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仕事再開したら、ダミカはいつも通りになってた。さっきの何だったの?って聞いたら、何でもないって言われる。嘘つけ。
あと、ランドル達が仲良くしてくれるかなって思ってたけど、逆に警戒心が強まってしまってて、近付いたり声かけると離れられる。なんでやねん。
いかんな…このままじゃ俺、奴隷仲間から孤立してしまう。
悩みつつも時間は過ぎて、仕事も終わり宿舎へ帰る。ダミカは隣を歩いてるけど、今はあんまり話しかけないでモードだった。そっとしておく。もしかしたら、ダミカの方でも色々と気持ちの整理をしきれてないのかもしれないし。
ところが宿舎へ入る前、止められた。
「貴方、それと…貴女もよ。ついて来てちょうだい」
女の人だった。用があるのは俺とダミカの事らしい。知らない人についていくのはどうなんだろうかと心配だったけど、一緒にいたのは倉庫の警備の人だった。なら良いのかな?
「こういうことってよくあるの?」
連れてかれてる間にこっそりダミカに聞いてみる。ちゃんと頭の熊耳に向かってこそこそ話す。顔の横には何も付いてないからね。
「あの人は知ってる。
多分これから体を洗われる。でもいつもは他の人がやってた」
ふーん、奴隷なのにお風呂に入れてくれるのか。なんかつくづく奴隷に優しい世界だな。
たどり着いた場所は、洗濯したり野菜とかを洗うような洗い場だった。そこへ大きなタライと小さな椅子が用意してある。どうもお風呂では無いらしい。
「そこに座るんですか?」
「わかってるならさっさとお座り。
アンネ!シアー!用意はどうしたのー!
ああ、貴方はもういいわ」
「承知しました」
てきぱきと指示を出す辺り、そこそこお偉いさんみたいな感じがする。呼ばれた二人の女の人以外にももう二人くらい女の人というか、女の子が出てきた。警備の人は出ていくみたいだ。
俺は座れば良いらしいので椅子に座る。ローチェアみたいな座り心地だ。
「全く、貴方何も分かってないわね。
服を脱ぐのよ、ほら早くなさい。
アンネはそっち、シアは手早くよ。乾かさなきゃいけないんだから」
服、脱ぐの?俺以外みんな女の人なんだけど。
でも戸惑う俺を他所にダミカは迷わなかった。前掛けみたいなのを取ってすっぽんぽんになるまで5秒かからない。下着つけてないのか。まぁ、そういう世界か。
諦めて俺も脱ぐ。奴隷になったんだ、郷に入れば郷に従え、だ。
「まあ、貴方本当に変な格好してたのね。偉そうに下着まで着けて…。
もう必要無いでしょ、服はこっちで用意するわ」
はいはい、もう勝手にしてくださいよ。俺も皆と同じ服の方が良いし、その服そんなに思い入れ無いから。
服を全部脱いだら、冷たい水をばしゃんとかけられる。つめてぇ!
夏の始まりくらいの気温だから濡れても寒くないけど、この水温は冷たいぞ。井戸水か?
文句言ってやりたいけど、ダミカも同じことされても文句も言わず黙ってる。なら俺もまだ我慢しとくか…。
そこから藁を編んで作ったタワシで体をごしごしされる。ボディソープ無しの水洗いです。野菜になった気分だ。
痛いんじゃないかと心配だったけど、女の人たちも慣れてるのか丁寧で痛くなかった。こういうのって自分でやらせてくれないんだね。
ダミカの方は水に何か白いものを混ぜて、それを毛に撫で付けられている。洗剤じゃ無さそうだな…。毛並みを良くする…リンスとかか?
