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2-5

「誰が並ぶかバァーカ!」



「剣術使わない奴の言うこととかさぁ…」



…一旦落ち着こう。こいつらにも家族が居るはずだ。殺したらいかん。



「あのさ、俺剣術知らないって言っただろうが?

それに、始める前に約束事についても聞いただろ。蹴ったらダメなんて一切言われてないぞ」



「え?何て?聞き取りにくいよ」



「またか。もう、だーから、俺剣術知らないって」



皆顔を見合わせてる。誰が反論するか探りあってるみたいだった。



「んなこと言ったって…俺たちだってしっかりした剣術なんて知らないよ」



「そうだよ。

剣術って剣を使うものだろ。足なんか使うなよ卑怯者」



…………だめだ、話し合いになってない気がする。俺が悪者なのが前提で、問題を相手との会話で解決しようとしてない。考えることを放棄してるように思える…。


てか、散々剣術剣術言ってたくせにこいつらもちゃんとは知らないのかよ。全員俺よりも頭悪そう。


仕方ない。ここは俺が譲歩して、相手側に足並み揃えてあげよう。



「なるほど、わかった。

じゃあ、足を使わず棒だけ使えば良いんだね?」



「棒じゃなくて剣だっ!」



んもう、何なんこいつら。一週回ってちょっと可愛く思えてきたぞ。



「はいはい、じゃあそれでもまだ俺と剣で試合してくれる人居る?」



「くっそ!今度は負けねぇからな!」



さっき蹴った子が元気よく立ち上がった。てか負けねぇってゆうてるやん。てことは負けを認めてるやん。ばかだなぁ(笑)



「よし。言っとくよ、俺は神に誓って蹴りを使って彼と戦うことはしません。何なら素手で殴ることもしません」



「お前っ!殴ろうともしてたのか!このくず野郎!」



なんだこいつ、なんか笑えてきた。ふふふっ。



「あ!くっそお!こんな奴に鼻で笑われたっ…もう、腹立つ!」



あ、ごめん顔に出ちゃってたか。本当にごめん。


謝った方がいいかなと思ってたら、俺がまだ構えてもないのに彼は距離を詰めてきて、間合いの中で上段に構えようとした。


お、やる気だな。


俺は彼が構えきる前に、すっとすり寄って棒の先でその顎をゴンと突く。間合いをちゃんと見てなかったのか、俺がすり寄った事に反応も出来てなかったみたいだった。



「ぎゅん!」



頭を仰け反らせたまま後ろへたたらを踏む。鳴き声がぎゅんとは、いやはや芸術点が高い。



「あ、また卑怯!」



「ズル!ズルだぞ!ちゃんと構えろ!」



えー?またー?



「ダメ!お前もうダメ!剣士の風上にも置けない!」



「いや剣士とか、俺もお前らも全員奴隷じゃん」



それに今度は足使わなかった。えらいだろ。



「何なんだよぉ!ちゃんと、ちゃんと戦えよぉ!」



「んー、わかったから。ほら、ちゃんと構えるからもう一回」



「くそっ!くそっ!」



段々面白さに拍車がかかってきて凄く楽しい気持ちになってたんだけど、それも今だけだった。相対する彼の顔に浮かんでいたのは怒りとかよりも、強い悔しさと言い知れぬ焦りの感情だったからだ。


きっと彼は、誰かにこんな風にあしらわれた事がなかったんだろう。それか、この集団では負け無しだったとか。


彼も俺も奴隷だけど、彼にとってはこの剣術とやらが大きな存在だったのかも。奴隷としての人生を支える上で、剣術の腕が良くて、誰にも負けた事がないという、プライドを大切にしていたのかもしれない。


俺は知らぬ内に、そのプライドをバキバキに折っている最中だとしたら………だとしたら、そりゃあ焦りもあるよな。訳のわからん俺みたいな奴に何度も負けてしまえば、不安にもなるよな。


俺はどうすれば良いだろう?彼のことを想うなら、このままプライドを傷付けることで、それがかえって彼を成長させることになるだろうか。むしろ、負けてあげることが彼にとっては安らぎになるんだろうか。


このまま正々堂々と戦って、もし俺が何のケチも付けられない勝ち方をしてしまったら、彼はどう思うのだろうか…。


……いや、何でこんなことを俺が勝手に悩むんだ。彼じゃない俺が、一人で考えてた所で解決できることでもないだろ。


うだうだ考えんな、行動しろ!



