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2-15

荷物を載せた2台の馬車に追従し、俺達奴隷の5人は徒歩で検問を通過していく。門の外に行くのはこの街に来てから初めての事だ。


俺が最初に街へ来たときと同じように、検問を通ろうとしている馬車や荷台が列を成し、たくさんの人が順番を待っている。


ふとその中に獣人族を見つけた。その人は本物と比べると小さいけれど、頭に角が生えていて鹿っぽい見た目をしていた。


俺は思うところがあったのでダミカに質問をしてみる。



「あの人はダミカと見た目が大分違うけど、獣人族ってどれくらいの種族がいるの?」



猫とか犬とか兎とかいるんだろうなって考えてたんだけど、鹿までいるならもっと沢山の種類がありそう。



「?それどんな意味なの?」



「獣の数だけ獣人族がいるのかなって」



「そうだよ」



「そうなの?

じゃあ結婚相手見つけるの大変じゃない?」



「…普通だと思うけど」



「そうかなー?だってダミカ以外に熊の獣人さん見かけたこと無いよ」



「……コロウ勘違いしてる。

獣人族は相手選びに見た目関係無い。産まれる子供によって見た目がどんな獣になるか変わるだけ。私のお父さんは尻尾が長くて猿の見た目だった」



「えっ、そうなんだ。へぇー、不思議だね」



「不思議じゃない、普通」



ということは、獣人族は生まれ持った性質によってどの獣っぽくなるのかが変化するって事なのかね。


力強い子ならダミカみたく熊とか虎とかになったり、鼻が良いなら犬とか狼とか猪とかになるんだろうか。


実に面白ぉい。


時折ダミカやランドル以外の二人と話をしたりして目的地へ向かって行くが、俺達の一行(いっこう)は奴隷以外だと専属の護衛が12人と馬車の運転手が2人居るだけだ。


冒険者さん達とはいつ頃会えるのかな?そう思いながら歩き続ける。


その途中で、すれ違う馬車の集団から護衛の人に向かって声がかか事があった。それもかなり柄の悪い感じで。



「よおーダボストん所の商会印が見えるなぁー?

お前ら今日も儲かってんのか?羨ましいなぁ、それだけ奴隷がいりゃあよ。要らないやつでもいーから一人くらい分けてくれよ」



「うるさい、欲しいなら金を用意しろ貧乏人どもが」



護衛のリーダーに言い返されて連中はゲラゲラ笑っている。中には女の子だからか、ダミカにちょっかいかけようとして声をかけてくる奴もいた。彼女は全く相手にしてなかったが。


どういう奴等なのかわからないけどまるでチンピラだな。でも、もしかするとうちの商会は他の人達からは印象が良くないんだろうか。儲かってると妬ましいだけかな。


その後も馬車が動かなくなれば皆で後ろから押したり、馬のためか人のためか何度も休憩を挟みながら夕方になる。


俺達奴隷には行程について全く説明されなかった。ダミカに聞いても毎回目的地は違うらしい。


気付けば道幅も大分細くなって、すれ違う馬車も無くなっていた。反対から馬車が来たら、多分どっちかの馬車は道から外れる必要があるだろう。そうなると舗装されていないからまた道に戻すのも大変だろうな。馬車を牽引する馬の機嫌も悪くなりそう。


もう街を出てから大分経つ。農地は見えなくなり、木々が道から程近いところに繁るような山道に差し掛かってきた。


道の途中、蛇や兎とかの脅威にならなさそうな生き物が時々見つけられた。ただ日も落ちかけているせいか、目だけがやたらと光って見えて不気味な感じがする。


大きな蛾やコウモリまで飛び回り始めるものだから、それらが視界に映り込むといちいち小さな身の危険を感じてしまって鬱陶しい。


どこへ行くんだろうかと、このまま着いて行くことが安全なのかどうかとか考え出して心配になってきた頃、焚き火を囲う集団が見えた。煙たさと薪の焼ける臭い、そして火の揺らめくような明かりが危険地帯の中にあるセーフゾーンみたいに安心感を抱かせてくれる。



「到着だ。

指示するから奴隷は馬車から荷を下ろせ」



良かった、まだ到着じゃなかったらどうしようかと思ってたんだ。


俺はウキウキで荷台へ一番に入り込む。喜んでたのもあったけど、ランドルが大分きつそうに見えたからだ。ダミカもそこそこ疲れてるみたいだったし、他の二人も元気一杯には見えない。


指示通りに下ろしていくと、前の世界で友達とよく行ったキャンプを思い出す。毛布や天幕とロープの束、鍋にランタン。それに野菜と飲み物。これらは拠点を作るために持って来た物なんだろうなと想像できた。


他の皆も頑張って荷下ろしを手伝ってくれて、何とか設営が終わる。


あとは…何するんだろと思ってボーッとしてると御者さんが声をかけてきてくれた。



「お前、新入りって聞いてたが元気だな。ほら、少ないけど干し肉だ、食え。明日からが本番だぞ」



大きな馬車馬の面倒を見てたから気になってたが、近くで見るとこの人もやたらでかい。俺の身長が170センチだけど、大人と子供みたいな差がある。190センチ以上、2メートル近くあるんじゃないかな?


それに渡された干し肉も全然少なくない。200グラムステーキサイズのでかい干し肉だ。ただ何の肉かはわからないけど。



「ありがとうございます、明日もしっかり働きますね。

でも、せっかくだからこの肉は奴隷の皆と分けて食べても良いですか?」



彼女はガハハと豪快に笑った。



「良い奴だなお前!

