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2-10

「ダミカちゃんとはそういう話をしていなかったのですね?」



「え?ああ、はい。というかまだそんなに日も経ってないですし」



「あら、そうでしたね。忘れっぽくていけない。

ああそうそう、お酒どうかしら?」



俺が結構歳いってる事を知ったからか、対応が変わって来たか?まぁお酒は気になるけど。



「あんまり飲めませんが、頂きたいです」



木のジョッキを用意してくれて、ビールが注がれるが、気が抜けてるのか泡立たない。きっと冷めてもいないだろう。でも匂いは良い。


日本酒を飲むとき、よくフルーティーって表現する友人がいたけど、俺としてはこっちの方がフルーツっぽさがあるような気がした。やっぱりビールだからか香ばしい良いにおいだ。遠慮せずにぐいっと飲みたい気持ちになるね。


でも一旦思い止まって、奥様に向かって一度掲げる。



「奥様の厚意に感謝します」



「あら、コロウさんったら…」



ちょっとキザだったかもしれない…。でも奥様は気に入ってくれたみたいだ。


そして俺はその香りに誘われるように一口飲む。すると思ったよりも飲みやすく、しかしアルコール度数は低いのがわかる。でも水で薄めてはいないみたいで、宿舎で飲んだお酒よりかは風味が大分濃い。それにゴミも浮いてなくて、のど越しもよろしい。



「コロウさんの得意な事はどんなものかしら?」



ダミカへも話が移りながら、ご飯とお酒も進んで来た頃に奥様から質問された。


得意な事…何だろうな。子守りとかかな?


いや、違うな。ここは自分の評価を高める為にアピールするところだよな。でもあんまり適当なことも言いたくないし…。



「集中力と、根性ですかね?」



「集中力…」



「こん、じょう…」



二人ともそれ以上言葉が出ないみたいだった。何でそんな反応なんだ?



「変ですかね?結構重要な要素だと思うんですけど…」



「私、お父さんくらいの人ならスキルの事とか言うと思ってた」



あ、そうか。ここはそういう世界だったな。



「えーっと…そうそう、最近言語スキル覚えたんだよ」



「あら、うふふ。そうでしたね、まだ覚えたてでしたものね」



「何か酔っ払ったコロウってカッコ悪い」



「失礼なやつだな、まだ酔ってないよ。カッコ悪いのはまあそうかもしれないけど」



「ふふふっ、否定するところが逆じゃありません?」



「いえいえ、カッコ良いか悪いかは他人が決めることですが、酔ってるかどうかは自分が決めることです。そして俺はまだ酔ってません。お代わりください」



「屁理屈はうまいけどカッコ悪い」



「俺は楽しくお酒のめれば良いのだ」



「そうですね、今日はとっても楽しいわ」



そこからの会話もよく回る歯車のように皆が噛み合って、ゆったりとしたペースでも空気が悪くなることはなかった。そしてお開きになるまで奥様の笑顔も絶えなかった。


俺は……ちゃんとしたお酒を飲むことで、召喚されてからずーっとついて回っていた苦痛から少しの間解放されたような気がしていた。


酔いが覚めたら、子供と妻をほったらかしにして酒飲んでいたことを後悔するんだろうか。


まだこの世界に来て一ヶ月。妻はきっと、居なくなった俺を探そうとしているはずだ。親の助けが必要な、小さなあの子を育てながら。もしかしたら、万が一の事を考えて仕事も探しているだろうか?


そんな大変な時の妻は、どんな気持ちでいるんだろう?そんな苦労をしているときに、もし俺が妻以外の女性と楽しく酒飲んでるなんて知ったらどれだけ軽蔑されるかな。


想像をすると、俺という存在があやふやになって、足元から崩れ落ちそうになる気がした。


あの子にはきっと、今の俺の状況を説明したって理解できないだろうな。この様子を見たところで、父親が楽しそうにしてるならそれは良いことだと思うんだろうか…。


馬鹿だな俺は。考えたところで仕方の無い事ばかりなのに。どうせならいっそのこと、二人から嫌われてしまえば簡単だ。俺を探すこともしないだろうし、俺は自身の存在価値を失ってしまえば死ぬだけで良い。それで良い。


奥様とダミカは楽しそうだ。俺も表面上は楽しくしていられている。


…まだ、酔いよ覚めるな。できれば眠りに就くまでは。


その願いがどこかの神様に届いたのか、俺は寮で眠るまで気持ち良くいられた。




そしてそれから四日後。体を動かせて鍛えれば鍛えるほど体が軽くなり、どんどんと若返っているような感覚がしていた。


全力で走り出し、ジャンプしたらどれだけ跳べるようになったか知りたいような気持ち。心まで若返った訳では無いので行動には移らないが、体を動かす事をしてなかったらソワソワしてたかもしれない。


