているような気がする。そしてそれ以外の生き物達が、恐れて息を潜めているようなピリピリとしたような空気が感じられる。



「コロウ、鉈使って。

でも紐は離さないからね」



「うん」



皆の緊張感が高まっているのが解る。ここは流石にふざけてたら不味いから素直に受け取った。


そしてそいつは木の影からそろりと現れた。



「豹だ、弓は使うなよ…」



大きな体に黒色の斑の模様。全身が白と茶色の毛色が混ざり合って、黄色にも見えるのに何故か森の中でも目立たなかった。居ると意識すれば見分けるのは簡単だったが、輪郭が背景に溶け込んで見える。天然の迷彩柄なんだろうか。


じっとこちらを見つめ、静かに佇んでいる。


ダミカの話で出てきたから、この辺にも居るんだろうとは思ってたけど、想像していたよりも迫力が無い。ただの大きな猫みたいに見えた。


その豹に向かって、メイスを後ろ手に構えた冒険者さんがゆっくりと歩み寄る。



「おう、おう、どうした?満腹になったのか?

それとも俺が怖くて動けねぇか?」



挑発だ。動物相手に効果があるのかどうかわからないけど、メイス持ちの冒険者さん……略してメイスさんはずっとそんな調子で喋りかけながら、おどけたような動きも交えて少しずつ距離を詰めていく。



「来いよ、おら来いよ」



だけど豹は動かず、じっとしていた。



「へえ、そうかい。

じゃあこれならどうだ?あ?」



メイスさんはブーツで地面を蹴り、死体になった鹿へ向けて落ち葉や砂をひっかけた。


その瞬間、豹の顔が怒りに染まる。まさに豹変って感じだ。



「おぉ~、可愛いね子猫ちゃん。さっさとこっち来いよ、撫でてやる。

でも待てよ、口の中が気持ち悪ぃな。ちょいっと失礼……」



挑発しながらも距離を詰めるのは止めず、鹿の近くまで寄ったところで、その死体に向かって唾を吐き掛けた。それが決定的だった。


唸り声からの、威嚇。その直後に豹は全身のバネを使って飛び掛かってきた。


メイスさんは身を屈めながら跳んだ豹の下を潜るが、同時に後ろ手に構えていたメイスを縦方向に振り抜く。


何かが破裂したかのような打撃音。飛び掛かった豹は着地も出来ずひっくり返って痙攣していた。4つの足が上へ向かってピンと伸びきっている。


メイスさんは立ち上がり様に剣も抜き放っていて油断なんて全く無い。



「ちょっと強くやり過ぎたか…」



どうやらあの状況でも力加減を見極めようとしていたらしい。どういう神経してるんだろう……ちょっと引くわ。


そう思ってると、メイスさんはじっとりとした目付きで俺を見ていた。まさか昨日俺が勝手なことをしてしまった件について、まだ根に持っているんだろうか?もしもそうだったら何かやだな。こわいや。


思わずしばらく目を合わせてしまってたけど、視線を切ったメイスさんはまだ痙攣している豹へ向かってようやく止めを刺した。



「ああやると、毛皮が痛まない。

専門の業者に卸せば、潰れた頭も直すからな。刃物や弓を使うと、どうしても切れ目ができちまう。素材を高く売るためのコツだ」



短槍持ちの冒険者さんが教えてくれた。へえ、すごいなぁと思ったけど、結局解体はするみたいでお腹側から切れ目を入れてしまっていた。そのまま持っていけば良いのに…。


勿体ないと思いつつ、丸められた毛皮を背負わされて気付いた。この状態でもそこそこ重い。きっとそのままだったらもっと重くて、持って帰るのは大変になるんだろうな。


鹿もちょこっと解体して、食べられそうな所を少量切り取っていく。その際に鹿の、どこにメイスさんが唾を吐いたのかって話で冒険者さん達がふざけ合っていた。聞いててちょっと面白い。



「その辺にしとけ。あんまり馬鹿話してると、もっと馬鹿な真似しそうな奴が居るからよ」



む、それは俺のことで間違いないね。




昼食も兼ねた小休憩を挟みつつ、先へ進むにつれて出てくる生き物に変化が出てきた。蛇や猪、兎までもが魔物化しているせいか大きくなったり色が変わっていたり。


でもそういうのも見つかるとほとんど逃げていく。人数が多いと勝てないと思うような知能があるのか、それとも人間を怖がる本能がまだあるのか。


それでも中には向かってくるような魔物もいるのだけど、そういうのは冒険者さんが難なく倒していく。ただ素材を剥ぎ取るのはほとんど一部のみ。毛皮を丁寧に取るような事はせず、時間をかけようとはしなかった。


進んでいる内に、やがて木々の隙間から切り立った小高い山肌が見えた。



「…ちっ、奴らこんな浅い場所に居やがったか」



冒険者さんがその山の上の方を睨み付けながら歪めた表情で言う。


何がいるのだろうと俺も目を凝らすと、灰色の肌をした大きな生き物が見えた気がした。でもそれは肌ではなくて鱗だった。その鱗を備えた生き物が何匹もいる。



「え、ドラゴン?」



「…けっ、ドラゴンなんかがこんな所に居てたまるか。

ありゃ、ワイバーンだ」



……どうゆうこと?そこに区別する要素って有るんですかね?

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