それはもうお前のだ、好きにして良いんだぞ。

わっははは!」



名前を聞こうとも思ったけど、これだけ特徴的な人なら本人から聞かなくても知ることは出来そうだ。それに馬のお世話が忙しそうでこれ以上話しかけるのも気が引ける。


分けた干し肉を渡す時ランドルは「あっあっ、ああありっあり」ってアンネさんみたいになってたけど受け取ってくれた。他のみんなは普通に喜んでた。元々用意されてた夕食は、ガッチガチで歯が負けそうになるくらいのパンと(ぬる)いミルクだけだったから、塩味の効いた旨味たっぷりの肉は有り難みが尚更強く感じた。


先に到着してた集団は依頼で集まった冒険者の人達みたいで、焚き火を囲みながら護衛のリーダーと話をしている。


今の季節は初夏みたいな気温で、日中は汗ばむこともあるが夜は少し肌寒い。ラグマットを敷いてくれているが地面から伝わるひんやりとした温度で少しずつ熱を奪われるようだ。


薄い毛布にくるまると奴隷の皆で寄り添って眠る。自前の毛皮が有る分ダミカが一番暖かい。夜の見張りには期待されてないみたいで、奴隷は朝まで眠らせてもらえるのだけは有り難いな。


朝は毛布に集る虫の多さにびっくりした。でも夏場に森の近くで寝てたら当たり前か。


奴隷以外は焚き火の近くで寝ており、きっと虫除けの薬草みたいなのを火にくべているんだろう。焚き火の臭いに混ざって独特なミントだかハーブだかの臭いがするからね。奴隷は焚き火の近くまで行かせてもらえなかったから格差を如実に感じるところでもある。


集まった虫を払っていると、少し離れたところで木の枝から吊り下げられた物が目に入った。


どうやらそれは首と皮が失くなった鹿みたいで、部位毎に切り落とし火で炙って食用にされているみたいだ。なぜだか街を出たときに見た鹿の獣人さんが思い出される。



「ワイルドだよぉー」



俺の小さな呟きは誰にも聞こえていないみたいに朝の森の静けさへ吸い込まれていった。


朝食は昨日の夜より豪華だった。根菜や鹿の肉が入ったシチューだ。臭み消しもされているから肉と根菜の旨味が引き立っていて塩味も程よく美味しいし、何より温かな食事が有り難い。この世界に来て一番美味く感じたかもしれない。


感謝しながら食べてると、どうやら作ってたのは昨日干し肉をくれた女の人だった。お代わりいるかと聞かれたけど奴隷があんまり食べるのも図々しいと思って丁重に断らせてもらった。


そして食べたら直ぐに仕事みたいで今度は冒険者さんに呼ばれた。


奴隷全員が背負子や荷物の入ったバックパックを身に付ける。ダミカは枝払い用の長い鉈を持たされていた。あれは武器にもなりそう。ダミカ以外の奴隷は例の木の棒だ。


冒険者さん達は皆が軽装の防具を装備してる。武器は弓持ちが3人と投げ槍が1人、金属のメイスが1人と短槍が1人。皆長さは違えど剣も腰に下げているみたい。


なんかどきどきしてきた。いや、わくわくしてるのかな?



「行くぞ。奴隷は勝手に離れたら探さんからな。逃げたら死んだと思えよ」



冒険者さんから宣告される。まあ俺もここまで来ればそういうことだろうなと思うけど。奴隷の皆はランドルも含めて誰もびびっていなかった。商会の護衛さんは一旦ここでお別れになる決まりみたいだ。


森の中へ進む。木ばかりの視界になって見通しが悪くなる。地面は根っこや苔や落ち葉で埋め尽くされていた。


奴隷は固まって進んでいるが、冒険者さんは見える範囲にいるけど個別に少し離れてる。槍を持ってる人が俺達の少し後ろから見ててくれていた。


空気が新鮮に感じる。こんな状況だから気分が高揚しているけれど森林浴をしているみたいで気持ちが良い。変なテンションになりそうだ。


意味無いかもしれないけど何となく俺も回りを索敵する。鳥の鳴き声だけが聞こえてきてた。


深く考えず能天気になれば長閑な雰囲気にも思える。そんな事を考えていたとき、急にシュポンって音が森の中に響き渡って驚く。



「奴隷、1人来い」



気になった俺は、行こうとしてた奴隷仲間に断って声の元に向かう。


緑色の羽をした大きな鳥が矢で射たれて死んでた。



「持ってけ」



弓を持った冒険者さんがその鳥の首を持って突き出してくる。視線は他に向けられてて注意は怠っていないみたいだ。



「あ、はい。これ血抜きはしないんですか?」



色々と気になることが多くて、俺は思った事をそのまま聞いてしまった。



「あ?うるせえよ、黙ってろ」



普通に怒られてしまう。確かに集中してるときに奴隷からどうでもいいような質問されたらイラッと来るかもしれない。



「すみませぇん…」



俺はなるべく情けない声で謝った。


鳥を受け取ると、首が折れてる事に気付く。死因はそっちの方かもしれない。矢も刺さったままにしてあるのは、もしかしたら流血を抑えようとしてるのかな。


ここは魔物のテリトリーだ。血の臭いが災いを呼び寄せることになるかもしれないね。


なるほど勉強になったぞ。感謝しないと。



「へへ、一発で仕留めやしたね旦那。おみそれしやした」



「うるせえっつってんだろ」



今度は膝を蹴られた。いてて、マジですみません。

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