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2-4

翌朝、他の奴隷がごそごそする音で目が覚める。そのまま何人かは食堂へ向かって食事を作るみたいだった。


ダミカは俺の隣で寝てた。体がかなり柔らかいみたいで、猫みたいに丸くなったまま、すやすや眠っている。


キースも他の何人かの奴隷と一緒に壁際で寝ていた。


…今誰も起きてないし、ちょっとだけダミカの頭を撫でさせてもらおう。


毛並みに沿って、なでなでする。剛毛具合がハンパ無い。熊の獣人だからなのか?女の子でも男の子でも変わらないのかな。


寝てる我が子を撫でる時は、高確率で起こしてしまう。だからハラハラしながら撫でていた。こんな風に落ち着いていられるまま寝ている誰かを撫でたことは無かった。妻は白目になって寝てることがあって怖くて撫でられなかった。白目のまま起こしてしまったら、そのまま元に戻らなくなるかもしれないという妄想だったんだけど。


そしたら意識に割り込んでくる何かを感じた。これは…。



(竜神さま?竜神さまですか?)



(おお、うむ。通じたようだな。

ふむ、さほど離れておらぬか)



竜神さまが言ってた、定期的に連絡してくるやつだったか。


でも早すぎないか?


ダミカから離れて、自分が元々寝てた所で再び横になる。なでなで終了だ。



(あの、もう4日経ちましたっけ?まだ3日目ですよね)



(…すまぬ、そなたが無事な日々を過ごしているかが気になったのだ)



お前は俺のおかんか。


まあでも気持ちはわかるんだけど。こっちは一方的に心配かけてるだけだから楽なもんだしなぁ。竜神さまのことを安心させてあげよう。



(大丈夫です。今は屋根の下で同僚と集団生活してますから、危険もほとんど無いです。)



(む?同僚?

昨日の今日で仕事にありついたということかの?)



(ええ。仕事というか、俺が奴隷になったんですけど)



(な…に……?)



(途中で色々あって、行き逢った人にめちゃくちゃ怪しまれまして。

常識が無さすぎたので社会勉強のために奴隷にでもなっとけって言われました。俺、金貨三枚くらいの値段が付いたんですよ。

奴隷としてはまだ1日しか働いてないですけど、まあまあ充実してます。奴隷の友達もできましたし)



生活は困ってないよ感を出していこうとしたつもりだったんだけど、竜神さまには上手く理解してもらえなかったのか、荒立った感情が伝わってくる。



(我の…我から別った、最早半身とも呼べるそなたを奴隷に堕としただとっ………お、おのれェッ!

人間風情がァ!!)



あ、これあかんやつや。怒りが強すぎて抑えようとしても抑えられない昂り状態だ。


しかし、ナチュラルに人間風情とか言っちゃうなんて、こいつ世界を滅ぼす魔王とかなんじゃなかろうか。


実際、このままだと俺の居るここの町を標的にされてしまうかも。選択を間違えたらダメだな、竜神さまの怒りを納められるのは俺だけだろうし。


もし最悪な状態のまま竜神さまを野に放ってしまえば、後はこの町を破壊し尽くすだけだぁ。



(竜神さま、一先ず落ち着いてください。

ちゃんと例の精神安定剤スキル使ってますか?こんなに興奮している竜神さまは初めて見ますよ)



(ぐぅっ!ふうっ!ふーっ!ふーっ!ふーぅ、ふううぅー……。

……すまぬコロウ。見苦しい所を見せたな。

怒りでこの我の正気を奪えるのも、世界広しと言えどそなただけであろう。

スキルは常に発動しておる。安心するが良い)



いやいやいや、発動しててそれかよ。あと怒らせたのって俺のせい?竜神さまが勝手に連絡してきて勝手に怒ってただけでしょう。


…まぁでも、仮に俺の子が望んだんだとしても、俺の知らないところで奴隷になったなんて知ったら、とても正気ではいられないだろうな。


竜神さまも俺と同じ気持ちかはわからないけど、怒り狂ってしまうのもわかるね。


と、そこでダミカが身動きしているのに気付いた。起きるかもしれない。



(竜神さま、もう仕事が始まるかもしれないのでこれで終わりにしますね。

もしまだ話したかったら夕方か、明日のこの時間でお願いします)



(……あいわかった。そなたの意思を尊重するとしよう。

だが努々(ゆめゆめ)忘れるでない。我が救えるのも、そなたが無事にいられる時まで。

我の呼び掛けに答えられぬ程のそなたを、我は見たくないからの…)



それで繋がりが切れた感じがした。スキルの使用を止めたんだろう。最後に心配させないよう、何か伝えたかったんだけどな。



「コロウ?起きてるの?」



ダミカにゆさゆさ揺らされる。


手の平の皮がしっとりしてる。肉球なんだろうか?


