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2-3

さて、虐めを受けた経験ならまあまあある。彼らがどの程度虐め慣れてるか…お手並み拝見といこうか。



「新人が勝手に挨拶しても良いのかが、わからなかったもので。

遅れて申し訳ないですけど、今から挨拶しても?」



もう誰に声をかけられたか忘れたので、目についた奴は全員見渡して問いかける。


誰も何も言って来なくなった。それどころかダミカの席の方で騒いでた声も止まった。


ふん?このぐらいで押し黙るとは逆に予想外だな。拍子抜けだぞ。



「…え?あいつ今なんて言ってたの?」



こそっと隣の奴に問うような、ごく小さな声が俺まで届いてしまった。


…なるほど、真実が掴めてしまったぜ。俺の言語スキルが低いから、皆聞き取れなくてぽかんとしてしまってただけみたいだ。こりゃ失礼。


まぁでも静かになったから都合が良いや。



「えー私、コロウと申します。

この身なりと特異な境遇もあって、生憎と世間の常識というものがわかっておりません。

今日より奴隷の皆さんのお仲間にさせて頂いておりますのもそれが理由であります。

言葉もろくに扱えておりませんが、先輩方には多岐に渡りご指導のほど、何卒よろしくお願い致します」



アドリブだから文面間違ってないかな?仕事場の他部署に行ってそれなりに丁寧な挨拶すればいちゃもんつけてくる人とか居なかったはずだけど。


誰かからのリアクション待ちでいると、シーンとした空気が満ちてくる。たっぷり7秒くらい誰もしゃべらなかった。



「何を言ってたのかよくわからないけど…よろしく」



戸惑いつつもって感じだった。


そしてそれに便乗するように、何人かがぽつぽつ挨拶を返してくれる。



「まぁ…よろしく」



「よろしく頼むよ…なあ」



「俺はキース。よろしくな」



うーん、今名前言われても多分覚えられん。でもここで覚えとかないと後で失礼になっちゃうもんなぁ。こまったなぁ。


俺がそんなことに困っていると、皆ぎこちなく食事を再開し始めた。木の食器が擦れる音が聞こえ始める。


ん?おいおい誰が飯を再開して良いと言った?まだ俺からの挨拶は終わりじゃないんですけどねぇ?



「ハイッ!よろしくお願いします!!」



最高に声張って言うと、何人かがビクッとしてた。



「それから、挨拶代わりに一つよろしいでしょうか!?」



「うるさっ、声でかすぎ」



「え、まだ喋る気?」



思わず声が上がるが知ったことではない。



「私はダミカさんの部下になりました。

ダミカさんは奴隷頭だと聞いております。もし他に奴隷頭の方がいらっしゃれば、その方の顔とお名前を覚えておきたいのですが!」



建前では、業務上必要だからねって感じで言う。すると何人かが他の奴隷に注目されていたけど、自分から名乗り出る人は居なかった。


まあそりゃ、こんなヤバそうな俺に目をつけられるのは避けたいだろう。まだ判断材料が少ない状況で、すぐに名乗り出るのはリスキーすぎる。だから黙っているのも理解できる。


しかし俺は黙らない。だったら都合よく勝手に勘違いさせてもらうまでよ。



「誰もいらっしゃらないのですね!

では、ダミカさんが私達のまとめ役ということでよろしいでしょうか?」



ダミカに絡んでた所ら辺に向けて言う。


するとその席に居た女の子の何人かが何も言わずに席を立って行ってしまった。


…こりゃ明日からどういう反応してくるかわからんな、顔は覚えてないからなぁ。まあ女の人だと覚えておけば多分大丈夫だろうけど。



「では私は新米ゆえ、上司へ確認したいことがいくつもございます!

食事中ですが、仕事の話をしてしまうかもしれません。ご容赦願います!」



俺は自分のコップとお皿を持って、ダミカの席まで向かってゆっくり座った。


誰からも止められず、誰からも俺をからかうような声をかけられない。


俺と関わるのは様子を見てからにしようということだろう。賢明だ、すばらしい。


そして当のダミカは、感情の読めない顔してじっと俺の顔を見てくる。


彼女からも変な奴だと思われてしまったかな?