「洗ってくれるのはありがたいですけど、これ何なんです?」
「聞いてた通り何言ってるのか分かりにくいわね…。
知らないなら余計な事は喋らないで良いのよ。
それとも貴方、自分が汚れたままでいいとでも思ってるのかしら?」
「いえ、いつかは洗いたいと思ってましたけど…。
何で自分で洗わせてくれないのかなって」
「ただ洗うだけじゃダメって事よ。綺麗に洗って整えるの。
それとも貴方、自分で完璧にできるのかしら?」
…プロの仕事に口を挟むべきでは無いということかな。それでなくても…まぁ、なんだ。この人にはあんまり話しかけない方がいいかも。
黙って洗われてると、洗ってくれてる人が気になってきた。かなり薄い生地の服を着てて、それが濡れるから体にぴったりくっつく。しかも洗われてもいるから、それなりに体を触られてしまう。女の子とも言える若い子も居るし、ダミカも横にいるというのに興奮してきてしまう。
惨めだ、これが奴隷になるということなんだなぁ…。
髪と局部は石鹸を使って洗ってもらい、最後は剃刀で顔を剃ってもらう。
せめて、他に男の人がいれば良かったんだけどな。恥ずかしいな、居心地悪いな。
「ふん……そうね。まあ見えるようになったじゃない。
もういいわ、アンネはシアを手伝って。
髪を整えるわ、貴女はこっちよ」
ふむ、俺の体を洗っててくれたのはアンネさんらしい。覚えておくからな。
そして今度は指示出ししてた女の人自ら俺の髪を切ってくれる事に。アンネさんを手伝ってた女の子は汚れた水の入ったタライをひっくり返して片付けを始めた。
座ってるだけの俺は、普段より伸びてた髪を濡れたままチョキチョキ切られ、何だか美味しそうな臭いのする髪油で整えられる。手際良いな。
おでこを見せて、耳に髪がかからない感じ。洗われたのもあって、さっぱりした気分だ。
「コロウ、けっこうカッコ良かったんだ」
ひたすら布でごしごし拭かれてるダミカに褒められる。あなたはあんまり変化見られないですね。抜けた毛の量は半端無いですけど。
「ありがと。昔いた所ではそう言ってくれる人居なかったけどね」
自分でも顔面は悪くない部類だとは思ってた。ただ面と向かって褒める程のイケメンでも無いということだろう。俺も普段そんなに見た目を気にしてなかったし、最近は白髪も増えてきてた。もう認めなきゃいけないくらいおっさんだ。おっさんなんか褒めたところで何にもならない。
「無駄口はお止し。貴方達の話を聞きたいわけじゃ無いのよ。
全部終わるまで大人しくよ、いいわね」
はいはい、静かにしてますよ。
しかし獣人族の美的感覚は人間族にも適用されるんだろうか…?逆に俺からするとダミカの事はかわいいと思う。でもその見た目が、という意味ではまた違ってくるんだけど。
なすがままになってると、他の奴隷仲間がご飯を食べ始めてるだろう時間になった。お腹すいたな。
「ふん、こんな所かしらね。
シアは衣装を持ってきてちょうだい」
衣装?洗ってもらうだけじゃなくて他にも何かするってこと?
「あの、お腹すいてきたんですけど、いつ解放されるんですかね?」
奴隷にはちゃんと食べさせてあげないとダメなんだぞ!
虎の威を借る訳じゃないけど、ネビス様の怒りの雷が落っこちる前に言っといてあげなきゃね。
解放はしてもらえなくても、ご飯くらいは食べさせてくれると思ってた。でも女の人はキョトンとした後、思い出したように喋り始めた。
「…あらやだ。アンネ、貴女例の確認したかしら?」
アンネは首を横に振った。
「アラアラ…アラアラアラ…。こんなに手間かけたっていうのに…」
なになに?何なんだ?
何か知ってるかとダミカの方を見ても、彼女もわからないみたいだった。
「しょうがないわね…。貴方、まさか童貞じゃないでしょう?」
どうてい…?
「違います。
それと小さい子も居るのでそういうこと言わないで下さい」
いけね、反射的に怒ってしまった。やっちゃったと思いつつも止まれなかった。
「ふーん?それで紳士にでもなったつもりかしら?奴隷の貴方が言うことじゃ無いのよ」
全く心に響いてない感じだ。今の俺が何言っても無駄かもしれないね。
「一般論を言ったまでですが。
そのことに身分は関係ないと思いますけど、理解が得られないなら残念です」
「ふうん、奴隷の言うことなんてどうでも良いわ。
そ・も・そ・も!貴方に興味があるのは奥様よ。
そんなに癪なら直に聞き入れてもらいなさい」
奥さま?
「奥さまって誰の事です?」
「貴方の持ち主である旦那様の奥様よ。これでわかる?
奥様にお会いして、せいぜい気に入ってもらうことね」
「あんまり喋るの得意じゃないんですけど…」
スキル的な意味で。
「話を聞いててピンと来ないかしら?
言葉じゃなくて身体で、という意味だけど?」
……なんだと?




