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「我は原初の魔物が一つ、アンガングレゴリオース・ファレフトスの血を引く竜。

大地神の密命により、生まれながらに加護を持たされ、大いなる使命を背負っておった。

また、その役目を遂げるまで制約を課されたのだ」



魔物とか神とか、今の俺にはどうだっていい。



「それ、最後まで聞けっていうのか」



「短き話よ。

その制約がそなた。つまり我の魂を別たれることだったのだ」



さっきから言ってたが、俺の魂は元々こいつのものらしい。だが俺にはその実感は全く無い。何のシンパシーも感じていない。


まるで信じられないし、こいつが俺の魂とやらに拘っていることには違和感しかない。



「その話、信じる証拠は?」



「今のそなたには信じることなど出来無かろうて。

…我は精神を制御するための強力なスキルを手に入れておる。

それまでの我は、獣のように振る舞い、欠けた魂を求めて……ガムシャラに行動しておった。

何としても、それを取り戻したかったのだ」



「取り戻して、何が目的なんだ」



「その目的は後で話そう。

我は役目を遂げるために、様々な力を手に入れた。

千年を超えて、神の領域まで届き、それでも尚奉仕してきたのだ。

そして、ようやくそなたを召喚したのだが……」



「なら…ついさっき俺を呼べるようになっただけなのか?

だから俺と家族が引き裂かれたのも、たまたまだったということか?」



だとしたら、こうなったのも俺の運が悪かっただけなのか?


ふとその考えが頭を過ったけれども、その理由だけで全てを納得することは出来ない。


千年?神になっているって?……突拍子もない話で、異世界らしいと言えばそれまでだけれど。



「いいや。厳密には少し前に制約は解けておった。しかし、何度も輪廻転生を繰り返しておったそなたの魂が、今生ではまだ成熟しておらぬ時分であったのだ。

魂を通じてそれだけはわかっておった」



今の俺は、成熟した魂と言える…?


とてもそうとは思えない。俺はまだまだ未熟者だ。


あれだけ可愛い我が子に、何度も何度もイライラしてしまった。何度だって妻とも喧嘩した。仕事だって毎日何かしら反省するところがある。覚えたと思っていたことだって、何回忘れたことか。


何も……俺は自分のどこも誇れない人間だった。


そんな俺が、どこの誰に見せても恥ずかしくなかった。あの子だけは、俺の自慢だった。臭い言い方かもしれないが、本当の意味で宝物だったんだ。


…考えたくないけど、あの子が産まれる前ならこんな気分にならずに済んだのかな。


嫌な考え方をして、気分が落ち込んできた。少し…落ち着けるかもしれないと、思った。


思ったのに…ぐつぐつと、また怒りが。もう…怒りたくなんて無いのに、コントロールできない。



「あんたは……じゃあ、あんたは俺と俺の子の間を、引き裂くタイミングを見計らってたって事か!」



言葉にして、どう考えてもそれは違うだろうと冷静に否定できる自分もいる。


けど、さっきからブレーキが効かなくなっていて、落ち着いて話したいのに止まらない。考えてから喋りたいのに、どうにもならない。


怒りで、俺はもう滅茶苦茶だ。


絶望で、もう何も正しく理解できない。


歪んで、崩れて…。あの子にもう会えないと、じんわりと認識してきている俺の脳を、俺自身が否定したくて、段々と壊れてきているような感じがした。


こんな嘘みたいな現実は、きっと夢なんだと思い込みたい。でも出来ない。


誰か、誰か俺を助けてほしい。そう思ってるのに。もう、何もかも終わりにしてしまいたい…。



「コウタロウ、我をどうしたい?」



スッと、ぐちゃぐちゃに絡まった糸みたいな俺の感情を、(ほど)くような言葉だった。


もし、殺したって良いって言われても、俺はそんなことをしたいだろうか。


何故だか、そうしたくなかった。このドラゴンをそこまでしてやりたいとは思えなかった。


圧倒的に弱いはずの俺を、心配そうに見つめている。


そして、俺の家族に危害を加えようとしてた訳じゃない。それは理解できたから。


俺は何に対して憎んでたんだろう?怒っていたのは…あの子から離れたくない我が儘から?


駄々を捏ねて、思い通りにならず。…ドラゴンに対して憎しみを抱いていたのは、少しはあるだろうけど。それはそこまで大きなものじゃなかった。


他にやり場の無い怒りが、どうしようもなく大きすぎただけであって、誰かを憎んで憎んで、殺してしまいたくなるほどでは無いと思う。


本来の俺なら、あの子に会えなくなってしまったら……誰かに当たり散らすことはしなかったはず。きっと、悲しいけど怒らずに…そうか、俺は悲しいのか。


理解した。俺は悲しくて悲しくて。こんな簡単な事に気付けなくて、激しく動く感情に流されて、怒りに任せて喚いていただけだった。


自然と、自分の体を抱いていた。あの子がいたら、迷わずに抱き締めて、癒しを貰っていたはずだ。


でも、もう手の届くところにはどこにもいない…。


涙が、流れた。



「…さっきまで、失礼なことを、言っていました。

すみません」



何とか絞り出せた言葉に、けれど何の価値もないような気がした。


命乞いか?もう、生き甲斐もない命なのに。


ドラゴンへの謝罪?きっと心からのものじゃない。社交辞令にさえもならない、陳腐なものだ。


召還されなければ、こうならなかったという思いが強く強くあるのに。



「コウタロウ、そなたの魂が大きく成長したと感じたのは、きっと親に成ったからなのだろうな」



「…親にですか」



「この世界へ呼ぶ時までに、ある程度力を付けていてほしかった。心も体もな。

我はそれを魂の成熟具合によって計っておった。

故に、大きく成長したと感じたので今日、呼び寄せてしまったのだ…すまぬ」

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