いやいや、今はそんな疑問とかどうでも良いや。



「うん、起きてるよ」



「ご飯行こう」



「あいよボス」



「ぼす?」



朝はカチカチのパンと具の少ないシチューだった。


仕事前に搬入予定の馬車が何台とかいつ頃来るかとか、倉庫番に何人を割り当てるとか帳簿だとか、どうのこうの話してたらしいけど俺はあんまり聞いてなかった。


どうせダミカにくっついて働くからだと思ってたし。実際そうなったし。昨日と同じ倉庫番だ。


だけど俺に関しては昨日とちょっと違った。



「あれ?なんか昨日より調子良いかも」



重い物も昨日より持ち上げやすい。慣れたのかな?すいすい仕事が進んでいく。



「今日のお昼は沢山休めるよ。ゆっくり食べて大丈夫」



もうお昼休みなのか。昨日と比べて疲労も少ないや。昨日より早くから働き始めてたのに。


しっかり寝たから良かったのかな?


朝よりは柔らかいパンを食べてると、元気な声が聞こえてきた。気になって見に行くと、奴隷の男の子同士が防具も付けずに棒で打ち合いしてた。


危なくないのか?



「皆、暇になるとよくやってる。怪我したら怒られるけど」



ダミカに聞いたらそういうことらしかった。会社の昼休憩でやるキャッチボールとかバレーみたいなものかな?この世界には球技とか無いみたいだし、こういうのもスポーツの分類なんだろうな。



「…うん、俺もやりたい」



素振りは竜神さまのとこでしてたけど、前の世界でも誰かと試合したことは無かった。危ないけどワクワクするんだ。


ただ、相手の子を怪我させないようにしよう。その事だけには気を付けないと。



「俺も混ぜて!」



おっさんにもやらせろ!



「えっ?お前……できるのか?怪我するぞ」



「軽くやるだけだから安心してくれ。

あ、何か約束事とかある?やっちゃいけないこととか」



そんな事を聞いてると、奥からニヤニヤしながら一人出てきた。見たところこの中では一番背が高い子だった。



「そんなのねぇよ。怪我したやつが悪いんだからな。

どうせお前、剣術の経験無いんだろ?」



「うん、無いよ」



「へへっ、じゃあ初めは俺が相手してやるからかかってこいよ」



木の棒をぽいっと投げられる。棒には布と動物の皮が巻かれてて、重さはそこそこ。おもいっきり叩いたら折れるようになってるのかも。怪我しないような配慮なんだろな。


棒を拾い上げると、相手の子は棒を頭の上に構えた。上段の構えってやつだ。何か楽しいな。



「コロウ…」



年甲斐もなく楽しんでしまっているところに、ダミカが心配そうに俺の名前を呼ぶものだから、思わずそっちの方を見てしまった。


明らかな隙だと思う。



「おらっ!」



声と共に、強く踏み込む音。


反射的に棒を持ち上げ、防ぐ形になった。


剣筋を見ることは出来なかったが、握る棒が強い力で叩かれる。防げた。


しかし、ダミカを心配させてる理由は考えずとも解った。なら安心させてやらねば。



「そこで見ててね、俺が強いところを見せてやるからさ」



とかっこつけてダミカに言った手前だけど、割と簡単に棒の持ち手を叩かれて負けてしまった。さっきは見てなかったにも関わらず、何故防げたのか?



「はっ雑魚が!」



吐き捨てるように罵倒される。うーん、確かに雑魚だったぜ。



「ごめんもう一回」



ただ、手加減はしてくれたのか、叩かれた所は痛くない。まだ出来そうだ。今度は初めから集中していくぞ、覚悟しろよ小僧。


構えは相手の真似をして上段で待ちの姿勢。腰を少し落とす。


すると相手は中段に構えてきた。睨み合いになる。


駆け引きはよく分からない。俺は待ちきれず一歩踏み出すと、相手の棒が動いた。


ヒュンと斬り上がってくるけど、何だか簡単に見切れた。届く攻撃じゃないな。


棒が鼻先を掠める。直後にもう一歩踏み込み、振り切った相手の棒に叩き付ける。



「いっ!」



相手の上体が引けた。足が残っている。


体重をつばぜり合いになっている棒に乗せて、右足と棒でバランスを取りながら左足で相手の残った足を蹴っ飛ばした。


「いでぇ!」



相手が転んで、棒を手放した。勝ったぜ!


と思ったら、皆から文句を言われた。



「それ無し!ズルだから!」



え?なんで?



「ちゃんと剣術使えよ!」



「卑怯者が」



「バーカバーカ!」



「何だその髪の毛」



「調子に乗ってんじゃねーよ!」



「お前の昨日の演説何なんだよ」



取り巻きなのか、ほとんどの男連中から集中砲火を浴びる。…流石に段々ムカついてきた。



「好き勝手言いやがって…。

お前ら並んで待ってろ、全員順番にぶっ飛ばしてやる」

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