「本気で来い!」



勝負の勝ち負けとか、そういう次元の話じゃない。ちゃんと彼の感情と向き合う気概が俺にあるかどうかだ。


握る手に力が入ってしまう。彼の目を、表情を睨み付けてしまう。だが構うものか、俺は真剣だ。



「う、う、うりゃあ!」



目の動き、体の向きから、どこへ打ち込んでいきたいか、手に取るように判る。きっと彼は素直な性格なんだろう。


今はもう駆け引きなんて無く、フェイントをかける様子も感じられない。


上段から打ち下ろしてきた攻撃を、棒で受けてから横へ払う。思ったよりも簡単に出来た。


そこからさらに攻撃に転じることを考える余裕もあった。だけど、待つ。彼が負けじと再び打ち込んで来るのを俺は待ちたいからだ。


そうしたら、再び上段からの振り下ろしを繰り出してきた。


予備動作が雑だ、さっきよりも振り下ろしが遅く見える。腕の力だけで扱ってるからなのかもしれない。ということは、体重を乗せてない軽い攻撃になってしまってるということかな。なら今度は受けもしなくていいかもしれない。そのまま打ち払うと、彼は驚いた表情で数秒固まってしまった。



「もう終りか!」



発破をかけてやると、歯を食い縛りながらもまた打ち込んできた。相変わらず上段からの振り下ろしで、軌道も力もさっきとさほど変わらない。


そこから10以上打ち合った。彼はずっと素直に、力任せに全力で振り下ろしてきた。単調ではあったかもしれないけど、自分から諦めたりはしなかった。偉いな、誉めてあげたい。


もっと続けたいと思っていた試合だったけど、急に終わりが来たのは止められたからだ。



「もう、そこまでにしろ」



倉庫を警備する担当の人が、割って入ってきた。どこか彼を非難するような声で、俺は気に入らなかったけれど。



「誰が見ても技量の差はわかるだろ?いい加減、敗けを認めろ」



しんと、静まってしまう。全員に向かって冷や水をぶっかけられたような感じだった。彼は悔しさで顔を上げられなくなってしまう。


警備の人に言いたい。そういうことじゃねぇんだよって。でもそれを言ってしまえば、この人にとっては奴隷ごときが言うことじゃねぇだろとしか思われないだろう。


彼は彼で頑張っていたのに…。今も肩で息をして、何とかしようと不器用でも手を尽くしていたのに。


彼の背丈は高いのに、やるせなさや恥じらいからか、小さくなってしまって…。


このままじゃいけない。



「すみません、彼にちょっと話をいいですか?」



警備の人は奴隷じゃない。雇われの兵士さんだ。同僚でもないので、相応の敬意を払う必要がある。



「……仕事に支障を出すなよ」



「はい。

君、名前聞いても良いかな?」



話をしたかったんだけど、まだ名前を聞いてなかったんだった。



「…俺、ランドルって名前…」



「ランドルね。

最初の小手、あれは普通に俺の負けだったよ。

でも、痛くないようにしてくれたでしょ?

…楽しかった、またやろうよ。今度は俺が棒の振り方、色々教えてやるからさ」



肩をパンパン叩いてやる。情けをかけられることは嫌いだろうか?なら嫌えばいいと思う。俺は受け入れるだけだし。


でも、これが俺の歩み寄りだと気付けない訳じゃないと思う。彼が、ランドルがそこから俺の方へ歩み寄ってくれるかどうかは俺の考えることじゃないもんね。


ちょっとだけ良いことしたような気になってると、胸の辺りに向かってダミカに頭突きされた。



「ぐほっ、うぅ…?」



あれ?俺何か悪いことしたのかな?


何でだろって思ったけど、そういやダミカには試合で怪我しないか、心配かけてたんだった。ダミカ、どうやって怒るのかな。


でも待っててもなにも言われなかった。どうした?って疑問を声に出す直前に、何も言わずに顔を上げないまま早足で熊に逃げられた。ポカンとしてしまう。



「…まさか、俺に惚れたのかな?」



違うとは思うけど…。異世界だしなぁ。

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