そんな今の俺は、きっとどの奴隷よりも働いていると思う。力はドワーフの奴隷には負けるだろうけど、ダミカよりは力強くなったと思う。


そんな実感が出始めていた時の事だった。



「あ、ああっ!」



「おいお前…あ、この馬鹿野郎!」



「触るな!この、離れろ!」



俺とダミカが作業してる隣の倉庫から騒がしい声が聞こえてきた。気にはなったけど、俺が見に行った所でなぁと思ってたら、ダミカが見に行くと言い出したので俺もついていくことに。気のせいか、前に稽古し合ったランドルの声がしたような…。


現場に着いたら、ダミカは急に走り出すといきなり誰かを押さえ付けた。慣れてるのか手際が良い…。と、感心していたら押さえ付けられてるのはランドルだった。何か嫌な予感がする。



「離せっ俺じゃない!壊してないっ!」



ランドルは暴れていたけど、ダミカは怒りもせず、慌てもせず。暴れるランドルの動きに合わせて重心のバランスを取りながら押さえ付けていた。



「なんて事だ、幾つ壊れているのかわかるか?」



「いえ、わかりません…。箱は4つ持っていたみたいですが」



ランドルの大声を他所に、倉庫監督の旦那と警備の人が話し合っている。倉庫の床に散らばってしまった木工細工がどれだけの損失だったのか、決めかねているようだ。


ランドルが壊したなら、その損失がきっとそのまま彼の借金が増える形になるか…。


また、何か嫌な感じがした。


俺はダミカに押さえつけられてるランドルに歩み寄った。



「なあ、お前が壊したんじゃ無いってのは本当なの?」



話しかけたのが俺と知って、彼はまた無視しようかとでも思ったのか。でも回りを見回すと、誰も自分の味方が居ないことを感じ取ってしまったのだろう。仕方なく話し出した様子は、何かを耐えているように見えた。



「運んでたのは…俺だ。

でも!隙間から見えたときにもう壊れてたんだ!

だから確認しようとして…」



「ちょいちょいちょい、勝手に商品を確認すんなよ。その時点でまず報告が先だろがい」



「だ、だって本当に壊れてるのか信じられなかったんだ!

高価で壊れやすいって聞いてたから、そんなに揺らしても無かったし…」



「だったら尚更その事をちゃんと言わなきゃ。

それを誰かに知って貰えなかったら、最初から壊れてたとしても犯人にされちゃうよ」



「えっ……あ、だって…。

俺、びっくりして、そこで持ってた他の箱も落としちゃったから…」



「いや結局箱落としてんのかい!」



だからあんなに地面に散らばってたのか。



「でも、これ一個一個が凄く高いんだ……。

もし一個でも壊したら…俺、一生働いても返せないかもしれない…。

だから、だから俺、気が動転して、わけわかんなくなって」



ランドルは泣き出しそうになっている。流石に一生働いても返せない金額では無いだろうけど、まだ若い彼にはそう考えるだけの落ち着きや判断力が無かったんだろうな。



「ダミカ、こういう事って前にもあった?」



「ここまで酷いやらかしは知らない。

時々替えの利く物を部分的に壊した人はいたけど」



酷いやらかし……。まあ、そう言われても仕方ないのかな。段々とランドルの非が大きくなってきたように思えて、首突っ込むのもやめようかなって気になってきた。


でも、今のランドルは本当の事を言っていると思った。なら、さっき言った最初から壊れていた、という話が気になる。


確認してみてから、諦めるかを決めようかな。



「監督、ちょっと良いでしょうか」



「なんだ?」



倉庫監督は俺達倉庫番の奴隷にとっては部長さんみたいな感じの上司になる。奥様の夫、つまり俺のご主人様から直接指示を受けているから、この商会の中でもかなり偉い立場の人ということだ。故に、俺のような奴隷が無駄な手間をとらせるような事をしてはならない。むしろ話しかけるだけでも失礼だとも言える。ここからは簡潔に、有用な話をしなければ。



「壊した奴隷が、初めから壊れていたと言ってました。

商品の方に問題があったかもしれません。確認させてください」



「…その必要はない。私は箱が落とされた場面を見ている。

それで十分だ。そのような失敗をする奴隷など…。

こいつはもういらん。今までこの程度の奴隷を使っていたなどということを考えるとぞっとする」



監督の態度は冷たかった。もうランドルへの関心なんてまるで持ち得ていないんだろう。


……これは、俺の想像していたよりも重大な事態になっているみたいだ。


決めた。ランドルを救ってあげられるよう、出来るだけ頑張ろう。

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