「コロウ、さっき私に『さん』付けしてた」



「ぐっ」



あちゃー、ダミカには突っ込まれてしまった。そこはスルーしてほしかったよ。



「仕事の話するの?」



「ん?ご飯時は嫌かな?」



「大丈夫。熱心だなって思っただけ」



「まあ言葉覚えたいのもあるし。

えっと、仕事が特に忙しくなる日とかある?」



「ある。お祭りの前と後はずっと大変だった」



「それは…大変そう。お祭り近い?」



「ううん、あと半年ぐらい」



一年は360日で12ヶ月ある。30日で一ヶ月で、うるう年は無し。ちゃんとお月様もあるよ。



「祭りが終わって寒くなると楽だよ」



「寒い中働くのはやだなぁ」



「わたしはへいき」



「だろうね」



その自前の毛皮が羨ましいぜ。


ダミカと食べる食事は楽しかった。


食事の片付けが終わると寝床の部屋に集まることになった。奴隷が全員同じ部屋で雑魚寝するらしい。男も女も一緒だ。


ただ、ダミカは仕事のことで呼ばれていたらしく、その部屋まで教えてもらってからそこで別れた。


部屋の隅の方が人気みたいで、先に出ていってた奴隷から勝手に場所取りしてる。


ということはどこでも良いのか。そう思って人の少ないところで横になろうとすると声をかけられた。



「コロウだったよね、お前すげえ度胸あるよ」



笑みを浮かべて言うそいつはたしか…。



「えーっと、ギース?」



「惜しい、キースだ」



「間違えてたか、めんごめんご」



「へへ、全然悪びれてないね」



キースは15歳くらいで紫色の髪をした穏やかそうな男の子だ。キースに限らず大体奴隷は皆若い。俺が最年長かも。


…15歳というと、ケインさんと一緒にいた子もそれくらいに見えてたな。でもキースとは印象が大分違う。キースは田舎者の臭いがするというか、何かイモっぽい。そして同時にとても良い子にも見える。



「まあー、あれくらい度胸なんか無くても出来るんですよ」



「ははは、初日からこんな調子にのった奴隷も珍しいよ」



…調子にのってる?うーん、確かにそうかも。……そう言えば俺、夜寝てなかったな。それで重労働したから疲労が激しくて、変にテンション上がってしまってたのかもしれない。


なんか冷静になったらさっきの食堂での事、少し後悔してきたかも。



「コロウはもう寝るの?祈りはしないの?」



「ん?祈り?」



「ネビス様への祈りに決まってるでしょ。ほら」



キースが指し示す先には今日の夕食のメニューと一緒に木彫りの小さな像が台座の上に置かれてあった。その前で3人くらいの奴隷が思い思いに頭を下げている。


あれはネビス様の神像ということかな。



「しない奴も居るけど、ご主人様によっては奴隷に毎日祈ることを義務付けてることも有るらしいよ」



へえ、そういうもんなのか。信仰心を保つためなのかな。


そう考えると、主人側もネビス様の力に助けられている場合もあるということか。



「ああ、祈らせてもらうよ」



「それが良いよ、俺も毎日やってる」



先に祈ってる奴隷の後ろに座り、見よう見まねで祈り姿勢をとる。



ネビス様、奴隷を思いやって下さって有難うございます。予想と違い、とても良い暮らしをさせてもらえそうです。でも今日は同じ奴隷に虐められる奴隷もいるのだと思い知らされました。奴隷社会で生き抜くにはネビス様のご加護に頼ってばかりいてはいけないと言うことでしょうか?もしそのような意図も込められているのでしたら、俺も日々精進し、辛い思いをする子が減っていくような働きかけができれば良いなと思います。おやすみなさい。



祈りになったかどうかわからんけど、顔をあげるとキースはまだ俺のとなりで祈ってた。


邪魔しちゃいかんな。俺は先に寝させてもらおう。


横になると強い睡魔に襲われる。目を閉じると、久しぶりに屋根の下で眠れるからか、前の世界のことを思い出した。


自宅…柔らかなマットに布団。寝る前には毎日風呂に入れたし、スマホをいじりながら歯磨きだってしてた。


この世界ではどれも簡単には手に入らないだろう。でもそれで良いや。


俺はこの世界の一部になったんだ。前の世界の物をこの世界に持ち込む事なんてしなくて良い。それをするだけの知識もないし。


恋しい物は沢山あるけど、全て振り切ってから眠りに落ちた。深く深く眠れた気がした。

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